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アボガド売りの少年  作者: あまやま 想
本編2【後半の1年間】
33/55

入院生活の後始末

 一週間の静養を終えて、任地へ帰る頃には一一月終盤になる。もう、その頃には学校も終わってしまう。なんともやりきれない思いだった。こんな形で一年を終えることとなろうとは…。このように私の一年は尻切れとんぼのとても残念な終わり方をするのである。


 せっかく活動もようやく軌道にのったと言うのに、デング熱のせいで不完全燃焼のまま終わってしまった。こんな苦しいことはない。やっと、これまでの弱い自分と決別して、日本に帰るまでの半年はこれまでの分まで活動を頑張ろうと決意をしていたのに…。それだけに実に残念な学年末となってしまった。


 ようやく、静養を終えて任地へ帰れるようになったのは一一月二〇日のことであった。約三週間も任地を空けたのは、一年半の間で初めてのことである。帰ってから、下宿先の家族にアソラナスの病院に連れて行ってくれたことへの感謝と、三週間も家を空けたことを詫びるために上等のコーヒー豆を渡した。


 また、翌日にはもうすでに子ども達のいない学校へ行って、校長にこれまでのことを報告した。校長は


「デング熱なら仕方ない…」


と言ってくれた。しかし、学校はもうすでに授業を終えていて、終業式と卒業式を残すだけだった。教員達が学年末の成績処理や教室整理に追われている。


 これだったら、まだ去年の今頃みたいにロベルトと学年末テストの再試験に向けて、マンツーマンで勉強をしていた方がマシとさえ思えた。それぐらい、デング熱による約一ヶ月ほどの活動中断を余儀なくされたのが痛かった。


 さらにアソラナスへ行って、宮本さん、静岡さん、鳴戸君の三人にもお礼をした。また、宮本さんには借りたお金も返した。まあ、このお金は後日、ボランティア集団共済会から保険金として戻って来る。


 オルデナプスの病院の代金は日本円でも約三十万と、とてもじゃないけど隊員が立て替えられる金額ではないので、ボランティア集団協力隊事務所が立て替えてくれることとなった。これはデング熱で入院した際の特例措置らしい。富士見さんが


「瀬戸さんは何も心配しなくていいから…。あとは私がうまいこととやっておくから大丈夫よ」


と言って、私を安心させた。


 一方で現地のサルドノ人がデング熱にかかったからと言って、簡単に入院できない現実も垣間見えた。三十万円なんて日本人でもそう簡単に払える額ではない。現地ではデング熱が重症化してデング出血熱になった時も何もできずに命を落とすこともまれにある。

 

 無料の診断所なら気軽に通えるだろうけど…。そこは日本で言えば、学校の保健室程度の設備と薬しかない。デング出血熱になった時に必要な設備も薬もないのだ。しかし、設備の整った私立病院は三十万もかかるので、ごく一部の金持ちしか使えないのが現状である。あまりにも、厳し過ぎる現状…。


 これまでは遠い世界の話であったが、自分が実際にデング熱にかかると遠い世界の話で終わらせてはいけないと痛感した。しかし、ボランティアで来ている私達に何ができるのだろうか…。カナは自分の無力さを改めて思い知らされる。


 こうやって、サルドノと私の一年間が終わった。二年間の活動期間の中で唯一、学期始めから学年末まで関われる一年間だったのに…。実に残念なことをしてしまった。


「カナ、お帰り! デング熱で大変だったらしいね。デング熱で弱った体にはアボガドが一番だよ」


「あら、ロベルト、久しぶり! 相変わらずね。ところで、学年末テストは合格したの?」


「もちろんだよ。カナが算数をみっちりと教えたくれたおかげで、無事に合格できたよ。これで来年は六年生!」


 唯一の救いはロベルトが無事に学年末テストに合格して、進級を果たしたことである。一年前、九九も分からなかった少年が、今では小数のかけ算だって、小数の割り算だって、すらすら解ける。


 彼の変化に一番驚いたのは、ロベルトは算数ができないと決めてかかっていた去年の担任・フェルナンド先生だった。


「これからは授業が分からない子どもを切り捨てずに、どんなに時間がかかっても面倒を見るよ。カナがロベルトにやったみたいに!」


 フェルナンド先生はカナに対して、このように言ってくれた。教師が「この子はできないから…」と決めてかかるのは、論外である。これをきっかけにして、フェルナンド先生には子どもの可能性を伸ばすことを第一に考えてもらえればと、願わずにはいられなかった。


 そのおかげかどうか知らないが、フェルナンド先生はこれ以降、学習上配慮を要する児童に対して、積極的に個別指導を行うようになった。実例を示せば、人は変わる事を改めて痛感させられる。

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