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アボガド売りの少年  作者: あまやま 想
本編1【赴任から最初の一年間】
4/55

観光気分が抜けなくて…(2)


 現地語学訓練は首都・アプラヒク郊外にあるアイクラトナスと言う小さな町の語学学校で行われた。この語学学校はアメリカやドイツなどのボランティア団体の語学訓練も引き受けており、語学訓練だけでそれなに潤っているらしい。一般の方には訓練プログラムを解放していないのか、解放しているけど、誰も来ないのかよく分からないが、私達の訓練中は私達以外誰もいなかった。


 下宿先は一人ずつ違っていて、家に帰ると誰も日本語を話せる人がいない。嫌でもスペイン語が上達する環境にある。サルドノに派遣された同期五名はそれぞれの下宿先でスペイン語を磨いていった。また、この国の風習・文化を体に少しずつしみ込ませていく。


 ある時、トルティーヤ(トウモロコシをすりつぶしたものをクレープ状にして焼いたもの)とフリホーレス(小豆に似た豆を塩とラードであんこ状にしたもの)の単調な食生活に耐えられなくなって、下宿先の奥さんにお湯を沸かしてもらって、インスタントみそ汁を飲んだ。


あれほどインスタントみそ汁がおいしいと思ったのは生まれて始めてであった。もちろん、一人で飲むのも何なので、ご主人と奥さんと息子の三人にも飲んでもらうことにした。どうやら、お口に合わなかったようで三人とも難しい顔をしていた。


それから、当然のようにチリソースを大量にみそ汁の中に入れて、勢いよく混ぜた。それを三人はおいしそうに飲んでいた。食の国際理解を阻む壁は思った以上に高く、そしてとてもぶ厚い。


 試しにみそ汁の中にチリソースを入れて飲んでみたが、とてもじゃないが飲める代物ではなかった。同じ人間なのにどうして、こんなに味覚が違うのか不思議に思わずにはいられなかった。


 一方でカレールーを使って作る日本のカレーライスはとても好評である。あのような味は日本人と同じようにおいしいと思うようだ。ただ、サルドノではカレールーはめったに手に入らない上に、手に入ったとしても、一箱五〇〇円ぐらいするので、そんなに気軽にはふるまえなかった。


 後にカレー粉と小麦粉を混ぜながら炒ると、簡単かつ安くカレールーの代用品が作れることを先輩隊員から教わる。この方法を知ったおかげで、私は隊員連絡所に上がった際にはよくカレーを食べるようになった。


 下宿先ではよく食べ物の話をした。サルドノと日本の食べ物について、よだれをたらしそうになりながら、お互いに語り合ったことを、今でも懐かしく思う。


 語学学校はわりとゆったりとしていた。日本の訓練所と比べたら、時間にかなりのゆとりがあった。だから、学校が終わった後は毎日のようにカフェに行っていた。そこでその日出された宿題をしながら、これからこの国でやろうと思っていることなどを語り合った。


 いつだったか、日本にいる親にEメールを送るためにネット屋へ行った。すると、一組のカップルがずっと情熱的なキスをしていた。三〇分以上、チュッチュッ…と音を立てていたので、嫌でも意識せずにはいられなかった。これがラテン文化である。人目など全く気にしない。愛し合う二人には、私が隣でインターネットをしていることなど、全く目に入らない。そこにあるのは二人だけの世界だけである。日本ではまず考えられないことであろう。


 語学学校の最終試験は「スペイン語で算数の授業をする」か「スペイン語で講習会をする」かのどちらかである。私を含めた四人は小学校で活動するので前者を、保健所で活動する一人は後者をすることとなった。準備はかなり大変であったが、これから一人でスペイン語を使ってやっていかなければならないことを考えれば、必死にやるしかない。それができなければ、二年間何もできずに終わってしまうのだから…。


 どうにかして、最終試験に合格した私達は約一ヶ月間過ごした下宿先の家族と語学学校の先生達に別れを告げた。そして、アイクラトナスを離れて、また集団事務所がある首都・アプラヒクへと戻った。その後、一週間ほど赴任前研修を受けた。


 いよいよ、五人がバラバラになるのだ。それぞれの配属先の町で現地の人々とうまくやっていかないといけない。そこでは一人でいろんなものを切り開いていくしかない。そこには事務所のアドバイザーも同期もいない。


 一人でやっていくために必要なことをもう一度確認するための一週間である。でも、行った先のことばかりが頭に浮かんで、肝心の大切な情報をほとんど聞き漏らしていたように思う。今思えば、完全に舞い上がっていた。まあ、この状況で落ちついていられるはずもないから仕方ない。

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