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アボガド売りの少年  作者: あまやま 想
本編1【赴任から最初の一年間】
19/55

腐らない食べ物

 ふと、長老は町のみんなからもらったプレゼントをどうやって持って帰るのだろうか?…と言う素朴な疑問が浮かんだが、そんなことを考えても野暮だと思い、カナは豚の丸焼きをスライスしたモノを食べることにした。


 豚の丸焼きは本当においしくて、野暮な考えなんかどうでもよくなってしまった。あと、野菜の酢漬けも適度に唐辛子の辛さが聞いていておいしい。


 かつて、夕食時に停電した際ににんじんと唐辛子を間違えて口に入れてしまい、口から火が出るのではないかと思うほどつらいめにあったことがある。それ以来、カナは停電時には野菜の酢漬けを食べないようにしている。


 ようやく、ヘスス長老へのプレゼントの受け渡しも終わり、誕生日会もとうとう終盤にさしかかった。ここでケーキが出てきた。こちらのケーキはスポンジにシロップがかかっていて激甘だし、外のデコレーションも日本ではまず使えないような毒々しい派手なピンクと水色のクリームで彩られている。


 多分、日本では使えない合成着色料が入っているに違いない。しかも、冷蔵庫に入れなくても腐らない。防腐剤もふんだんに使われている。それでも現地の人はとてもおいしそうに食べる。


 カナも初めこそ抵抗があったが、一度食べると力強い甘さのとりこになり、今では現地の人と同じように食べる。甘いモノが苦手な人にはかなりつらいらしいが…。実際、藤木君は甘いモノが苦手なので、ケーキはいつも一口だけもらって、後は他の人に上げるようにしていると言っていたっけ…。


 電力供給も安定しておらず、冷蔵庫があったとしても、思うように使えない国である。何より冷蔵庫を持っていない家庭もまだ多く、腐らないケーキが出回る前はケーキが夢のお菓子だったとベレン先生が教えてくれた。その話をケーキ食べるたびに思い出す…。


 確かに腐らないケーキなんて、どう考えても体に悪い。冷蔵庫などの衛生設備の行き届いた先進国であれば、体に優しいがすぐに悪くなってしまういちごショートケーキも問題なく食べられる。


 しかし、冷蔵庫もろくに普及していない国でいちごショートケーキを食べることは場合によっては命に関わることである。すぐに腐るようなものを常温保存すれば、食中毒の危険がつきまとう。そのため、途上国では採れたての果物以外は全て火を通して食べなければいけない。


 そんな所で暮らしている人にとっては、食品添加物の危険性よりも食中毒の危険性の方がはるかに大きいのだ。そんな人達に対して、


『腐らないケーキなんてどう考えても体に悪いですから、食べないほうがいいですよ』


 なんて口が裂けても言えない。そんなの先進国からやって来た人のエゴである。郷に入れば郷に従えと言うではないか。腐らないケーキのおかげでこんな山奥の小さな町でもケーキを食べることができる。


 はたして、この国で何も考えることなくいちごショートケーキを食べられる日が来るのだろうか…。かなは誕生日会がから引き上げた後、部屋の中でぼんやりと考えていた。


 腐らないのはケーキだけじゃない。パンだって、防腐剤がたっぷり入っているから、何ヶ月常温保存していても、カビ一つ生えない。いくらここが千メートルの高地であったとしても、ここは熱帯の国だから常に日本よりも温暖であるのに…。


 もちろん、パンだって、防腐剤で処理される前はケーキ同様に夢の食べ物であったらしい。


 それが腐らないパンができてからはこんな山奥の小さな町でも食べられるようになったのである。大人たちはまだ腐らない食べ物が不自然であることは感覚として分かっているようだが、生まれたときから腐らないケーキやパンを見て育っている子ども達はケーキやパンは腐らないモノであると誤った感覚を身につけているようである意味危険だ。


 しかし、途上国で新鮮な食べ物が豊富に流通している訳でもないので、多少危険だと分かっていても腐らない食べ物に手を出してしまうのだろう。そして、腐らない食べ物は管理しやすいからか、とても安価で手に入る。これこそが貧しい国で腐らない食べ物が爆発的に普及した最大の理由である。


 それにしてもアメリカと言う国は実に抜け目のない国である。テレビでケーキやパンのある生活を見せつけてから、冷蔵庫のないような国にも腐らない食べ物を作って売りつけるのだから…。そうやって、国際援助した分…いや、それ以上のお金を巻き上げていくのだ。


 ちょっと生活が向上した中進国にはテレビや冷蔵庫、車などを売りつける。そうやって、アメリカは自分の裏庭を巧妙かつ大胆にコントロールしていく。

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