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月と太陽と  作者: くさき いつき
第2章 家族
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4

 霊園は一段と空気が冷えるようだった。特に日影がある訳でもないのに。

 私は深呼吸を1つしてから、お墓の間を歩いていく。多くの人に見守られているようで、何だか落ち着かなかった。隣を歩く和恵おばちゃんは、神妙ながらも、どこか明るい表情をしていた。


「何かいいことでもあった?」


「別にないよ?」


「そう? 楽しそうにも見えるけど」


 和恵おばちゃんは一瞬、考えるように視線を空に投げた。でもすぐに笑顔を見せた。


「そうね。こうして1年の報告を出来ることは嬉しいのかもしれないわ」


「嬉しい?」


「ええ。ちゃんと陽菜が大きくなったよって」


 照れくさくて、視線を外した。すると、もう目的地が見えた。


 月島家之墓。


 墓石の前にある左側の花瓶にはもう花が生けてあった。草も伸び放題ということはなく、掃除されている様子が見受けられた。


「お母さん、もう来てたみたいだね」


 どこかほっとした気持ちでつぶやく。


「仕事に行く前に来てたのかしら」


「仕事帰りに会わなかったの?」


「会わなかったわねぇ。姉さんの生活リズムは未だに掴めないわ」


 その点は私も同感だ。特に仕事に精を出すようになってからは、親子としての時間をほとんど持っていない気がする。その割には色々と把握されている様子もある。

 我が母ながら、何とも得体が知れない。

 だけど、お母さんが今日のことを忘れていなかったことは、やっぱり嬉しい。安心した思いで、右側の花瓶に来る途中で買った花を供えた。

 墓石の両側が向日葵で華やぎ、気持ちを表しているようにも見えた。


 お父さん。

 喜んでくれてるの?

 線香に火をつけ、和恵おばちゃんと並んで、そっと手を合わせた。


 お父さんが亡くなって、もう5年になる。

 実感は正直な所、あまりない。だけど、私は小学校を卒業し、中学校を卒業し、高校も後2年もしない内に卒業してしまう。時間だけは確かに流れている。

 それでも、あんなに元気だと思っていたお父さんが、癌だと告げられてから1年も経たない内に亡くなるなんて、未だに信じられない。

 厳しい顔も、優しい顔も、今でも鮮明に思い出すことができる。だから、涙がこぼれないのかもしれない。今日にも帰宅したら会える気がするから。

 会えるはずなんてないのに……。

 せめて安心してもらえるように、笑顔でいるよ、と今年も誓う。

 ふと隣を見ると、和恵おばちゃんが私の顔を覗きこんでいた。


「挨拶、終わった?」


「うん、終わったよ」


 頷くと、示し合わせたように2人同時に立ち上がっていた。

 綺麗に掃除されて、向日葵に彩られた墓石は、美しく見えた。

 向日葵の花の先を見上げると、傾いて尚、ぎらぎらと輝く太陽が見えた。眩しさに目を細めると、今更ながらに首筋に汗を感じた。


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