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アボガド売りの少年  作者: あまやま 想
本編1【赴任から最初の一年間】
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算数隊員研修

 そんな中で赴任から一ヶ月が経ち、九月に入った。九月には年に四回ある算数隊員研修が事務所で行われることになっている。そこで算数隊員は全員首都に行くことになった。私は初めてバスを使って首都・アプラヒクへと向かった。八時間もバスに揺られて…。


 それは不安と恐怖以外何物でもなかった。そこで同期の藤木君とオルデナプスで待ち合わせることとした。オルデナプスはサルドノ第二の都市でサルドノ西部や北部から首都へ向かうときは必ずここを通ることになる。


 ニウロクで働く彼もここを通る。ちなみにニウロクはサンホセと同じナコク県にある町である。一ヶ月ぶりにオルデナプスで藤木君を見た時、思わず泣いてしまった。


 これまで任地のサンホセにて、日本人が誰もいない中でただ一人奔走していたことで気が張っていたのだろう。たどたどしいスペイン語で思うようにコミュニケーションが取れない中で、ただがむしゃらに必死だった。その分、人知れず言葉にできない苦しさや辛さもあったことに今頃気付かされた。


 久々に日本人を見て安心したからだろう。彼はただ迷惑そうにしていたけど、首都に向かうバスの中でずっと話を聞いてくれた。彼もいろいろ話をしてくれた。やっぱり、似たようなことで悩み苦しんでいるようだ。さすがに男性なので泣きはしなかったが、久々に私の顔を見た時にほっとしたと言っていた。


 オルデナプスからバスで揺られること、四時間。無事に首都・アプラヒクに着いた。この国の道路は日本のようにきれいに整備されておらず、至る所に穴ぼこがあるし、土木技術が未発達なためにトンネルを掘る技術もない。


 そのため、道は山々を沿うように作られている。そのため、慣れるまでは酔い止め薬を飲まないと大変なことになる。私達はきちんと飲んでいたため、無事であった。


 先輩隊員の話によれば、このバスの揺れに慣れてきたら、バスの中で本が読めるようになるよ…とのことだった。とんでもない話である。まあ、バスを乗り継ぎ八時間もぼんやりと窓からの景色を眺めるもの今は楽しいが、飽きるのも時間の問題だろう。今回はオルデナプスから藤木君と一緒だったから、四時間は話しながら、バスの中で過ごすことができたのはよかった。


 一ヶ月ぶりに集団事務所に顔を出すとアドバイザーや先輩隊員がもうすでにそこにいた。その顔ぶれを見たら、今まで張りつめていたものが一気に緩んで、また泣きそうになった。


 でも、ここはぐっとこらえて笑顔で藤木君と一緒に挨拶した。それから事務所横のドルミトリオ(隊員宿泊所)に荷物を置いた。バスで八時間の旅を終えて、私はクタクタになった。


 バスでの移動は一日かかりである。これから二ヶ月に一度はこうやって移動しないといけないと思うと気が重くなった。翌日から三日間の算数隊員の研修・会合が終われば、またバスで帰らないといけない。


 早く慣れなくてはいけない。バス移動での疲れを感じさせずに、首都に着くとすぐに気分転換にカフェに出かけたり、必要品を買い出しに行ったりする先輩隊員を見て思った。


 翌日、集団事務所の会議室で会合が始まった。前夜、新隊員の歓迎会があり、久々に多くの日本人に合えた安心感から、つい、はめを外してしまった。そのため、少し頭が痛い。


 何事もなかったかのように任地での活動報告や意見交換会をこなす先輩達がとても頼もしく見えた。私を含めた四人の同期は活動を始めたばかりで、全くの手探り状態である。他の十人の先輩達の話を聞いて、勉強して行く以外、何もできずにいた。


 夜は集団事務所長やアドバイザーも含めて、みんなで食事をした。当然、お酒も入る。夜は夜で、昼間に話せないような裏情報がたくさん飛び交った。私はそれをスポンジのように吸収するしかなかった。


 昼は昼で勉強になるが、夜は夜で日本人が全くいない世界で生きていくための術を学べるので、また違った意味で勉強になった。そんなことをくり返しているうちに会合は終わっていた。


 帰りのバスの中でアドバイザーや先輩の話を振り返りながら、これからどうなるのかと、思いを馳せた。思いばかりが先行して、実際には何一つできない未熟者であることを、このときはまだ気付いていなかった。

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