村の前で立ち往生?
森の中を疾走する影があった。
この世界では見たこともない衣服を身にまとい、まるで重さなど感じさせない動きで
木を避け、岩を飛び越え、見る見るうちに踏破していく。
影は、男だった。
100メートルを7秒くらいで駆け抜けているような気がする。人が見たら残像に見えたか
もしれない速度。男は1人そう思いながら、森の中を狼のように疾走する。
男は考えていた。
あの巨大な花を倒したことで男のレベルは、何度も上がり、とんでもなく強くなっている。
男が、足を地面に叩きつけるたびに男の足跡が深く地面に残されていく。
現在のレベルも自分の詳細なステータスも分からないものの、この速度は異常だと男には分かっていた。
それでも影は足を止めない
森には、いくつもの魔物がいた。歩きなどあれからすぐやめた。
見たこともない植物、巨大な四足の角を持った生物、電気をまとった蛇と猫。
レベルが上がったとはいえ男には、勝てるかどうかもわからない。
そもそも怖くて戦いたいと思ってすらいなかった。
無数の異形に男は、怯え、森を駆け抜けることにした。
やがて森を抜け、遠くに村のものらしき門が見えた、
金属製の門の向こうには、集落が広がっているのが、見えた。
速度を緩め、男は門へと近づいていく。
すると門の近くにいた鎧をきた二人の男が、近づいてきた。
「怪しいやつだな、止まれ」
「ギルドカードを見せろ」
二人の男に矢継ぎ早に尋ねられ、混乱する光裕。
そこで門番が顔を険しくして、尋ねる。
「おまえ、名前はなんと言う?」
名前を聞かれたものの、偽名を名乗るなど考え付かず、本名をそのまま答えていた。
「空宮 光裕だ」
「ソラミヤ?だと?」
二人の男が急に殺気を放つ。
「貴様!!白の双姫か!!」
激昂し、殺気すら放ち始めた二人の門番に
光裕にはなにがなんだか分からない。
そこで光裕はひらめいた。
「あのその白の双姫って、女ですよね」
「当たり前だ!」
怒りを顕にいまさらなんだという門番に対して光裕はしめたと思い、言った。
「……俺、男なんですけど」
「馬鹿な!?」
「嘘をつくな!貴様どうみても女だぞ!」
「なら見ますか?」
すると門番二人は顔を見合わせた。
「そこまでいうならいいだろう。なら俺の知り合いに確認させてもらう」
「逃げるなよ?」と俺に言った後、門番の1人が、誰かを呼びに走る。少し待っていると、遠くから少女が呼びに行った門番の1人と共に現れた。
小柄で綺麗というよりかわいい人懐っこい顔をした少女だった。
茶色い髪をボブカットにして、身軽そうな衣服に身を包んでいる。
光裕はそこで少女の耳が普通より長いことに気がついた。
よく見ると門番の二人も耳が長い。
少女は、門番に槍を突きつけられている光裕に近づいた。
「あら、かわいい子ね」
すると少女を連れてきた門番の男が、慌てて少女を嗜める。
「アリシア!?こいつは白の双姫の片割れだぞ!?」
いまさらだが光裕の容姿は中性的で女性に見えてもおかしくない。
可憐ではないが、黒い髪も整った顔立ちも美しく
女性に間違われてもおかしくはなかった
「うぇっ!?」
アリシアと呼ばれた少女は、白の双姫という言葉に驚き、光裕から離れる。
「まだ決まってません!」
光裕が反論するが、3人はまったく聞いた様子がない。
怯えている少女はまるで汚いものを見るかのような目で光裕を見た。
「ならさっさと自警団に引き渡してよ、」
少女は光裕から目を逸らしたまま、傍らの門番に言った。
「それがなこいつは自分が男だというのだ」
少女はそこでキョトンとした。
そして馬鹿な人間を見るような目を二人に向けた。
「なにそれ!?どう見ても女でしょ!?」
「やはりお前の目にもそう見えるか。実は」
自分が白の双姫ではないことを証明するために
光裕が男だと名乗り、その確認のためにアリシアが呼ばれたことを話した。
「馬鹿みたい、そんなこと二人とも本気で信じたの?」
「信じたわけではない。しかし、万が一ということも有る。男が女性に触れるのは問題があるだろう。頼めないか?」
「……分かったわ」
アリシアは仕方ないという風に頷き、光裕に顔を向けた。若干怯えがあるものの、吹っ切れたのか毅然とした顔になっている。
「本当に白の双姫なの?」
「違う」
「そう。ま、確かめれば分かることね」
少女の手が、まず光裕の胸に当てられる。当然そこに胸などあるはずなく、ただ平たいけれど逞しい胸板があるだけだ。
