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アボガド売りの少年  作者: あまやま 想
本編1【赴任から最初の一年間】
13/55

泥沼…

思い通りならない現実と自らの理想にゆれるカナはどうしたものか思い悩み続けていた。そんなとき、ボランティアの指導力向上を目的とした研修が行われることとなったが、いろいろな動きに翻弄されて、カナはとうとう感情を抑えきれなくなる。

 任地・サンホセに戻ってから、一月末のスペイン語模擬研修授業に向けて準備をしていた。

 これは二月から始まるサルドノの新学期に向けて、指導力と語学力の向上を目的に毎年行われるものである。私はとりあえず、模擬授業の準備に専念することで、他の問題から目を背けようとしていた。


 しかし、一方で大家さん一家との関係は悪化するばかりだった。私はただ「私が不安の時、勝手に部屋に入らないで!」とお願いしているだけなのに、


「カナがいないときに部屋を使って、何が悪いの?」


と日本人の感覚では全く理解できない返事が返って来るだけ…。私はついカッとなって、ケンカになることもしばしばだった。


「文句があるなら、もう家賃を払わなくていいから、出て行ってくれ!」


と言われる始末である。


 このままではいけないと思い、遠山アドバイザーとも相談したが、遠山アドバイザーは


「そんなことでケンカをしてどうするんですか? とにかく、大家さんに謝って下さい。田舎では集団事務所の基準を満たす家がなかなか見つからないんですから…」


と言うだけで何もしてくれなかった。遠山さんは男性だから、か弱き乙女心など全く理解できないのだろう。せめて、話を聞いてくれるだけでも、ずいぶん楽になれると言うのに…。一方的にボランティア集団協力隊事務所側の言い分だけ聞かされるとは思いもよらなかった。


 これが、かつて「困った時は何でも相談して下さいね」と発言した人のやる事だとはにわかには信じ難い。それとも遠山さんは解離性障害でも持っていて、時間や場所によって、違う人格でも出てくるのだろうか?


 やめよう…。こんな形でストレス発散しても、自分をおとしめるだけで何一ついいことはない。カナは気持ちを切り替える事にした。


 二月から新学期が始まるので、町の教育事務所長や活動校の校長と打ち合わせをしようと思った。しかし、教員組合がストライキを計画しているため、学校を始めることはできないと打ち合ってくれない。


 政府が約束していた賃上げをしないため、政府が賃上げをするまで、ストを続行すると組合は息巻いている。それに対して、政府は教員給料の支払い停止を発表したため、ストは泥沼の様相を見せていた。


 ロベルトは相変わらず、私の所にアボガドを売りに来るついでに、私の所で算数の分からない所を聞いていく。学校が始まれば、再び学校で質問するようになると思うが、学校が始まらなければずっとこんな日々が続くことになる。ただ、ロベルトのやり取りは私をほんの少しだけ楽にしてくれた。


 ロベルトのおかげで、大家さんとのケンカも、遠山アドバイザーとのつまらぬやり取りも、何とか乗り越える事ができた。私にもロベルトのように純粋で無邪気な心を持った少年時代があったはずなのに…。


 また、ブランカさんの家に週に二回は行って、スペイン語の練習を兼ねた会話や、スペイン語模擬授業研修などの仕事に使う文章の添削などを楽しんでいた。サルドノ人みんながブランカさんのように、我々、日本人に理解があれば、どれだけ楽に隊員活動が進められることか…。また日々の生活もかなり楽になるだろうに…。


 このようにロベルトやブランカさんとのやり取りをのぞけば、公私ともさらに行きつまり、私はさらに追い詰められた。どうにもならない思いを抱えたまま、私は首都・アプラヒクへ向かった。


 せめて、このスペイン語模擬授業研修をきっかけにして、この難局を切り開きたいと願う。しかし、この願いは叶うことはなかった。願いは見事に裏切られ、最悪の展開を迎えることとなる。

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