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アボガド売りの少年  作者: あまやま 想
18年後の世界
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大懇親会(2)

 あれから十八年の歳月が経ち、少年あの時の約束通りに日本へとやってきた。カナがサルドノを離れる時に別れ際にしたあの約束通りに…。


 つまり、ロベルトは算数でサルドノのトップに登り詰め、今まさに日本へ職務研修員として乗り込んできている。こんな夢みたいな話が実際に目の前で起こっているとは…。にわかには信じ難い。


 それは針に糸を通すよりもはるかに困難な事である。小学校で算数が得意になったぐらいではダメである。コレヒオ(日本の中学・高校に相当)にて数学で一番になり、さらに大学で数学を極めた上で、職務研修員に選ばれるために研究所で数学の研究や教員への指導を続けないと無理だ…。


 その上で、サルドノ共和国の大統領とか国会議員議長とかの覚えもめでたくないといけない。ボランティア集団協力隊の青年隊員との出会いによって、算数の面白さや素晴らしさに気付いて、算数で立身出世するというストーリーもよかったのかもしれない。


「それはよかった。で、ロベルトがカナに会いたい…と言っていたよ」


「嘘…。藤木君、ちょっと…からかっているんでしょう?」


「そんな訳ないだろう! 何で、俺がそんなことをしないといけないんだ?」


 藤木文生とカナのやり取りを遠巻きで聞いていた三人も会話に加わってきた。そりゃ、ボランティア集団協力隊経験者にとって、これほどうれしいニュースはない。


「カナちゃん、やったじゃん! 協力隊時代に教えた子どもが成長して、日本へ職務研修員としてやってくるなんて、素敵な話じゃないの!」


「本山さんの言う通りよ。こんなはっきりした成果を出すなんて、うらやましい…」


「圭子、帰って来てからすぐならともかく…、今さら成果を出したところで、何の実績にもならないよ」


「もう、何言っているのよ! うれしいくせに…。この!」


 里子から肘でつつかれた。圭子からも右から手で肩を軽く突っ込まれる。それを本山茂吉と藤木文生がうらやましそうに眺めている。


 そう言えば、ボランティア集団協力隊時代はいつも五人が集まると、女性三人がじゃれ合い、男性二人がそれを遠巻きに眺めていたっけ…。いくつになっても変わらないな…。戦友と呼ぶのにこれほどふさわしい関係があるだろうか?


 もちろん、大懇親会でも全体に共有すべき話題として、司会からロベルトが職務研修員として来日している事の紹介があり、私は壇上に上がらないといけなくて恥ずかしかった。


 もちろん、誇らしい気持ちもあるが、カナのやった事はきっかけに過ぎない。ロベルトが日本へ来る事ができたのは、彼自身の努力によるものである。何より、ここにいる全ての経験者が同じように二年間海外で試行錯誤しながらやって来たのに、カナだけがこのような目にあってもいいのだろうか…と言う思いもあった。


「それでは、ロベルト・エルナンデスさん、お願いします!」


 司会がそう言うと、目の前には三〇歳のロベルトがいた。少年時代の面影を残しながらも、立派な体つきの青年になったロベルトは片言の日本語で言う。きっと、日本語も必死になって勉強したのだろう。カナは心の底からボランティア集団協力隊に行ってよかった…としみじみ思った。


「カナ…センセイ。サンスウ、オシエテクレテ、アリガトウ…ゴゼイマシタ。オカゲデ、ワタシ、サンスウ、サルドノデ、イチバンニ、ナリマシタ。ソシテ、ニホンデ、サンスウノ、オシエカタノ、ベンキョウ、スルコトニ、ナリマシタ。ホントウニ、アリガトウ、ゴゼイマス!」


 ロベルトの挨拶の後、会場は割れんばかりの拍手がいつまでの鳴り響いていた。カナは遠い昔の事から今日までの日々を何度も反芻しては、涙があふれて止まらなくなっている。


 ロベルト、ありがとう。ロベルト、本当におめでとう。


 でも、これがゴールではなくて、今日からがまた新しいスタートだよ。日本でたくさん勉強して、今度はロベルトがサルドノ共和国へ帰ってから、サルドノ人の手でサルドノの教育を良くしていくんだよ。カナはそう願った…。

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