「ぺったんこね」
「当たり前ですよ」
光裕はなにを馬鹿なという感じだ。冷たい目でアリシアを一瞥した。
「これで分かったでしょう」
「むむ、なら……えいっ!」
少女の手が光裕の股間に伸びた。
さすがにそれは許容できなかったのか光裕は少女の手を防ぐ。
「むっ!?」
「なにをしてるんですか!?」
光裕は、驚いているにも関わらず、まったくひるまず反対側の手をアリシアは伸ばす。もちろん光裕は、股間に少女の手が触れないように必死になって防ぐ。
「怪しいわね」
「ええっ!?」
アリシアの両手が光裕の股間に向けて一斉に伸ばされる。
「二人とも止めてくださいよ!?」
門番に助けを呼ぶも門番二人は、止めようとすらしない。
光裕にとって相手が女である場合乱暴なことはできない。
フェミニストではないが、光裕にはそんな一面がある。
そのため光裕はアリシアのセクハラまがいの行為に防戦一方になるしかない。
「この……っ!人間の癖に、すばしっこいわね……っ!」
アリシアが、手を伸ばすも光裕は、持ち前の素早さを全て使い回避する。アリシアの速度は、光裕より遅く、翻弄する形になる。
光裕がアリシアの手をかいくぐっている間に
門番二人は少女を止めようか、迷っていた。
少女の確認したところ、目の前の男?に胸はない。
しかし、少女の言うとおり、胸がほとんどないだけの女性もいるため一概に、男だと言えないというのは事実。
目の前の相手が女ならそれでもいい。
少々激しい同姓のスキンシップですむ。
けれど、仮に目の前の人物が男だった場合は問題だ。
実のところ少女は、門番の片割れの妹だった。
胸を触れば分かると思っていた少女の兄は悩む。
そして悩んでいる間に少女は、光裕の股間に容赦なく手を伸ばす。
「変な格好して、むちゃくちゃ怪しいのよ!」
「いい加減、観念しなさい!じゃないといますぐ衛兵に引き渡すわよ?」
その言葉で光裕の体が硬直した。しめたと思いアリシアの手が光裕の股間に伸ばされる。
大胆にもズボンの中へすっぽりと入った少女の手が、パンツの中にある男のモノをわしづか
む。
「きゃあっ!?」
瞬間、少女は驚き、光裕から飛び離れる。
赤面し、うつむくアリシアに光裕はかける言葉が思いつかない。
気の強い少女から一転してしおらしくなった少女に光裕は戸惑い、どうしようという言葉が頭の中を何度もリフレインした。
「……」
お互いの間に気まずい空気が流れる。
門番の片割れが光裕に近づく。
既にアリシアの兄は、分かっていた。
拳を光裕に振るう。
「ぐべっ!?」
咄嗟のことで、加えて殴られると思っていなかったために、避けきれず光裕の体が思い切り吹き飛んだ。
「悪いな、俺は、こいつの兄貴なんだ」
そういってアリシアの兄である門番は、倒れた光裕に近づき、笑顔でいった。
「俺も悪いが、男だといわなかったあんたも悪い。そうだろう?」
そんな言葉に理不尽を感じながらも、面倒はいやなので、文句は飲み込み
立ち上がる光裕。
「誤解は解けましたか?ならもういいですよね」
内心の苛立ちを押さえ、光裕は憮然とした。
「待ちなさい」
きれいなアルトボイスが聞こえた。
振り返るとまだ少し顔の赤いアリシアが、光裕を呼び止めていた。
「なにいってるの?そんなわけないじゃない」
周りを見てみると二人の門番もアリシアに賛成なようだった。
(ここまでやっておいてソレはないだろ)
光裕は内心キレる一歩手前だった。
「じゃあなんだよ」
「馬鹿ね、あなた後ろの地獄の森を抜けてきたんでしょ?人間なのに?そんなわけないじゃない」
「アリシア」
「兄さんは黙ってて!!」
アリシアは、嗜めようとした門番の兄を一声で黙らせた。
いつのまにか場に冷たい空気が流れていた。凍りつくような空気
敵を見るような目でアリシアは、光裕を見た。
「白の双姫じゃないのは分かった。けれどアンタは、普通じゃない。だったら東方のスパイかもしれないじゃない」
東方、意味は分からないが、光裕が知らない以上おそらく違うに決まっていた。
「……違う」
「口ではなんとでもいえるわよね。でも、門番の役目は、村を守ること。怪しいやつを村に入れることは出来ないのよ」
「分かった!もういい!」
光裕は苛立ちを既に隠そうともしなかった。背を向け、村から立ち去ろうとする。
すると
「まだ話は終わってないわよ?」
冷たい声が背後から聞こえた。
二話投稿です。
まあ、ぼちぼち世の中に期待せずがんばります。