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プロローグ

うっそうと生い茂る森の中には木々が立ち並び、大小さまざまなモンスターが住んでいる。

その森の中は、モンスターが多いルディウス国の中でも

一際危険な場所で有名で、名のしれた冒険者でも死ぬこともある場所だった。


致死性の毒を持っていたり、人の心を操ってしまうような状態異常を引き起こすモンスター

から人やモンスターすら喰らい成長したり、最強種のドラゴンのような単純に強い魔物もい

る。


森には、毒性を持つモンスターが好んで食べる怪しい色のキノコや奇妙な形のしょくぶつが群生している。

その森の中に一際美しい花があった。

大きく20メートル以上も有るものの、血の様に赤く染まった花弁の見た目とそこから漂う

甘い香りには、どこか手を伸ばしてしまいそうな抗いがたいほどの魅力があった。


美しい花。

しかし、この花はモンスターである。

巨大な赤い花弁の中心には今は閉じているが鋭い牙の映え揃った

口が内包されており、ひとたび獲物が近づけば触手を伸ばし、獲物を痺れさせる。

その触手の毒は、強力な麻痺毒で、この森のドラゴンですら捕食してしまうこと

があるほどだ。


その花の形をしたモンスターの名前はラフレシア

現状のこの森の食物連鎖の頂点に立つ植物モンスターであった。


そのラフレシはなにを思ったのか、花弁の中心の口を割り開き、いくつもの巨大なアギトを露出させていた。ラフレシアの上空からなにかが降ってくる。


「うわああああああああ!!!」


男の悲鳴と共に巨大な食人花の花弁の中心へと落下したなにかが、ものすごい勢いでラフレシアの口の中に飛び込む。しかし、それだけでは済まず、男はそのまま直進した結果、いくつもの肉壁を突き破り、そのままなにか赤く光る丸い宝石のようなものへと体ごと思い切り激突する。赤く光る丸い宝石は、まるでガラスのように強く赤く明滅しながら粉々に砕け散った。


ピンポーン


必要経験値に到達したのでレベルアップしました

必要経験値に到達したのでレベルアップしました

必要経験値に到達したのでレベルアップしました


そんな声が何度もどこからか聞こえてくる。絶え間なく聞こえる。もっとも男は、落下の間に気を失っているらしく、疑問に思う暇もない。


「キシャアアアアア!!」


断末魔の悲鳴を上げ、ラフレシアの体が痙攣を初め、力を失う。鮮やかな赤の花弁も枯れ、体の一部が崩れ始めていた。


「っ!!」


地面に激突しようとした男の体はしかし以外にも柔らかな肉壁の層に受け止められる。そこで男は衝撃で眼を覚ます。


「ん?……うわ」


奇跡的に無傷になった男は、震え始めている周りを見てなにかよくないことが起こっていることを察して、冷や汗を流していた。


「……なんだ?なにが起こってるんだ?」


ラフレシアの粘液で着ているシャツがどろどろになっている男には、外でなにが起こっているのか知る術はない。


やがて巨大な建物がゆっくりと倒壊するような一瞬の浮遊感を男は感じた。


「って、落ちる、落ちる!!」


飛行機でシートベルトを閉め忘れた状態で緊急着陸を体感したような勢いで男の体が肉壁に叩きつけられる。

朽ちていたのか、肉壁は男を止めることなくぼろぼろに崩れてしまう。


「ひ、……ぅっぁあああああああああああッ!!!!」


高さ数十メートルから放り出された男の体は、重力を受けてどんどん加速していく。


「なにか、なにかないか!?」


そこで男の視界にウィンドウが突然浮かぶ。


「なんだよこれ!?」


ヒラガ ヒラヤマ

レベル■■■

平均ステータスランクD

所得称号

下克上

異世界出身者


スキルを習得しました。

獲得スキル『空歩』を装備しますか?


