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アボガド売りの少年  作者: あまやま 想
本編1【赴任から最初の一年間】
15/55

前にしがみつくのに必死だった

どうにかして頑張ろうとするものの、全く思い通りにならず、カナは完全にふてくされていた。それを見かねた藤木は…。

 二月中旬、全国統一地区研修のお手伝いも無事に終わった。その後、予定より二週間遅れてサルドノの新学期が始まった。私は去年みたいに活動を中途半端にしたくなかったので、活動校を二つに増やした。しかし、活動校を二つにしたからと言って、隊員活動が充実するわけではなかった。


 そのことが私を一層、失意のどん底へ突き落とすこととなった。もう活動どころではなくなり、首都・アプラヒクで行われる定期健康診断に合わせて、私は一週間ほどの休暇を取ることとなった。


 そして、太田次長や春川事務員といろいろ相談した。それこそ、任期短縮して日本へ帰ることも含めて話し合った。結局、このサルドノに残って頑張ると言う答えを出したが、そのためには今の下宿先を変えないといけないと言うことで一致した。


 今回のことは遠山さんが適切に対応しなかったことも、問題がこじれた原因である。そこで太田次長が遠山アドバイザーに対して、この問題を放置したことを注意した。そのことは私を安心させた。


 そんな中、多くの同期が新しい一年を踏み出していた。これまでの半年で、任地での足りないものが分かった同期が、任地の教員との研修会や勉強会を計画し、またすでに実行に移していた。みんながそれぞれの任地で試行錯誤をくり返しながらも、任地での自分の役割を見つけようとしている。


 それに引き換え、私ときたら、全く任地での活動を軌道にのせられずにいる。それどころか下宿先とのトラブルすら解決できずにいた。また、活動校の同僚とも全く打ち解けずにいた。相変わらず赴任時と同じように、ただ学校へ行って、算数の授業を見ているだけの生活を続けていた。


 もはや、サルドノに初めて土を踏んだ時の高揚感や期待感は全くなく、失意と不安が私の心を支配している。海外生活への期待が高かった分、力強く失意のどん底に叩き付けられた。私は完全にうつ状態になっていた。


 もう、なにもやる気が起きなかった。首都の隊員連絡所で意味もなく、ただぼんやりしていた。となりに事務所があるので、見かねて遠山さんや春川さんが私に声をかけてくれたが、わたしにはどうすることもできなかった。


 朝、起きることができずに昼過ぎまで寝ていた。それから、ネットしたり、マンガを読んだりして、意味もなく夜遅くまで過ごした。外に出るのは食事をするときだけで、心も体もどんどん不健康になっていく。それなのに、どうにもならない苦しさがあった…。


 どうにかして、自分を変えなくては…。自分から変わっていかないといけない…。そう思っていたのに、体は言う事を聞いてくれない。気持ちが焦れば焦るほど、体は頑固に動けなくなる。こんなに苦しい状態になったのは生まれて初めてである。


「カナ、ちょっといいかな」


 藤木君が見かねて、私に声をかけた。彼も私と同じように健康診断でずっと隊員連絡所にいた。ただ、彼は首都にいる間に事務所のアリソス現地コーディネーターと任地で行う初めての講習会のための打ち合わせをしたり、サルドノの教科書を読み込むための有志の勉強会をしたりしていた。


「ここなら、誰もいない」


 彼に誘われるまま、私達は外のテラスに出た。彼の顔には苦悩の表情が見え隠れした。多分、私達は穏やかな話はできないだろう。彼は私の堕落した生活に、あきれかえっているはず…。


「カナはここへ何しに来たの?」


「ボランティア集団隊員として、ボランティア活動をするために、ここへ来たに決まっているでしょう!」


「俺にはそうは見えないけど…」


「私だって、好きで精神的に病んでいるわけじゃないし…」


「そうやって、すぐ言い訳を見つけて、いつも逃げてばかりいる。そんなのずるいよ」


 ここが人の出入りの多い場所でなければ、私はこらえ切れずに泣いていただろう。彼は同期で歳も近いからこそ、言わずにはいられなかったことも痛いほど分かる。でも、厳しい言葉だけで人を救うことができるなら苦労しない。


「藤木はコツコツと活動を進めているからね。本当にうらやましいよ。私だってね…、藤木みたいに気持ちよく活動を進めてみたいよ…。あんたに、この気持ち分かる?」


「本当にそう思っているのか?」


「そりゃ、そうでしょう。今だって事務所でアリソスさんと話し合って来たんでしょう? ニウロクの研修会のことで…」


「違うんだよ。どうやら、講習会が中止になりそうなんだ。そこでカナにお願いがあるんだけど…」


「何それ?」


「まあ、いいから、とりあえず、聞いてくれよ」


「……」


「講習会を合同でやらないかい? 急なお願いだってことはわかっている。でも、そうすれば、任地の教員だけの勝手な判断では中止できなくなる。そして、事務所の支援も得やすくなる。どうだい? せっかくだから、一緒にやらないかい?」


「そんなことを急に言われてもね…。ちょっと考えさせて…」


 そう言って、私は外のテラスを後にして、建物の中に入った。藤木君の提案はとてもすばらしいものであった。もしかしたら、今の閉塞した状況を突き破ってくれるかもしれない。私はこの提案にのることにした。

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