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月と太陽と  作者: くさき いつき
序章 約束
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――ごめんなさい。みわけられないの。


 口にした途端、目の前に並んだ2つの顔は見るからに落胆した。

 だいじょうぶだよ、もんだいないよ、と言いかけて結局口を開けなかった。どう言い繕っても更に傷つけるだけだと幼心にも分かったから。

 身じろぎもせずに3人は固まっていた。

 昼間の日差しがさんさんと降り注ぐ賑やかな公園の中にあって、静まり返った砂場は異質だったと思う。近所のおばさん達の甲高い声や、犬を連れたおじいちゃんの姿や、同い年くらいの走り回る子供達の足音が、すごく遠い。

 まるで別世界の出来事。


「ごめんなさい」


 いたたまれなくなって、もう1度つぶやくようにして謝った。だけど、それも何だか違う気がして……。だんだん目に涙が溜まってくる。

 私が泣くべき所じゃないのに。

 分かっていても勝手に涙があふれてこぼれそうになる。


「だいじょうぶだよ!」


 不意に目の前の男の子の1人が大きな声を出した。びっくりして涙がひっこんだ。

 だいじょうぶって……?


「うん、だいじょうぶ!」


 もう1人の男の子も頷いたかと思うと、2人は顔を見合わせて矢継ぎ早に喋り出す。


「みわけがつかないなら、おれはツキちゃんってよぶよ」


「んで、おれはヒナちゃんってよぶ!」


 目の前には怒りはもちろん落胆ももうなくて、ただ慌てた笑顔があった。


「そしたら、よびかたでわかるでしょ?」


 2人の声はまるで狙ったように綺麗にハモっていた。

 もう大丈夫なんだと思った。私は間違えない、見分けられる。たとえどんなに2人の姿形から表情まで同じだとしても。

 声を聞いた瞬間に分かる。

 それが嬉しくて私は笑った。


「うん、これでだいじょうぶ!」


「じゃあ、ヤクソクしよう?」


「ヤクソク?」


 目の前の男の子の1人が差しだした小指を、初めて見る物のように眺める。


「うん、ヤクソク。もしも、いつか――」


 突然、声が遠くなる。


「え、なに、もう1どいって!」


 だけど、もう声は聞こえなかった。男の子の姿がぼやけて、2人なのか1人なのか、分からなくなる。同じ顔が重なって離れて、ぐにゃりと視界が曲がった。

 遠くからけたたましいベルの音が聞こえる。


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