5 使い魔とお手伝いさんの違いとは?
「ところで、なんでシロちゃんは私のことを『ご主人』って呼んでたの?」
ルゥがハーブティーはちょっとあぶないから。という理由でお茶を淹れなおしながら、不思議そうな顔で聞いてきた。
お茶は大丈夫なの?と内心思っていたけど、もうどうでもいいや、と思って聞くのをやめた。
「そ、それは…あーー、えっと、その、アレなんですけど…」
「…?」
『未来から戻ってきた』、『あなたは私のご主人となるべく存在』、とかなんとか言ったら変質者ってやつだよね。怪しいよね。とにかく、何かで誤魔化さないと…。
「あーー!もしかして、私が錬金術のアトリエをやってるって知ってたの?だから、アトリエの『ご主人』って意味で呼んでたんでしょ!?」
「えっ?…そ、そうです!そうなんですよ!初めて見た時からきっと素晴らしい錬金術士様なんだろうなぁって思いいまして!!」
「やぁっぱりー!?いやぁ。そんな風にみられていたなんて、照れちゃうなぁ。えへへ」
顔を赤くして照れる姿を見て、一安心できた。とりあえず誤魔化せたし、よくわかんないけどルゥが納得してくれたみたい。
「と、ところでルゥはこのアトリエで1人暮らしなんですか?」
知っているけど、なんとなく確認のために聞いてみた。ルゥはこの先も、誰かと住むことはない。猫の使い魔だった私を除いて。
「うん、そうだよ。前は師匠が一緒にいたんだけど、旅に出るって言ってそれっきり。もう2年は会っていないかなぁ」
「し、師匠!?」
驚きのあまり声をあげてしまった。そんな話聞いたことない。いや、今まで聞かなかったんだ。ルゥも誰かに錬金術を教えてもらったんだろうとは思っていたけど、まさか師匠がいたなんて。
「そ、そんな驚かなくても。錬金術は王都にあるアカデミーに行くか、弟子入りして覚えるしかないんだよ。たまたま、身の回りの世話、家事全般を行う事と引き換えに教えてくれるっていう話があって、弟子入りしたんだ。アカデミーに行くお金もないし、家事はそんな嫌いじゃないからいいかなって思って!」
(…ハーブを腐らせちゃうのに?)
私はルゥの後ろにある散らかったキッチンと、腐ったハーブが入っている入れ物をチラッと見る。
でも驚いた。ルゥにそんな過去があるなんて今まで知らなかった。
「ねぇシロちゃん。いま、『家事が嫌いじゃない?こんな散らかってるのに?』とか思ったでしょ…」
「えぇ!?そ、そんなことない…よ」
ドキッとした。まさか声に出てないよね?私大丈夫だったよね。なんでわかったんだろう…。ルゥって時々鋭いところあるんだよなぁ。急に指摘されて慌ててしまったのが良くなかった。
「ひどいよシロちゃん!わたしだって頑張っているんだよ!師匠が出ていった後もできそうな依頼をやらないといけないし、アトリエのことも、自分のこともやることが多くて一人じゃ大変なんだよ!」
「ご、ごめんなさい!そうですよね、大変だと思います!うん、素材集めや依頼が来たらやらないといけないし、冒険者としての活動だって休んでばっかりいられないし、ルゥはいつも頑張ってます!」
「あれ?わたしが冒険者も兼業しているってシロちゃんに言ったっけ?」
「・・・!!!」
し、しまった。なだめるのに夢中で余計なことまで言ってしまった。
眉を細めて疑いの視線を送られるのが痛い。怪しまれてしまっただろうか。ついつい知りすぎていると余計なことまで言ってしまう。
「る、ルゥほど優秀な錬金術士であれば、冒険者ギルドの人も放ってはおかないでしょうし、そのくらいすぐにわかりますよ!」
「あ、なるほどー!それもそうだね。うんうん。変に疑ったりしてごめんね?そっかそっか。優秀で有能かぁ。頼りになるとか、有望な錬金術士とか、そこまで言われたら断り切れないよねぇ」
(あ、これダメだ。ご主人は絶対に騙されたり利用されるタイプだ)
