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月と太陽と  作者: くさき いつき
第3章 応援
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2

 見上げれば青空。まだ9時を回った頃だというのに、すでに日差しが強い。じりじりと腕が焼かれていくような気がする。


「晴れて良かったね」


 隣を歩く透は、暑さをものともしない爽やかな笑顔を浮かべている。


「うん、試合には絶好の日和かもね」


 熱中症にならないといいな……という一抹の不安は首の汗と一緒にハンカチで拭きとった。


「馨も朝から嬉しそうだったよ」


「サッカー大好きっ子だからね」


 サッカーボールを目の前にした時の生き生きとした顔は、昔から変わらない。高校生になっても、馨は落ち着きとは無縁だ。透は大人びた顔をたまに見せるようになった気もするけど……。

 ちらりと透の横顔を見ると、眩しそうに目を細めていた。それだけなのに、何故か胸がざわついた気がした。


「どうかした?」


「ううん、なんでもない!」


 慌てて答えると、私は駆け出した。


「早く行かないと試合始まっちゃうよ!」


「え、まだ大丈夫だよ?」


 透は首を傾げる。でも私の足は止まらなかった。


「あ、ちょっと待って!」


 慌てた様子の透が、手に持ったランチボックスを気遣いながら、私の後をついて駆け出す。何だか大きなわんこみたい。

 思わず笑みがこぼれた。

 実際、走る必要は全くなかった。


「試合まで、まだ時間あるぞ?」


 汗だくの私たちを見て、馨が困惑するくらいには。

 でも、辺りを見回すと、すでに試合に向けての熱気が溢れている気がした。練習試合とはいえ、スタメンに入れるかどうかが決まる大事な試合なのだ。どの顔も真剣そのものだ。

 そんな中で、馨には変な気負いは感じられなかった。昨日、絶対スタメンに選ばれてやるって豪語していたけど……。


「随分、余裕がある感じだね?」


「まぁ、今さら慌てても仕方ないし、凡ミスしないように平常心を保つだけさ」


「テストでもそれくらいゆとり持てたらいいいのにな」


 透が茶化すと、うっせぇ、と噛みついていた。同じ大きなわんこでも、こちらはなかなか激しそうだ。

 やがて、監督の声がかかって、透はベンチの方に駆けていった。

 私と透は、近くの桜の木の下に座り込んだ。春先は淡いピンクの花を咲かせて可憐だった大樹も、今は鬱蒼とした緑の葉で包まれていて、良い日陰を作っている。日が当らないと、意外と風が涼しいことに気付く。


「馨、スタメンに選ばれるといいね」


「うん、それに試合にも勝って欲しいな」


 運動は比較的得意ではない透も、スポーツを見ること自体は嫌いではないらしく、いつにも増して楽しそうだ。自然と私の気持ちも高揚してくる。心臓の音がいつもよりうるさい。

 膝の上のランチボックスを、ぎゅっと力を込めて抱え直して深呼吸をした。


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