魔女との出会い
今回はちょっと短いです。
意識を取り戻して直ぐ
知らない天井が目の前にあった。
「ん?」
小柄な黒髪少女が、ベッドの近くにいる自分の顔を覗き込んでいるのに気づく。
「あっ!」
赤面し、慌てて
残像すら残る勢いで少女が柱に身を隠す。
あまりの出来事にしばし唖然とする。
「ごめん、驚かせるつもりはなかったんだけど」
すると柱からひょっこり顔を出す少女。
(うわっ、小っちゃい!)
光裕が驚くのも無理はない。少女の背は小学生くらいの妹と同じ背の高さで、手足も、もちろん背も低かった。くりくりとした目に整った顔立ちをしており、さらに色白の肌。黒曜石のような瞳に、濡れ鴉のようなしっとりとした髪。小柄な体型も相まってとてもかわいらしく魅力的に見える。
「傷?いたくない?お兄ちゃん」
「そう、よかったぁ」
安堵の笑みに少女は、顔をほっとしたようにものに変える。
そこで少女が、光裕をじいっと見た。
「む~~?」
上目遣いでじいっと見つめられる光裕。
(な、なんだろう?)
何らかの意図があるのかもしれないが
心当たりがないため、光裕は戸惑うしかない
すると少女は顔を一旦うつむける。
「あのね?」
まるで告白するようにもじもじした後、決意した顔でバッと顔をあげ、きり出した。
「……光裕お兄ちゃん!待ってたよ」
(な、なんだろう?)
光裕は混乱した。
少女に見覚えはない。
とはいえ詳細な記憶がところどころ失われているため、自信もない。
微動出しにしない光裕に最初は真剣な顔だった少女は次第に納得しない表情を浮かべ初め、ゆっくりと身を離す。
黒曜石のような綺麗な瞳が光裕の顔を覗き込む。
引き込まれそうな黒に光裕はなぜか見透かされたような気分になる。
「あの、私の名前、覚えていませんか?」
「ごめん、覚えてない」
罪悪感を感じつつ、真実を答える光裕
「……」
少女の顔が花開くような笑顔から一転無表情になる。しかし、それも一瞬。 光裕が気がつくこともない。少女は笑顔で自己紹介した。
「こんにちは、私は、ミューズといいます」
「みんなには、魔女って呼ばれているんです」
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自己紹介後あれからミューズは光裕の視線から逃げるようにして柱に隠れている。
ミューズは不思議な子だった。
見た目小柄な少女なのに、時折大人のような言葉遣いで話す。
さっき自己紹介した時だってそうだった。
だが、今は大人の人格が身を潜めたのか、子供っぽい仕草が目立つ。
小屋にいるのは二人だけ。
「(ちらちら)」
髪の毛の先端が柱からはみ出てゆらゆらと揺れている。
本人はあくまで盗み見ているつもりなのだろう。
がバレバレで、落ち着かないことこの上ない。
なせここまで見られるのか光裕は分からなかった。
警戒されているのかもしれない。
光裕は、思った。
(こんな小さい子を怖がらせるのはよくないな)
外は怖かったが、光裕は、すぐ小屋から出て行くことに決めた。
起き上がり、扉の前に歩いていく光裕を不思議そうな目で見るミューズ。
「光裕お兄ちゃん、どこ行くの?」
「もう元気になったし、そろそろ出て行こうと思うんだ」
実際は、体のあちこちが痛いし、足もフラフラしているが、光裕は口に出さない。
「ヤダ!!」
まるで駄々をこねる子供のように光裕の手に自分の手を重ねるミューズ。うるうるとした上目遣いで見つめられ、光裕も思わず身じろぎしてしまう。
「迷惑になるかもしれないし」
「迷惑でいいよ!」
「俺ネクラだし、」
「私もネクラだよ!」
衝撃の告白だった。
「……」
「……」
気まずい沈黙が部屋を覆う。
硬直した二人。
やがてゆっくりと再起動する二人。
「いかないで!ここにいて!一緒にいようよう!?」
「ミュ、ミューズ……」
目蓋に熱いものがこみ上げるのが分かった。
光裕は感動していた。さっきの俺達の恥ずかしい告白などもう忘れた。
この世界に来てここまで優しい人間にあったのはこれが初めてだった。
どこの馬の骨とも知らない自分にここまでしてくれる。そんな光裕にミューズの言葉を断ることなどできようはずもなかった。
「ああ、俺もミューズと居たい」
気がつけばそう答えてしまった自分が居た。
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薄暗い部屋
ギルドの人間は、ある冒険者に依頼をしていた。
それは例のギルドからの『勇者捕獲』の依頼だった。
「つまり勇者召還があったから、捕獲して欲しいと」
面倒くさそうな声は冒険者のものだった。
逞しく引き締まった痩身の赤毛の青年が暗闇にうっすらと浮かび上がる。
「まったく……戦闘は苦手なのに」
「嘘おっしゃい、」
別の声があがる。それは少女のものだった。艶のある赤い髪と燃えるような赤い瞳をした小柄な少女。容姿から考えて似ているこの二人はどうやら兄妹らしい。
「嘘とは酷いね」
「嘘は嘘でしょ。火属性の魔物のフレイムリザードをわざわざ同じ火の魔術で焼き尽くした人の言うせりふじゃないわよ」
フレイムリザードとは数千度の熱にも耐える毛皮を持つ火口や砂漠にいる1~3メートルの巨大な四足のトカゲの魔物のことだ。
「あれは、弱かった」
「いや、理由になってないから」
「それにしても……面倒な話ね」
男と同じく赤い髪をした少女はため息をついた。
実のところ似たような姉妹だ。
兄は野蛮を嫌い、妹は面倒を嫌う。
「そもそも勇者の場所すら分かっていないじゃない」
そう。実際勇者の捕獲を請け負っても、居場所を特定できなくては意味がない。
「実は、我々はもう勇者の場所を掴んでいるのです」
「ふーん、つまり私達はそこにいけばいいってわけね」
少女は疑問を挟む様子は無い。
驚くこともしなかった。それは興味がないからでも、理由を知っていたからでもない。
ただきくのが面倒だったからだ。
「今、勇者は、魔女と一緒にいます。『ルーバルト』の町から南にある。『地獄の森』その北の結界の中にある小屋に勇者は、潜んでいます。我々以外にも既に3組そこへ向かっていますので、急いだほうがいいかもしれません」
そのギルドの使いの言葉には、さすがに兄妹も絶句した。
「ってことはなに!?私達、後回しにされたわけ!?」
「ひどいね」
「他の3組は、『(100柱)』の手のもので、我々とは情報系等からして違うので……」
慌てて弁解するギルドの使いの男。
言い訳めいた言葉の羅列に妹は、顔をしかめる。
「……まあ、いいわ。聞く限り報酬はいいみたいだし」
どうやら聞くのが面倒くさくなったらしい。
「面倒だけどやってあげるわ、その勇者にも興味があるし」
気だるい笑みを浮かべ、彼女は笑った。
勇者を狙う冒険者は刻一刻とその数を増やしていく。その事実を当人である勇者も魔女もまだ知らない。
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