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アボガド売りの少年  作者: あまやま 想
本編1【赴任から最初の一年間】
18/55

ヘスス長老の誕生日(2)

 夕暮れ、町のあちこちからヘスス長老の八八歳の誕生日を祝うために町中の人々が集まってきた。もちろん、ヘスス長老の家に町中の人々が詰めかけることはできないので、市役所横にある集会場で行われる。軽く百人ぐらいは集まっているだろうか? 


 すでにバリアーダー(トルティーヤにフリホーレスとチーズを挟んだもの)とアナフレ(フリホーレスと炒めたひき肉を混ぜたものに、トルティーヤを一口大に切って油であげたものを添える)を肴にみんなビールやラムコークなどを飲んで楽しんでいた。日本で言えば、乾杯の練習みたいなものか?


 しばらくすると、ようやく市長に連れられてヘスス長老がやってきた。八八歳と言うわりにはかくしゃくとしていて、とても元気である。八八歳であれだけピンピンしているとは、うちの婆ちゃんは八〇過ぎてからずっと寝たきりだと言うのに…。


「ヘスス長老はサンホセの宝であります。それではサンホセの町で一番のご長寿であるヘスス長老の八八歳の誕生日を祝って、乾杯!」


 市長は乾杯の挨拶をすると、会場は大いに盛り上がった。それにしても、一人のご長寿のために、町を上げてお祝いをするとは…。日本ではまず考えられない。まあ、平均寿命が六〇歳足らずのこの国では八八歳と言うのは大変な長寿にあたる。


 ヘスス長老の次に長生きなのは七〇歳を過ぎたばかりのアレハンドラ婆ちゃんらしい。カナはいかにもヨボヨボの婆ちゃんよりも幾分若く見える長老の方が二〇歳近く年上である事実に驚かされる。


「やあ、町のみんな。私のために集まってくれてありがとう。そろそろ、お迎えが来ると思っておったけど、今年もまた誕生日を迎えられてよかったよ」


 会場の半分以上は長老の言葉を全く聞かずに、好き勝手飲んで食べて騒いでいる。まあ、そう言うお国柄なので仕方ない。しかし、中にはきちんと聞いている人もいて、長老の言葉を聞いて笑っていた。聞いていない連中が至る所で、


「おい、今、長老が何て言ったの?」


と聞いている。さすがに笑い話には目のない人々である。それが一段落すると、長老の面白い話を聞くために注目する。さすがは長老。だてに八八年生きている訳ではない。


「長生きはするもんだね。おかげで日本からきた美女に出会うことができるんだからね…。ところでその子は会場に来ているのかい?」


 長老に集まった注目が今度は私の方に集まる…。私は思わず、ビールを吹き出しそうになった。同じ席に座っていたベレン先生が急に立ち上がった。まさか…


「長老! その娘はカナと言いまして、今、うちで下宿しています!」


「おお、カナと言うのか…。ちょっと、こっちへ来てもらえないだろうか?」


「カナ、長老がお呼びだ。こちらへ来なさい!」


 しかも、長老の横に座っている市長からも来るように言われるなんて…。この流れで拒否とかできない…。ええい、なるようになれ! ビールを一気に飲み干してから、カナはヘスス長老の元へと向かった。会場のみんなの目線が痛いぐらい体中に突き刺さる。


 長老の元へたどり着くと、長老が突然立ち上がり、会場に向かって大きな声で言った。


「カナ、遠い海の向こうから、サンホセの町に来てくれてありがとう! 私はこのような歴史の瞬間に立ち会えて、本当に幸せじゃ…。町の者を代表してお礼を言います」


 長老の言葉は短かったが、とても力強く感情がこもっていた。会場からはあふれんばかりの拍手がわき起こり、カナは恥ずかしくて何だかこちょばい気持ちになる。これ、長老の誕生日なのに…。


「ヘスス長老、誕生日おめでとうございます! 私こそ、このような場面に立ち会うことができてとても幸せです」


 主役はヘスス長老だ。そう思って、どうにかこうにか挨拶を返すと、またしてもあふれんばかりの拍手が起こった。こんなことなら、いつもみたいに話半分できいてくれた方が気は楽である。よし、これで席に戻れる…。そう思ったのも束の間、今度はベレン一家がプレゼントを持って、長老の元へやって来た。


「長老、お誕生日おめでとうございます。これはカナと私達一家からです」


「おお、ベレン、ミゲル、ダニエル、マリオ、カナ…ありがとう」


 プレゼントを渡すと、ベレン一家四人がそのまま席に戻るので、カナもそれに合わせる形で席へと戻った。


「カナのおかげでプレゼントを早く渡せてよかった」


「先生…」


「毎年、プレゼントをなかなか渡すことができなくて大変なのよ」


 さすが、ベレン先生である。ベレンがそう言ったそばから、長老にプレゼントを渡そうと次から次に席を立ち上がっては、長老の所へ向かっていた。

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