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見上げれば青空。まだ9時を回った頃だというのに、すでに日差しが強い。じりじりと腕が焼かれていくような気がする。
「晴れて良かったね」
隣を歩く透は、暑さをものともしない爽やかな笑顔を浮かべている。
「うん、試合には絶好の日和かもね」
熱中症にならないといいな……という一抹の不安は首の汗と一緒にハンカチで拭きとった。
「馨も朝から嬉しそうだったよ」
「サッカー大好きっ子だからね」
サッカーボールを目の前にした時の生き生きとした顔は、昔から変わらない。高校生になっても、馨は落ち着きとは無縁だ。透は大人びた顔をたまに見せるようになった気もするけど……。
ちらりと透の横顔を見ると、眩しそうに目を細めていた。それだけなのに、何故か胸がざわついた気がした。
「どうかした?」
「ううん、なんでもない!」
慌てて答えると、私は駆け出した。
「早く行かないと試合始まっちゃうよ!」
「え、まだ大丈夫だよ?」
透は首を傾げる。でも私の足は止まらなかった。
「あ、ちょっと待って!」
慌てた様子の透が、手に持ったランチボックスを気遣いながら、私の後をついて駆け出す。何だか大きなわんこみたい。
思わず笑みがこぼれた。
実際、走る必要は全くなかった。
「試合まで、まだ時間あるぞ?」
汗だくの私たちを見て、馨が困惑するくらいには。
でも、辺りを見回すと、すでに試合に向けての熱気が溢れている気がした。練習試合とはいえ、スタメンに入れるかどうかが決まる大事な試合なのだ。どの顔も真剣そのものだ。
そんな中で、馨には変な気負いは感じられなかった。昨日、絶対スタメンに選ばれてやるって豪語していたけど……。
「随分、余裕がある感じだね?」
「まぁ、今さら慌てても仕方ないし、凡ミスしないように平常心を保つだけさ」
「テストでもそれくらいゆとり持てたらいいいのにな」
透が茶化すと、うっせぇ、と噛みついていた。同じ大きなわんこでも、こちらはなかなか激しそうだ。
やがて、監督の声がかかって、透はベンチの方に駆けていった。
私と透は、近くの桜の木の下に座り込んだ。春先は淡いピンクの花を咲かせて可憐だった大樹も、今は鬱蒼とした緑の葉で包まれていて、良い日陰を作っている。日が当らないと、意外と風が涼しいことに気付く。
「馨、スタメンに選ばれるといいね」
「うん、それに試合にも勝って欲しいな」
運動は比較的得意ではない透も、スポーツを見ること自体は嫌いではないらしく、いつにも増して楽しそうだ。自然と私の気持ちも高揚してくる。心臓の音がいつもよりうるさい。
膝の上のランチボックスを、ぎゅっと力を込めて抱え直して深呼吸をした。




