「旅館」「吟遊詩人」「札束」
「すいませーん、泊めて下さい」
「はいはい、どうぞ。代金は前払いになるけどよろしいですか?」
「金はありません」
「帰れボケ」
「え、金がないだけで態度変わりすぎ? ここ旅館でしょ、オレ、お客だよ」
「泊まるのに金なしなんて馬鹿かお前は。こっちだって商売なんだよ、金がない奴を泊めれるわけないだろうが」
「なにそれ。お金に敬意を払ってるの? お金に人格はないんだよ? 札束に品格はないんだよ? すべては使う人があってのものなんだよ」
「それがどうした。いくら良いこと言っても、今現在、旅館に泊まる金がないのは事実だろうが。うら若き乙女じゃあるまいし、一晩くらい野宿したって野垂れ死にしねぇだろ、さぁ出て行った出て行った」
「オレがうら若き乙女だったら、泊めてくれるの? じゃあ今日からオレはうら若き乙女ってことで」
「死ね馬鹿」
「ひどい、男女差別反対っ!」
「そんなガタイのいい男が裏声出すな、ついでにシナをつくるんじゃねぇ。気持ち悪いわ阿呆」
「まぁまぁ、落ち着いて落ち着いて。で、どうしたら泊めてもらえるー?」
「……ったく、しょうがねぇな。お前、なんか特技あるか? それによって考えてやる」
「おぉー、ちょっとデレた。言ってみるもんだねー」
「そろそろ旅館閉めるぞお前」
「やめてー、追い出さないでーっ! えーと、オレの特技は歌です、演奏ですっ!」
「歌? お前、吟遊詩人なのか?」
「そんな胡散臭そうに見ないで、ほらこれ、リュート。オレの商売道具っ」
「んじゃ、酒場で歌ってくれるなら、一晩泊めてやるよ。食事もつけてやる」
「おぉーっ、交渉成立ーっ!! 喜んで歌わせていただきますっ」
「旅館の隣が酒場だ、ほれ、これが部屋の鍵だ。荷物置いたら酒場に行け。酒場のオヤジにはこっちから話を通しておく」
「お、ありがとうございます、いやぁ、言葉づかい悪いけどいい人だねぇ、アンタ。女の子に人気があるんじゃない?」
「あってたまるか、私は女だ」
「……へ?」
「やっぱお前出てけ」
「そ、そんなーっ!?」