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村の前で立ち往生?2

「なんだ?俺はもういいと言っているだろ!!いい加減にしろよ!!」


「あなたがスパイかもしれない以上、野放しにはできないのよ。分からない?」


光裕は、思考した。そしてさっと顔を変えた。。

最悪の予想が思い浮かんだからだ。


「俺を……捕まえ、いや、殺すのか?」


「そうね」


あっさりなんでもないようにアリシアはいった。

光裕は、驚愕していた。



「たとえ間違ってても、人間なんて殺しても罰なんてないしね」


気軽なまるで散歩に行くかのような口調で話す見た目かわいらしい少女が、光裕には悪魔に見えた。


――敵だ

理解した。理解したと同時に心のさざなみがだんだん収まっていく。

アリシアが門番二人に視線を向けた。

意味は分からないが、殺す算段でもしているのだろう。

光裕の頭が冷えていく。なぜか落ち着いていた。


この世界は、現実の世界とはなにもかも違う。それを理解していたつもりだった。

だが、本当は何一つ理解していなかったらしい。

なんとかなると漠然と思っていた。甘かったと自分を殴ってやりたいと思った。


ふと腕の時計を見た。光裕の癖だ。光裕は、時計を見る。受験の時、授業の時、待ち合わせのとき、落ち着かないとき、1人で部屋にいるとき、眠る前、誰かが死ぬ時でさえ時間さえあれば時計を見た。

異世界で唯一自分であることを証明するデジタル時計は、相変わらず12時から動かない。タイマーには31100491という数字。初めて見たときは、31104000とあったからあれから一時間も経過していない。


いつのまにか光裕の頭もどこかおかしかった。冷たく落ち着いている。あの空から落ちたときと同じように落ち着いていて、波一つたたない水面のように静かだった。


光裕はよそ見した瞬間攻撃すると思っていた。しかし、攻撃はない。目の前に向き直る。


騎士道精神だというつもりか、光裕は皮肉を内心抱く。門番は動かなかった。


光裕が目を向けると門番二人が改めて槍を向ける。


アリシアは冷たい目で光裕を見ている。


逃げることは――できそうもない。


背中を見せれば瞬く間に容赦なく慈悲なく、殺されるだろう。


――なら、やることは一つだけ。


「ステータス」


呟きと共に心の中でスキルの一覧を見ることを要求する。目の前にウィンドウが現れる。


スキル 


影走り、ラッシュ、ツインラッシュ、スマッシュ、当て身、


スペル


風の式 風の教え 風の剣 風の盾


ステータス画面から切り替わり、瞬く間に習得しているスキルが現れる。それだけでなくいつのまにか習得したスペルも現れる


効果を検証する暇はない。使ったことの有る『空歩』は、便利だが、直接の戦いには向かない。名前から効果を予測し、すぐさま選ぶ。


そこまでやったところでアリシアが手をこちらに向けた。


「セット!スキル1!!」


光裕は呟き、横に思い切り飛んだ。

スキルスロットがスキルですべて埋まり、一斉に表示される

スキル1 空歩

スキル2 スマッシュ

スキル3 ラッシュ

スキル4 風の式

スキル5 風の剣


「火の式、赤の悪魔よ我に力を、【ファイヤタワー】!」


呪文と共に光裕の身長の二倍ほどの火柱が、さきほどまで光裕のいた場所を容赦なく

焼き尽くす。


地面さえ焼き焦がす。

それを横目で見ながら、光裕は、安堵し、瞬きの間もなく安堵を崩される。


「ふんっ!!」


回避に安堵する間もなく、空気を切り裂くような音とともに、一閃。

門番の振るった槍のなぎ払いは鋭く、人の胴などあっけなく折るだろう。


――当たればの話だ。


光裕の体は着地の硬直などないかのように地を蹴る。

羽のように空高く光裕の体が空高く浮き上がる。

「なんと!?」

驚愕するも手は止めない。

すぐさま槍を引き戻す間にもう1人の門番が、光裕に追いすがる。

「ただの人間ではないことはわかっていたが、空中で動きはとれまい!!」


門番は二人いる。

一方をフォローするように放たれた刺突。

空中では方向転換できないため、普通であれば、これで終わる。

だが、突き出された槍の一撃を前に光裕はただ一言。


「……スキル1」


その一言だけで光裕の体が、空を蹴る。


空中にある目に見えない壁を蹴り、光裕の体は、門番

の背後をあっけなくとる。


「くうっ!?」

「スキル2」

振り向こうとした門番の背中に光裕の一撃が当てられる。どすっとした鎧の上からでも強く叩きつける一撃を当てられ、門番がその場に崩れ落ちる。スキルを放った光裕の右腕が腫れ上がり、そればかりか青白くなっている。鈍い痛みに顔をしかめ、折れたかもしれないなと冷たくひとりごちる。


