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アボガド売りの少年  作者: あまやま 想
本編1【赴任から最初の一年間】
14/55

ついに爆発!

 スペイン語模擬授業研修は二日間にかけて行われた。一年目と二年目の隊員関係なく、全員が授業を行う。


 また、サルドノ教育省と良好な関係を築くために、首都郊外にあるサルドノ国立教育研修センターでこの研修は毎年行われる。私は初日に行いたかったが、くじ運が悪く、二日目に授業を行うことになった。


 もう、次の日の担当授業が気になって、全く他人の授業を聞くことができなかった。私は「割り算」の授業をするつもりでいた。そのため、割り算の決まりや等分除や包含除の違い、割り算の筆算の位取りなどの割り算の要点をしっかりと押さえたものにしようと必死だった。


 ところが、急にサルドノ教育省が新学期の前に臨時の全国研修をすると発表した。研修に参加した教員へ特別手当を出すことで政府と教員組合の和解が成立したのだ。


 ここに来て、新学期も始まることとなる。これはこの模擬授業研修にも大きな影響が出た。まず、二日間かけて、ゆったりと行われるはずだった研修が一日半に短縮された。


 二年目の隊員は前年度も研修を受けていることから、この非常事態に研修免除となる。そして、先輩達はそれぞれの任地で行われる全国研修のお手伝いをするため、任地へとんぼ返りした。


 また、二日目に予定されていた打ち上げが一日目に変更になる。私は自分の担当授業がまだ終わってなかったし、体調がいまいちよくなかったので、打ち上げには行かなかった。今思えば、それがいけなかったのだ…。


 もし、あの日、無理してでも打ち上げに顔を出していれば、翌日の大失態は免れたかもしれない。なんで、「大きな仕事の前日は酒の席には顔を出さない」なんて変なこだわりを捨てられなかったのだろう。


 翌朝、起きるとみんなの動きが慌ただしい。まだゆっくりできる時間のはずなのに…。


「おい、何のんびりしているんだ。今日は午前中で研修を終わらせるために、開始が一時間早まったんだぞ。ほら、早くしないと本当に間に合わないぞ!」


 藤木君のこの一言で、私は我を失った。頭にどんどん血が上っていく。どうして、開始時間が九時から八時になったことをきちんと教えてくれない。どうやら、打ち上げのときに遠山アドバイザーが伝えたとのこと。


 なんで、そんな大事なことを飲み会で言うのか? それは昼間伝えるべきことではないか? 私は九時からのつもりでいたから、前日は早めに寝て、朝から仕上げをするつもりでいたのだ。


 気付くと電話口で遠山アドバイザーに対して、怒鳴り散らしていたのだ。後で他の人に聞いたところ、


「カナって、穏やかなイメージがあったのに…。あんなに怒るなんて…。かなり意外だったな…」


 さらに最悪なことに、私は意地を張ってしまった。みんなが


「準備なら、あっちに行ってからでもできるから、一緒に行こうよ」

と言ってくれたのに、


「無理だよ。きちんと準備しないと行けないよ」


と言って、ふさぎ込んでしまったのだ。しばらくすると、電話が独りでに鳴り続けた。このままではいけないと思い、私はどうにか準備をすませ、一時間遅れで研修センターに着いた。ちょうど、私の番であった。


「朝からお騒がせして申し訳ありませんでした」


と一言謝ってから、どうにかしてスペイン語での模擬授業を始めることができた。しかし、どんなにいい模擬授業をしたところで、朝の大失態を帳消しにはできない。取り返しのつかないことをしてしまった。


 模擬授業が終わった後、遠山さんと集団事務所にて話し合いを持つこととなった。間に集団事務所の太田次長も入り、この度のことは「双方の勘違い」によるものであり、どちらも悪意があったわけではないと間を取り持ってくれた。


 仏頂面の遠山氏と苦笑いの太田次長、それにはさまれた私は、ただ自分のやったことを恥じるのみである。


 このことで同期や先輩隊員から

「あと一年半も任期が残っているし、今回の全国研修で新学期開始が二週間ほど遅れるらしいので、しばらくゆっくり休めばいい」


と言われた。しかし、もう去年の一二月から二ヶ月も休んでいたのに、これ以上休んでどうするのか…。私は模擬授業研修が終わって一休みすると、任地へ帰り、全国研修の後にある地区研修の手伝いをすることにした。そうすることで、この一年を少しでもいいものにしようと心に誓ったのである。

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