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序章 いきなり艦隊決戦? 1

 ブリッジは息を殺したような静寂に包まれていた。

 コンソールから漏れる無機質なハム音のみが広いブリッジいっぱいに響き渡り、それらを操作する多くのオペレーターたちが、データー処理に忙殺されていた。

 レーダーを監視するもの、僚艦との連絡を取るもの、火気管制に艦内チェック等と、オペレーターたちに与えられた役割は様々だが、彼らの目的はひとつだった。

 たったひとつの目的。

 敵艦隊の殲滅。

 そのために数十万人もの戦力がこの宙域に集結しているのだった。

 正面に据えられたモニターには、刻々と変化する敵艦隊が、模式図となって投影されていた。

 オペレーターたちはこの模式図を傍らで凝視しつつ、与えられた任務を全うしながら、やがて訪れる戦いの時を待っているのだった。

 これから起こる戦いは、国家や民族などという狭義なレベルの戦いではない。史上最大の艦隊戦であり宇宙戦。そしてそれは、人類の存亡を掛けた作戦でもあった。


 キリスト教歴20世紀末。人類は宇宙にその第一歩を記した。

 始めは化石燃料推進による稚拙な宇宙ロケットからだったが、急速に向上する技術により、それから僅か数百年後には超光速推進が可能なオメガ融合エンジンの開発に成功し、太陽系の枠を超えて、第二の大航海時代へと突入した。

 オメガ融合機関を手にすることにより数光年・数十光年離れた天体へと冒険の範囲を伸ばした人類は、アルファ・ケンタリウス恒星系で発見した可住惑星を皮切りに、幾つかの植民星を手中にし、増え続ける人口問題を一挙に解決した。

 そして超光速航行によるもうひとつの福音がもたらされた。

 人類以外の知的生命体との遭遇。ファーストコンタクトである。

 幸運に幸運が重なり、初めて接触した生命体が平和的な文化思想を持つ種族だったことから、銀河系に生息する知的生命体の星間連合体である銀河連合の末席に加盟することが出来たのだ。

 もっとも、良いことがあれば悪いことがあるのも世の常で、宇宙に進出した人類には、当然のことながら試練が待っていた。

 些細な……今となっては原因すら定かではない小さなきっかけから、人類は2千光年ほど離れた、惑星国家ディラング皇国との交戦状態に発展したのである。今から10年ほど前の話である。

 開戦初期の政策不一致から初動に遅れた人類は、敗走に次ぐ敗走を重ね、火星の絶対防衛戦付近まで侵攻を許してしまい、後一歩で陥落というところまで追い詰められてしまった。

 窮地に立った人類はそれまでの国家の利害を超え、全人類共通の政府組織「地球連邦」を樹立して、一致団結して戦争に臨んだ結果、ディラング皇国の大艦隊を太陽系外に押し戻すことに成功したのである。

 以来、一進一退の攻防を続けていた人類とディラング皇国だったが、1ヶ月前のシリウス星系攻防戦でディラング側の戦略拠点の攻略に成功したことにより、一挙に戦局が動いたのだ。敗色が強くなったディラング側は、起死回生の手段として、持てる戦力すべてを投入した総攻撃を敢行したのである。

 それを迎え撃つ地球連邦艦隊。人類の未来を託した最後の戦いが、今まさに始まろうとしていた。


「敵艦隊、総数約1700隻。想定旗艦を中心としたR−17ポイントに集結しつつあります!」

 レーダー担当士官のアラシアが状況を報告する。緊張のせいか若干声が上ずっているが、大一番を自覚したしっかりとした口調であった。

「我が方の艦隊は?」

「全艦艇920隻。D−34ポイントにて待機中です。みんな閣下の命令を待っています」

「ディラング軍の総数は我が軍の2倍の数か……」

 参謀たちがざわめく。ここでもまた初動の遅れが仇となり、ディラング軍との差がついたのである。

 喧々諤々するブリッジの中、連邦艦隊提督のオニール中将は、3Dディスプレーに映る両軍の展開を見ながら、時が満ちるのをじっと待っていた。

 それはまるで一瞬のようでもあり未来永劫続く長き時間にも取れた、とらえどころのない一時だった。

「提督」

 参謀の一人が瞑想中のオニールに声をかけた。

返事の代わりに薄く目を開き、懐にしまっていた懐中時計を見ると、作戦開始の時刻が迫っていた。

「艦隊の配備は?」

「先程すべて完了しました」

 副官が割って入るように報告する。数こそディラング軍の半分程度だが、万全の整備と演習を重ねた精鋭艦隊たちである。

「マイクを貸してくれたまえ」

 鷹揚に頷くとオニールは提督席を離れ、受け取ったマイクを持ってブリッジ中央に立つと、あたりを見回しながらゆっくり口を開いた。

「連邦艦隊全艦艇に告げる。

 長かったディラングとの戦争も、この一戦で全ての決着が付く。家族を、友を、愛する人々を奪ったこの戦争も、終焉のときを迎えつつある。

 しかし戦局はヒフティ・ヒフティ、全くの互角だ。

つまりどちらが勝利するかは、神のみぞ知る。その結果がもたらす未来は、敢えて言うまでもないだろう。ならば我々は勝とうではないか!

 明るい未来を勝ち取るために!

 そのために私は諸君らに号令する。

 全軍、前へ!」

 直立不動のまま、マイクを持った右手を握りしめ、将器代わりに前にかざす。その先にあるのは、暗黒の大河のようなディラング軍の大艦隊だった。

 その瞬間、人類史上最大の宇宙艦隊戦が開始された。

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