YES  NO


男は、躊躇うことなくYESを選択した。


『空歩』をスキルスロット1に装備しました。貴方のスキルスロットは現在全部で5つ、スロットの空きには、十分気をつけてください。そんなメッセージと共にウィンドウが消える。


「……装備したらすぐ発動するんじゃねえのかよ!?」


叫ぶ間にも落下する男の視界には、もうすぐそこに地面が見えた。


「『空歩』発動!」


しかし、なにも起こらない。


「何でだよ!?」


もう地面まで幾ばくの時間もないそこで赤いメッセージが視界を覆った。スキルは、スキル名ではなく、スロット番号で発動します。スキル名を唱えても意味はありません。


「なるほどな」

メッセージを読み終えて、男は一応の理解をする。地面はすぐそこ、しかし、男はいつのまにか不思議と落ち着いていた。まるで鎮静剤を投与されたように男の精神は、静かになっていた。


「スキルスロット1、発動!」


すぐさま空中で真横になった姿勢で、足を思い切り踏み抜く。なにもない空中に突然現れた足場を素早く蹴った男の体が、反対側へと加速する。


「スキルスロット1、発動!」


さらに体を反転させ、飛ぶ。

飛ぶ、飛ぶ。

男の体は、何度も反転し、真横への跳躍を繰り返すことで落下を防ぎ、落下する速度を落としていく。


重力の強いほとばしりが、ほとんど消えた頃、男の体の動きが鈍くなる。汗をかきながら、疲労の色を顔に濃く浮かべた男は、地面ぎりぎりのところで最後に跳躍し、着地を果たす。


「これが俺の体なのか?」


男は、どこか疑問の色を浮かべている。普通であれば、最初の落下で地面がやわらかくとも多少は怪我をするはずだった。


なのに無傷

普通であれば、スキルがあろうとも、体がここまで動くはずなどない。

しかし、硬直することも無く、失敗することもなかった。

これは本当に俺の体なのか?

さっきまでの冷静な精神はあとかたもなく消え去っていた。

そうなれば恐怖が襲ってくるのは当たり前。

得体の知れない世界に、得体の知れない体。

思い出してみるとなぜか自分の記憶さえあやふやで。


両親はおらず

姉妹兄弟がいたような気がする。


自分は、地元の高校の学生で

最近バイトした金で時計を買った。


それ以外一切思い出せない。

高校で友人達と退屈な日々を過ごしたのは分かる。

けれどこの世界にいたる過程も、家族との記憶もない。


それだけが、それだけが唯一の自分の記憶。

自分を証明するには弱い。


――そもそも俺は学生をして、毎日平凡な生活を過ごしていた俺なのか?


――もしかして現実はこっちで、あの退屈でけれどまあまあ満ち足りていた日々や、家族や


友人は俺の作った妄想?

そんな疑問がいくつも思い浮かぶ。

男の体が小刻みに震えた。


ふと腕についていた時計を見てみる。

この時計は、頑丈で、電池がある限りそうそう止まることはない。

一応自分がバイトした金で買ったものだ。

本来はそう簡単に壊れるはずはない。

しかし時計の時刻は、12時の位置で長針も短針も止まっていた。

さらにタイマー機能を表示する小さな四角い空間には、31104000という数字が見え

た。


別にタイマーなど使った覚えはない、邪魔なので消そうとした。


「えっ!?」


目の前でタイマーの数字がひとりでに動き出す。

ボタンを押しても止まる様子はない。

時刻は12時を指したまま

壊れたのかもしれない。そう納得させようとするも思い浮かんでしまう。

時間の止まった世界。自分のものではない体、言い知れない寒気が体を覆った。


「薄気味悪ぃ、けどこの体がないと死んでたんだよな」


「……」


「どこかゲームでやってたファンタジー世界に似ているな」


「……まずは人だ」


そうして男は、自分以外の人を求めて歩き始めた。



ここまで読んでくれてありがとうございます。


とりあえず週一回更新で、完結を目途にがんばっていこうと思います。

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