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転生しました。  作者: ひろ
改稿前
10/22

予想外でした。

「それでここがわたしの部屋になります」


 この子は何を言っているのだろう。

 俺は転生してから何度目になるのかわからないため息をつく。

 「転生してから」というよりも、「リーナの言動に対して」と言った方が正確かもしれない。

 この世界で俺と交流をもったのは彼女だけであるからして、ため息の要因となるのもまた彼女以外にありえない訳ではあるのだが、それにしても彼女の突拍子もない言動はいささか度が過ぎているのではないかと思わずにはいられない。


「聞き間違いかも知れないが、今ここがわたしの部屋って言わなかったかい?」


 俺の発言は確認というよりもそうあって欲しいという願望である。

 俺は現在ギルドが用意してくれた住居にリーナとともに訪れている。

 俺一人で暮らすには十分すぎると言っていい広さをもったそこを案内されていたわけだが、その一室の説明として彼女が発した言葉が上記である。


「あ、ごめんなさい。ジョンさんの部屋と逆の方がよかったですか? あっちのほうが日当りもいいですからそういう部屋割りにしたんですけど。ジョンさんはこっちのほうが良かったですか?」

「そういう意味では無く。なぜ、俺と、リーナが、一緒に暮らすことが、前提となっているのかを聞いているのだが」


 ギルドから所謂メイドさん的役割としてリーナが派遣されるということは俺も理解している。

 だが、今までの説明では一緒に暮らすことになるとは言われていなかったはずだ。

 当然、一緒に暮らすことになるのであれば住居の提供などうけるはずがない。

 百歩譲って俺が一緒に暮すを受け入れるとしても、恋人同士でもなんでもない俺と彼女が暮すことを世間が許すとは思えない。

 俺の考えは前の世界の常識を元にした考えであり、こちらでは一般的なのかも知れないが、だとしてもそれが受け入れる理由にはならない。

 つまりは断固拒否である。


「え?だってジョンさん今朝それについての書類にサインしたじゃないですか?」


 書類ね……。

 確かに俺は今朝書類にサインをした。

 だが、決してこのような状態に陥る気配など微塵も見せないようなやりとりだったはずだ。









「おはようございますジョンさん。予定より一日早いですが住居の用意ができました」


 就寝中であった俺のもとへ再び襲撃をかけてくるリーナ。

 おきぬけの寝ぼけた頭ではあるが、彼女の顔がこれでもかというほどに輝いていることだけはわかる。


「おはようリーナ。それはよかった。じゃあおやすみ」


 先日の早朝の謝罪劇の後、機嫌を治したリーナに引きずられ、新居でつかう様々なものの買い物をする羽目になった俺である。

 身の回りの世話はリーナにまかせっきりになることは確実であろうし、そう考えればリーナに決定権があるのは仕方ない。

 正直金だけ渡すから好きに買ってきてくれと言いたい気持ちは山程あったのだが、それをやってしまうと何かまずいことが起こりそうな予感がしたため、素直に付き合った次第だ。

 一日中付き合わされた俺としては、まだまだ寝ていたいのである。


「だめです、起きてください。ジョンさんにはこの書類にサインしてもらわなきゃいけないんですから」

「それ書いたらもう少し寝かせてもらっていいかな?」

「それならいいですよ。一度書類の処理にギルドに戻ってからまた来ますのでそれまでなら」

「わかった。それでいいよ。じゃあ書類貸してもらえるかな」


 リーナから書類を受け取りサインをする。

 どうせ住居やら街付き冒険者についての契約の書類であろうから特に目を通す必要もないだろう。


「はい。これで大丈夫です。ではわたしは一度ギルドに戻りますので、また後で。おやすみなさいジョンさん」

「おやすみリーナ」



 以上回想終わり。


「その書類ってもう一度見せてもらっていいかな?」

「あ、まだお渡ししてなかったですね。これがジョンさんへの控えになりますのでどうぞ」


 書類を見ると、確かに下の方に小さく但し書きとして「契約者はギルドから派遣されるものと共に暮す」と書いてある。

 例え書類に目を通していたとしても、寝ぼけた頭でこれに気づくはずがない。


「えっと……。街付きの冒険者になるとこれって普通のことなのかな?」


 当然のことであってほしい。

 それならばまだ世間の目も気にならずにすむ。


「いえ、通常ならばギルドから派遣される職員は通いでの交代制なはずです」

「それがどうしてこうなった」

「わたしもよくわからないんですけど、なんでも派遣するギルドの職員を決める時に神の使いが現れて一緒に暮らさせるよう指示したそうです。ギルド運営は神との契約の元に成り立っているので、基本的に神の啓示を拒否することはありえません」


 なんというか……。

 これだけは確実に言える。

 神は今俺が困っているところを見て笑っている。

 絶対にだ。


「事情はわかった。だけどリーナはこれでいいの? 俺と一緒に暮すことになるなんて、リーナにとってマイナスにしかならないと思うんだけど。契約上しかたないっていうんなら一緒に暮すということにしておいてリーナは今までどおり生活するってこともできると思うよ」


 ギルドは神の手先なので契約の撤回は無理、俺自身も神の思惑でこの世界にいる以上一度契約してしまったことを覆すのは気持ち的に許せない。

 ならせめてもう一人の当事者であるリーナが拒否してくれるのであれば、まだ救いがもてる。


「今までギルドの宿舎に住んでいたんですけど、そこはもう引き払うことになっているのでそれはできません。それに……わたしジョンさんとなら……」


 どこぞの残念な主人公のように、彼女の言葉の後半部分は聞こえなかったことにするとして、とりあえず受け入れたという格好だけを整えるという俺の作戦は失敗に終ったようである。

 ならばここは資金力を生かして俺が別の場所で生活するべきであろう。


「ジョンさん……あたしと暮すのいやなんですか……」


 目を潤ませて上目遣いでそんなことを聞いてくるリーナ。

 正直反則である。

 可か不可かと聞かれれば当然不可な訳ではあるのだが、いまの彼女に不可とつげるにはよほどの胆力の持ち主でなければ不可能であろうし、残念ながら俺はそのようなものは持ち合わせていない。


「いや、別にそういうわけでは……」

「じゃあいいんですよね?」

「……はい」


 ヘタレとののしってもらってもかまわない。

 今ならその汚名もあまんじて受け入れよう。


「これからよろしくお願いしますね。ジョンさん」


 状況に流され拒否できない俺が悪いのか、そんな状況を作って楽しんでいる神が悪いのか。

 どうにも判断に困るところではあるのだが、多分その両方だろう。

 ただ一つ、これだけは言っておきたい。


 この世界の元になったゲームのジャンルはいったいなんなんだ!と。


 これからもこんな問題が続くのではないかという半ば確信めいた予感を胸に、俺はまたため息をつくのであった。

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