顔を赤くしながらもまんざらではなさそうなルゥの姿を見て、ちょっと頭が痛くなってきた。もうちょっとしっかりしているイメージがあったのに、お話するとこんな感じの人だったなんて。
んー、もしかしたら変な事件に巻き込まれたり、保証人とかいいように唆されたりしてあんな事件に巻き込まれて行っちゃって斬首刑とかになるのかなぁ。
「ねぇねぇシロちゃん!シロちゃんって錬金術士なの?」
可愛いご主人だなぁ。と、妄想する姿を傍らで眺めていた私に、ルゥは真面目な顔で急に話しかけてきた。
「私が錬金術士!?そ、そんなことないですよ。」
「え?そうなの?なんか格好が錬金術士みたいな感じだったからてっきり同業だと思ったんだけどな~」
「す、すいません。なんか間際らしい格好で期待させちゃって…」
「うんうん、わたしが勝手に思っていただけだから。んー。ねぇねぇシロちゃん。これなんだと思う?」
「え?グリドンの実ですよね。周りの棘に錬金術で麻痺や毒なんかの特殊効果を付与して使うとちょっとした武器にもなるお手軽アイテムじゃないですか」
「す、すごぉい!!錬金術のこと、どこで勉強したんですか!?普通の人がそこまで知らないと思うんですけど、なんでシロちゃんは知ってるの!」
んげっ!
いつもいつも森で拾って錬金釜に入れているのを見てたから覚えちゃってただけなんだけどなぁ。
目を輝かせているルゥは次の錬金術アイテムをテーブルから引っ張り出しては『これは?』『これは?』と聞いてくる。しかしそれはどれもルゥが良く使っているアイテムばかりで覚えている物ばかりだった。
「シロちゃんすごいね。これで錬金術士じゃないなんて信じられないよ」
「い、いや…その、じつは少しの期間なんですけど、身寄りがなくて私も錬金術士の人のお世話係みたいなことをしていた時があるんですよ」
使い魔=お世話係。というのはあながち間違ってもないだろう。しかもルゥ専属の使い魔(猫としてだけど)として何回も繰り返しているし。
「ふぅーん。そうなんだ…。ねぇシロちゃん。今はどこに住んでるの?お外、暗くなってきちゃったけど」
「そ、その。…今はちょっと行くところがなくて…」
本来猫としてここに来るはずだったし、急に人間の姿で生まれ変わったところで人間の社会なんてわからないし…。そもそも私はルゥの使い魔以外としての生き方を知らないし。
「じゃあさ。わたしのお手伝いをしてもらうって言うのはどうかな?1人で寂しかったし、いろいろと大変なんだよ!シロちゃんみたいな子が一緒に手伝ってくれたら、きっと楽しいと思うんだけど。どうかな?」
「え?手伝う?…それは、使い魔みたいな感じですか?」
「違う違う!使い魔は契約って縛りがあるけど、今のはただのお願い。もちろんこのアトリエに住んでていいし、辞めたくなったら辞めていいし、ルゥのお友達としてお願いしたいんだけど、どうかな?」
「辞めるわけ!!‥…辞めるなんて、そんなわけあるわけないに決まってるじゃないすか…私はあなたの使い魔なんですから…」
辞めていい、という言葉に対して大声で言い返したあと、また余計な事を言ってしまう。と我慢しながらも、自分の気持ちを伝えたい、という心の葛藤でものすごい小さな声で、自分の気持ちをルゥに伝えた。風の音にかき消されるような小さな声で。
「え、なに?ごめん、最後の方聞こえなかったんだけど、なんて言ったの?」
「いいえ、何でもないです。いいですよ。あなたのお手伝いって話」
私は鼻から大きく息を吸って吐き出すと、ちょっと不安そうな顔のルゥに笑いかけた。
人間の姿になって、ルゥと使い魔の契約ができないことに焦っていたけど、私たちはまた一緒に暮らすことができた。ルゥは嬉しそうに私に飛びついてきた。今までの世界では、私が使い魔の契約後にルゥに飛びついていたのに…。無邪気な子供みたいな顔で喜ぶ顔を見て、私はこのルゥを絶対に不幸にはしない、と固く心に決めた。




