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江藤 拓己

いびつに積まれた積み木が崩れ落ちる度に俺の額がムクムクと腫れて目に涙がたまる。

二宮と堀川はジェンガを崩しまくる俺の額を微塵の容赦も慈悲もなくボールペンでデコピンするのだ。

特に二宮はボールペンを鞭のようにしならせてデコピンするから滅茶苦茶痛くて、額が陥没してしまうくらい痛くて涙目になる。

そうして俺の額が腫れれば腫れるほど堀川はにこにこと笑い、俺が涙目になればなるほど二宮はサディスティックに微笑む。

「ねぇ痛い?でも勝負は勝負だからゴメンねえ。じゃあ次は、三、二、一の合図でいくから」

すっかり女王様気分の二宮はさっきから額の同じ部位を集中的に狙い、ボールペンを鞭のようにしならせる。

「じゃ……いくよ。三−−」

二宮の唇の右側が上がった時だった。

額に電気が流されたみたいに衝撃が走り目には涙が溢れてきた。

女王様は合図など完全に無視していきなり俺の額を打ちつけ、満足気に微笑んでおられる。

「あぁごめん。手が震えて失敗した」

白々しいことを平気で言ってのけるサディスト二宮は伸びをして、ジェンガをしまい出した。

「江藤が弱すぎるからつまんないよ。もう止めよ、止め」

その言葉に堀川も頷いている。

「江藤の額打ちゲーム」に飽きてしまったのか二宮はテキパキと箱にジェンガを詰め込み、生徒会室の

「玩具ロッカー」の中へ入れた。

「小林先輩遅いっすね。俺らもしかして放置プレイされてますか?」

堀川はそう言うと、机に頬をくっつけてぼぉっとし始めた。

机にくっつけた側の頬は潰れていて、遠くを見つめるつぶらな目が倦怠感をガスみたいに醸し出している。

ジェンガをしまった二宮はさっき俺が反省文を書いていた窓際の机で真剣な顔で鏡を凝視しながら髪をいじり始める。

俺の方から見ると、二宮の眼鏡は夕日を反射して橙色に光っている。

こうして生徒会室にアンニュイな空気が充満した頃、何やら廊下からドタドタと足音が聞こえてきた。

その足音は生徒会室の前で止まり、三人がドアを見やった瞬間乱暴にドアが開かれ、小林がそこには立っていた。

「今ね、先生のとこ行ってきたんだけどさぁ」

帰ってくるなりそう言うと目の座った小林がゆっくりと生徒会室に入ってくる。

「今日は会議なんかしないって」

それを聞いた二宮はさっきまで凝視していた鏡を鞄にしまい帰り支度を始めるがそれは二宮によって制された。

「美咲ちゃん。ちょっと座ってて」

首を動かさず視線だけを二宮の方に向けそう言うと、小林は言葉を続けた。

「確かに会議はしなくていいんだけどね、今日は文化祭の準備をするんだって」

「何するんすかぁ?」

堀川は机に頬をくっつけたままの体勢で二宮に尋ねた。

「旧生徒会室の掃除」

せっかく痛みの落ち着いた俺の額が疼きだしたのはその言葉が原因だった。

旧生徒会室は去年まで執行部が活動をしていた場所で、今の教室に引っ越す前の場所である。

引っ越した後は学校中の必要なもの以外全てがそこに集められるようになった。

その荒れ果てた学校の秘境を四人で片付けるのは

「無理」

俺がそう言うと小林は視線を右下に落とした。

「いや、正確には掃除じゃなくてね旧生徒会室からフロッピーを見つけだせばいいんだけど、たった一枚のフロッピーをあの部屋の中から見つけ出すのは整理しながらの方が効率的かなって思ってさ」

頬に机の跡がついた堀川は眉を寄せて動かない。

二宮は深いため息をつきこめかみを指でグリグリとマッサージしながら小林に問う。

「そのフロッピーは何のために使うの?」

「去年の文化祭のデータが全部それに入ってるから、そのフロッピーがないと始まんないのよ」


「明日、みんなで探そうよ」

と俺が提案したが、

「いや、どうしても今日探すの絶対」

「なんでよ?」

と二宮

「あたしにも色々あんのよ」

黙り込む三人

「お願い手伝って、ね!」

揺れ落ちる夕日に染まる生徒会室にはため息が充満していた。

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