「フェイル!!」


その悲鳴のような言葉と共に背後から槍が追いすがる。


「スキル1、スキル5」


回避しつつ、空を飛ぶ光裕の右手に水色をした透明な剣が握られていた。槍の一撃は、剣に当たり、外側へと逸らされる。

「くうっ!!」

剣は、槍の一撃を逸らした後も残る。


「兄さん、離れて!!」


少女の声に空気が震え、歪む。


「火の式、赤の悪魔よ我に力を【フレイムミラージュ】」


呪文と共に3メートルはある巨大な炎がアリシアの頭上に現れる。


アリシアの兄が、光裕から離れた瞬間、巨大な火の玉が迫る。

以外にも速度はそこまで速くない。そう思っていた。


「ラッシュ」


男の声と共に光裕の

目の前に黒い点がいくつも見えた。


いや、それは点ではない。いくつもの槍の突き。目にも留まらぬ速度で繰り出される刺突の雨。

離れたと思ったアリシアの兄のスキル攻撃だ。


右手の剣を振るう。

足は止まっていた。


――熱はすぐそこまで迫っていた。

回避はもうできない

――回避は容易なはずだった。

進行方向先に槍がなければ……。

――



すでに槍の持ち主は近くからいなくなっていた。


さっきまでの冷たい思考はもうなかった。


迫る火球を見た。

スローモーションのようだった。

あたりを見た。色を失った世界。走馬灯のような景色。



冷たい視線が四つ。


光裕はその目に怯えた。

敵意と憎悪と圧倒的な無関心に

消えていた恐怖が蘇る。

さっきまでの自分はしょせん自分ではないのだ。


許されるなら土下座して命乞いだってする

空宮 光裕は本来そういう男だ。


間違っても、二人の門番の男と魔術師の少女相手に冷静に戦える男ではない。


いかな頑丈な体とはいえこの炎には叶わない。


光裕は死を確信した。

それでも諦めきれるわけはなく、みっともなく右手の剣を振るった。


「ああああああッ!!」


絶叫と共に風でできた剣が、巨大な炎の塊をわずかに切り裂くが、それだけだった。


「スキル3!!」


発動した『ラッシュ』のスキルにより無数の剣戟が炎へ向けて放たれる。一撃なら無理でもニ撃、三撃ならどうか?

それを裏付けるように見る見るうちに炎は、中ほどまで切り裂かれる。


けれどそれだけ

光裕の死は揺らがない。


「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああ!!」


死を前にして光裕は絶叫した。

狂おしく、涙を流しながら、そして――炎は、光裕を飲み込んだ。



_______________

___________

_____


真っ暗な町があった。いまだ夕方にすらなっていない西方の大陸とは違い、この場所は夜になっていた。二つある赤と蒼の月が、それぞれ西と東の夜空を照らす。その二つの月の光に照らされ、光裕がいる遥か東の町のある酒場で二人の男女が話していた。

「ちょっと前に来た勇者って生き残ると思う?」

夜になり、賑わいだした酒場で、尋ねたのは、女性の声だった。

それに対し、男は

「無理だな」

冷たく言い捨てた。


「なんでよ」


「永友に聞いた。勇者が落ちたのは地獄の森だ。どんな特

殊能力があったとしても、レベル1では生き残ることができん」


「ふふ、本当にそうかしら?」


「どういう意味だ?」


「さっき竜退治から帰ってきた久木が言ったんだけどさ、勇者は12人なはずなのよ」


「それくらい言われずとも知っている。それがどうした」


「13人なのよ」

男は硬直した。ありえないものを見るような目を目の前の女性に向けた

「12人の間違いじゃないのか?」


「いいえ、あなたにはいってなかったけど最近12人目が見つかってね。今は私達の組織で占い屋をやっているわ。だから、12人目じゃない」


「ありえないはずの13人目、あははっ、この世界の神すら予測していないんじゃないかしら」

女性の言葉に男が腕を組み考える。この世界に召還する勇者は東方、西方それぞれ6人までと決められている。それはこの世界の東方、西方それぞれの神の意思であり、絶対の戒律。破ろうとすればその国の加護は、消え、天災が引き起こされるだろう。事実7人目を召還しようとした国は、三日で滅びた。そこまでしても13人目の勇者は召還できなかった。そのことをいやというほど経験した男は、信じられない想いだった。


