ep1
改稿しました。
若干の補足、設定変更はありますが内容はほぼ改稿前とかわりません。
次話は本日12時に更新予定です。
俺は死んだ。死因は些細な問題なので割愛しよう。死んだという事実さえ伝わればそれでいい。
そもそも、俺はずっと死にたかったしな。
なんで死にたかったのかと問われても、大仰な理由なんてものがあるわけじゃない
俺みたいな無価値な人間は死んだ方が世の中のためであり、むしろそれは自然の摂理といっても過言ではないだろう。
要するに、要らない子は死んじゃえばよくね? ってことだ。
そう、それが例え自分自身であったとしても。
まあそんな訳で普通なら狼狽して然るべき現状も嬉々として受け入れられた。
死んだという事実は喜ばしいことなのだが、今はどうでもいい。
それよりもこの現状はいったいなんなんだ。
死んだという実感はあるのだが、意識も体も持ち合わせている。
そしてそんな俺の前には男が一人。
いかにも怪しげで、例えるなら塔の頂上にいる即死耐性を持たないようなこいつはもしかして――
「ご名答。いかにも君たち人間のいう神という存在だよ」
神ね。ここにチェーンソーがあればまずバラバラになるか試したいところだな。
「残念ながらバラバラにはならない。それよりも君はおかしな人間だね。無神論者の多い国民だということ差し引いたとしても、この状況に疑問を持つのが普通だとおもうのだが」
苦笑いを浮かべながらそんなことを言ってくる自称神。
ご期待に沿えず申し訳ないが、俺の期待に答えてバラバラにならないのならばお相子だと言わせてもらおう。
死んだ実感はあるので、ある意味怖いもの無しだし、それ以前に俺のような重度に二次元をこじらせた人間にとってこの程度のことは驚くに値しない。
ヲタクなめんな。
「君が、いや君達というべきかな。君達のような人間がこのような状況に耐性があるということはよくわかったよ。それはさておきだ、まあ予想はついていると思うのだが、君には所謂転生というものをしてもらう」
「だが断る」
脊髄反射的に反応してしまったが、まあ使いどころは間違っていないだろう。
そもそもようやく死ねたというのに、転生して人生やり直せと言われても罰ゲームでしかない。
「悪いが君に拒否権はない。これは決定事項だからね」
拒否権無しの決定事項ならこの状況を作った意味がわからん。
気付いたら転生してました、というテンプレを知らないのか? ラノベ読めラノベ。
色々と突っ込み所はあるのだが、第一なんで俺が転生しなきゃいけないんだ?
「君を選んだ理由かい? 簡単に言えば単なる嫌がらせだよ」
嫌がらせで転生ってスケールでかすぎだろ。
それ以前、お前は俺になんの恨みがあるっていうんだ。
「恨みがあっての嫌がらせではないのだけれどね。自分を無価値だと信じて疑わず、死にたいと願う人間なら誰でもよく、偶々君だったというだけの話だ」
俺でなくてもいいならチェンジしてくれ。
そんな罰ゲームを受けて喜ぶような特殊な性癖はしていない。
「たった今言ったばかりだろう? これは決定事項だと。まあただ転生させるだけだとなにも変わらない生前と同じような人生を送るだけで、なにも面白くないからね。新しい人生を始める上で君には望むだけの力をあげるよ。自身を無価値だと信じて疑わなかった人間が、意識はそのままに神から与えられた力というこれ以上ない価値を手に入れどんな人生を送るのか、とても興味深いとは思わないかい?」
卑屈な人間に力を与えたってまともな結果が出るとは到底思えんがな。
断固拒否したいところだが、このままだと変な能力を貰って転生するなんていう結果になりそうだし、ここは一応交渉だけでもしておくところだろう。
「その力っていうのはなんでもいいのか?」
「ああ、なんでも言ってくれてかまわない。君自身の望む力でないと自分自身を信じることなどできないだろう?」
どんな力をもらったところでそれはただの借り物で、自分自身の価値の底上げにはならないと思うのだがな。
だが、くれるというのなら俺の考えうる限り最高に姑息なものを請求してやろうじゃないか。
「犬をくれ」
「どんな力でもいいと言っただろ? わざわざわかり辛い表現をしなくてもいいのだよ。それにしても犬とはね、なかなか面白い力を要求してくるじゃないか」
俺の求めた犬っていうのは、ゲームなどのプログラムのメモリ領域に介入しまたメモリを書き換えることを可能とするフリーソフトの名前だ。
世間一般でいうチートっていうのはこのメモリ領域を書き換えた結果を指すものなのでチートを作るソフトだと想像してもらえばわかりやすいだろう。
「犬をあげるのはいいのだが、そのままというわけにはいかないな。もっとも与える力が大きすぎるからという訳ではない。あれをそのまま与えたとしても使いこなすことはまず無理だろうというのが理由だね」
言われてみればそのとおりで、ゲームという多くとも数ギガの容量のなかでも何万桁というメモリが存在するのだ、それが現実のものとなったときそのデータ量は計り知れないだろう。
「そうだね、無口属性の宇宙人がもつ情報操作能力といえばわかりやすいかな? ああいった形の力として君に贈るよ」
分かりやすいといえば分かりやすいかもしれないが、それは人間のスペックで使いこなせるのだろうか。
一回使ったら脳が焼ききれるなどという状況は勘弁してもらいたい。
「大丈夫だと思うよ……多分」
多分とかそれでいいのか神……。
まあそれで死んだらそれはそれでいいことだろう。
罰ゲームを早期終了させられると思えばなんの問題もない。
「さて、与える能力も決まったところだし、早速転生してもらおうか。与えられた力を使い英雄になるのも破壊者になるのも君の自由だ。ただ、私を楽しませてくれることを期待しているよ」
――また会おう――そんな不吉以外の何物でもない神の言葉と同時に俺の意識は途絶えた。