7 辿りついた先にあるもの
「役に立てず、ごめんなさい!」
「いいよいいよ、気にしないで。昨日もフラフラだったもんね。わたしがそこまで配慮してなかったから、悪いのはわたしだよ。シロちゃんは気にしないで!よくわかんないけど、今はシロちゃんが元気になる方が優先ってことで大丈夫だよ!」
私は近くの街に用があるというルゥに同行するために、アトリエを出て一緒に森の中を歩いている。
昨日に比べると、だいぶコツを掴んできたのか歩けるようになってきた。急に走ったり、同じ場所で立ってるとたまにフラフラしちゃうけど、今みたいに捕まりながら歩く分にはだいぶ問題はなさそう。
私の手を握りながら歩いてくれているルゥは、単純に二足歩行になれていないだけの私を気にかけてくれて朝ごはんの用意やその他諸々などをいろいろと私の分まで頑張ってくれている。
少しでも早く、この身体になれなくては…!!今朝だってご飯作りの時にフラフラとしてたまに座り込んじゃう私を見て、心配してくれて変わってくれてた。お役に立つはずが、使い魔として情けない。
「ごめんなさい。少しでも早く歩けるように、走ったりもできるように練習しますね。あまりルゥにご迷惑をかけてばかりもいられませんから」
「??…うん?大丈夫だから、シロちゃんは無理しないでね?」
不思議そうな顔をしながらも、とりあえず返事をしているルゥを見て気が付いた。普通の人は、『歩けるように、走れるように練習する』とは言わないことに。
あーー!!!またやってしまった。きっと怪しまれているか、変な子って思われてるだろうなぁ。
「…ふふ、あはは!シロちゃんって、本当に変わった子だよね。笑ったと思ったら、落ち込んだり、元気になったり、また落ち込んだり」
私が肩を落としながらトボトボと歩いていると、私の顔を覗き込んできたルゥが急に笑いだした。
そりゃあ、喜んでくれたら嬉しいし、失敗したら落ち込むし、褒めてくれたら嬉しいし、言いたいこと全部言えないし…。全部言えたらどんなに楽な事か…。でも言っても信じてもらえないだろうし、これは私が一人で戦うって決めたことだから迷惑はかけられないし…。
「シロちゃんって、小さい時の私みたいだよね」
「私が、ルゥみたい?…ですか?」
「うん、私も小さい時、師匠に褒めてもらいたくて、いろいろ頑張ってた時があったんだけどね。上手くいって嬉しい時や失敗して落ち込んだりをシロちゃんみたいに繰り返している時があって、師匠から『犬じゃないんだからじっとしていろ!』って怒られちゃったことがあってさ。今のシロちゃん見てると、あの時の私みたいだなぁって思っちゃって。だから、…大丈夫だよ。急がなくても、慌てなくても、私はシロちゃんのこと信じてるから」
ルゥが私の手を握ったまま、まっすぐな目で話してくれた。変な子って思われていないことも嬉しかったし、昔のルゥみたいって言ってもらった事がまたたまらなく嬉しかった。それに、昨日会ったばかりの私のことを、『信じてる』って言ってくれたことも嬉しかった。
「ねぇ。ルゥ?」
「なぁに?疲れちゃったかな。ちょっと休憩する?」
「うんうん、違うの」
『信じている』の言葉を聞いて、少し迷ったんだと思う。言わないって決めてたのに心の中に迷いが出たんだと思う。何回もルゥの死に目を見てきて、正直私も疲れているんだと思う。それでも、我慢し続けて、溢れだしそうな私の心の悲鳴はもう抑えられなかった。
「もし、私が未来から来たあなたの使い魔だって言ったら、信じてくれますか?」
風が私たちの間をすり抜けた。ルゥの口元はかすかに動いたけど、何を言っているかまでは聞こえなかった。
彼女は目を丸くして、何かを考えたような一瞬の間はあったけど、すぐに答えてくれた。
「信じるよ。だって私は錬金術士だもん。『出来ないことなんてない。お前の望むものができる。それが錬金術だ。』って師匠から教えてもらったし、未来の私がシロちゃんを過去に送ることも、錬金術でできたってことでしょ?」
「う、うん」
ゴクリ。と喉が鳴った。信じてくれてる?これは、ルゥに未来のことを教えてすべてなかったことにできるんじゃない?今から過去と違う事をすれば、ルゥは死なないで済むのかもしれない。
「まぁ、そんなアイテムが作れるようになったら、私も師匠と同じような世界最高の錬金術士って呼ばれるんだろうなぁ。いつまでも『見習い錬金術士』とか、『おとぼけ錬金術士』とか馬鹿にされないで済むんだけどなぁ」
「そ、それだけ?気にならないの?…み、未来から、…時間を遡るんですよ!?そんなもの、普通できっこない!ルゥはそんな未知のアイテム、ほしくないのですか!?」
「欲しいにきまってるよ!でも、師匠がここにいたら、『お前が自分で探して、たどりついた先にあるもの以外に価値はない!』って怒ると思うんだよね。だから、シロちゃんのいう通り、未来から来たとしたら、わたしはいつかそのすごいアイテムを作れるような大錬金術士になるってことだもん!今のまま頑張れば、いつかその世界にたどりつける。それがわかっただけでも、わたしはじゅうぶんだよ」
黙って話を聞いていた私の目には涙が溜まっていた。
自分の都合ばかりで、ルゥの気持ちを考えないで、ただルゥに生きてほしい。って思うだけで彼女の錬金術士としてのプライドも、生き方も私は全てを否定するような事を言ってしまった。
私が大好きなまっすぐな瞳の錬金術士は、見たこともあったこともないけど、偉大な錬金術士の師匠からの言葉を引き継いで、自分のペースでひたむきに頑張っているんだ。それはどの世界でも変わらなかった。その姿を見て、私はこんなに彼女の為に頑張ろうとしていたのに。
生きてほしい、という私の希望を押し付けるだけじゃ、未来は変わらないんだ。
ルゥの気持ちも、生き方も変えずに、私があの男を見つけて、先に殺す。それだけの力を手に入れて、私が錬金術士リリルーナを守るんだ。それがきっと、人間に生まれ変われた奇跡の理由。