黙っている男にかまわず目の前の女性は謳うように語る。

          ロキ

「予感がするのよ、13人目は必ず生き残る。なんたってこの世界の神の摂理を一度破っているんですもの、それがたとえレベル1でも、ありえない手段で乗り越えるはずよ」


酒場の騒がしい喧騒の中、女性は子供のように13人目の勇者について語り続けた。まるでオトギ話にでてくる王子を語るように目を輝かせながら、しまいには男もうんざりしたのと眠いので、その場で眠ってしまう。男が眠った後も女性は、興奮冷めやらぬ様子だったが、やがて寝た。静かになった酒場に静寂が落ち、夜は更けていく。



______________________________

________


白い大理石でできたバルコニー

月夜の晩、白銀の髪をした少女がいた。


東方で天使と呼ばれる彼女は、西方をじっと見ていた。


勇者が来た。

それは彼女も感じていた。


彼女は戸惑っていた。

勇者が東方か西方のどちらに属するか見分ける力を天使は持っている。


いつもであれば、邪悪か、清らかな気を感じるはず


その勇者からはなにも感じない。


不吉を感じた。


天使は、無表情の裏で内心に苦悩を抱えて、夜を過ごした。

_____________________


森の中のある小屋に小柄な少女がいた。


昼にも関わらず

少女は、眠っていた。


「っ!!」


が、なにかよくない予感を感じ、起き上がる。


小屋の中には少女以外誰もいない。


少女は魔女と呼ばれる存在だった。


だから少女は1人だった。


友人は一人もいない。


皆少女を恐れる。


少女は人には近づけない森に隠れ住むしかなかった。


少女は既に感情を失いつつあった。


声すら失って久しい。


その少女の喉が動いた。


「……光裕お兄ちゃん?」


そう呟く少女の髪は黒髪。


少女はその後、眠ることもせずただじっとどこかを見ていた。

いつのまにか浮かべていた少女を睡眠から叩き起こした焦燥の色は、消えていた。

夜になっても少女は、身動きをしない。

しかし、それはどこか生き生きとしていた。

無表情ながら目には爛爛とした輝きがあった。

暗くなり、物音一つしない部屋で少女は、黄金色に輝く瞳を光裕のいるだろう方角へ向けている。

やがて少女の顔に三日月の切れ込みが走る。

哂った。少女は確かに子供のように哂った。


「……ふふ」


いつのまにか笑顔すら浮かべていた。

少女は待つことに楽しみさえ感じていたのだ。

少女の夜はまるで夢のようにゆっくりと過ぎていく。止まっていた時間が、少女の世界の色をゆっくりと取り戻していくように、カチリ、カチリと。


少女の腕にも時計はあった。膨大な時を経ても不思議と壊れていないデジタル時計。リストベルトに撫島と書かれており、心なしか光裕のものと似ている時計には、、同じような機能もついている。

時刻は光裕と同じく12時を指したまま。

だが、タイマー部分にある数字は違っていた。

そこにある数字は天文学的数字だった。

本来ならありえないマイナスで表示されているその数字は、確実に少女のなにかを示している。


その数字の意味はこの世界の神ですら、すぐには思いつかないだろう。そして全知全能の神が、思いつかなければ誰も知らないのと一緒。だから誰もソレに気がつかない。


少女は起きたまま脳裏に夢を見ている。幸せな夢を。やわらかくて、暖かで、ミルクのように甘い。


――もう決して叶わない夢を


少女はずっと、ずうっと見ていた。夜はふけて、次の日になって、朝になって、また夜が来ても

ずうっと、ずううっと


まるで今まで待っていたのだから、これくらい苦でもなんでもないというように、傍から見れば狂ったように、はたまたずっと夫を家で待ち続ける妻のように、少女は、遠くを見つめ続けた。

三話投稿~。

さて次いくか

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