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アボガド売りの少年  作者: あまやま 想
本編1【赴任から最初の一年間】
20/55

隊員は日本文化宣伝員でもある

5月に中米列島最大の祭、カルナバルがある。ボランティア集団協力隊員も日本文化紹介のために毎年参加している。一度は断ったものの、カナも参加することにした。

 五月に入った。早いものであと一ヶ月もすれば、サルドノに来てから一年になる。五月には毎年サルドノ第三の都市・アビエカで中米列島最大と言われているカーニバルが行われる。(スペイン語ではカルナバルと言うので、以後はカルナバルと書く)


 私達、ボランティア集団協力隊員も日本文化紹介のため、毎年参加している。そのため、この時期はみんなで集まって「南中ソーラン」や「エイサー」などの演舞の練習をするため、みんなと合う機会も増える。


 もちろん、仕事もおろそかにできない。仕事もしっかり進めながら、文化紹介の準備を進めていく。でも、もともとラテンの国で仕事は日本よりもかなりゆったり進んでいくから、二つの仕事を同時に進めるぐらいが、日本人にはあっているのかもしれない。


 暇があり過ぎるとついつい悪いことやよくないことを考えてしまうので、私にはこの忙しさはありがたかった。


 ただ、とてもエネルギッシュな人が協力隊員には多いので、多くが「南中ソーラン」や「エイサー」など朝飯前だ。


 私みたいにサルドノに来てから、必要に迫られて、「南中ソーラン」や「エイサー」を覚えた連中はごく少数である。そのため、みんな真剣に練習をやっていて、なあなあでやっている人など一人もいない。


 さらに、当時の集団事務所長である屋形原やかたばる八兵衛はちべい所長がお祭り大好きな人で、仕事の合間に自腹をかけて、立派な神輿を作るような人であった。そのため、事務所全体が祭り一色となり、隊員にも一層熱が入った。


 その神輿は、男手二〇人はいないと運べない立派な代物であり、今でも様々な祭りの際には大活躍をしていると聞いている。


 トップがこんな感じだったので、この年はほぼ全員の協力隊員やシニアボランティアがカルナバルに参加した。


 初日の舞台では「南中ソーラン」や「エイサー」はもちろんのこと、「合気道」や「剣道」などの日本武道、「獅子舞」などの日本の縁起物の演舞披露、折り紙や茶道などの日本古来の文化紹介など、様々な物が分かりやすく紹介された。


 ここは山奥の任地と違って、カリブ海に面したまさに熱帯地方らしい土地柄もあり、特に開放的な人が多い印象を受けた。祭りの盛り上がりもすごく、合気道や剣道の披露の後、合気道を教えて欲しいとか、竹刀を触らせて欲しいとか…とあまりにも分かりやすい反応にびっくりした。


 そんなわけで、本来なら昼間の一回だけの公開であったが、あまりのアンコールの多さに夜も追加公演を行ったほどだ。このような形で日本文化を宣伝させてもらえることは本当にありがたい。


 二日目のパレードでは集団事務所長お手製の立派な神輿をみんなで交代して担いでは、アビエカの街中を練り歩いた。


 中米らしく、馬の行列や美女集団のきわどい水着姿など、ラテンのノリのパレードが多い中で、ねじり鉢巻にはっぴを着て、神輿を担ぐ日本らしい行進はとても目立つ。


 この年、立派な神輿を担いで、土佐のよさこいソーランの音楽に合わせて行進したことで、アビエカのカルナバル実行委員会から団体特別賞を頂けることになった。


 このことはサルドノで旧・国際協力事業団が活動していた頃以来二〇年ぶりで、今の民間主体のボランティア集団協力団体になってからは初の快挙であった。


 このとき、隊員が中心となって、「カルナバル日本文化紹介実行委員会」が作られ、委員長こそ先輩隊員がなったが、会計や庶務、現地交渉などの役には私の同期が就いた。


 私は任地が首都からもアビエカからも遠いことを理由に一度はカルナバルに参加することを断っていたが、他の同期が全て参加する中で、集団事務所長からも追加の参加要請があったこともあり、急遽参加することになった。


 また、他の同期との兼ね合いから何もしないわけにもいかず、同期の保健隊員の里子と保健係をすることとなった。そうは言ったものの、ケガや病気はよほどのことがない限りは、本職の人だけで十分で対応できるわけで、私は水やジュース、氷などの調達ぐらいしかする仕事はなかった。


 まあ、ここに来ている協力隊員やシニアボランティアはいい歳をした大人なので、


「脱水症状にならないように、こまめに水を飲んで下さい。あと、アビエカはサルドノの中でも特に暑い地域なので、しっかり帽子や頭にタオルなどをまいてください。場合によっては、頭から水をかぶって、体に熱がこもるのを防いで下さい」


と言えば、よほどのことがない限りは脱水症状にはならない。もし、なったとしても、早めに対処すれば大事には至らない。問題なのは、喉の渇きを我慢することだから、我慢しないようにすればいいのだ。


 そんなことを里子は言っていた。事実、カルナバルの間、誰一人として、脱水症状にはならなかったし、ケガもちょっとした擦り傷で二、三人消毒しただけだった。


 こんな具合で、実行委員が中心となって三月から進めてきたカルナバルの準備も日本文化紹介もパレードも無事に終えた。再び、みんなそれぞれの任地での仕事に専念することとなる。


 ただ、いつもと違って、日本人同士で仕事を進めていったので、そのよさと悪さを再確認するいい機会となった。いつもなら、周りにいるのがサルドノ人だけなのでのんびりとしていて、仕事が進まないことにイライラすることも多かった。


 しかし、しばらくサルドノ人からはなれていたことで、それもまたサルドノ人のよさでもあると改めて感じた。サルドノにずっといるせいか、最近、常に時間に追われる生活が本当に正しいのか疑問に感じるようになった。


 別に彼らが幸せなら、時間なんか気にせずのんびりとダラダラしながら、生活しても問題ないと考えるようになった。彼らに無理して、先進国のライフスタイルを押し付けなくてもいい。もし彼らが必要と思ったら、おのずとライフスタイルを変えていくはずだから…。

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