22 最低と最高
迷宮には宝箱がある場所がある。
本来、通常であれば階層ボスを倒したあと、もしくは階層を移動する前後の部屋にあることが多い。
簡単に言えばボーナス品、という感じだ。
この迷宮はそもそもそこまで広くないし、階層の移動がない。ボスもどこにいるのかわからない。なので、基本宝箱なんてないと思っていたが、ルゥは本日2つめの宝箱を開けて満面の笑みだった。
「お嬢ちゃん、ラッキーだな。宝箱なんてそんなポンポン見つけられるもんじゃねーぞ?」
「あ、あげないよ!これは私が取ったんだから!」
取った。というのは今回の場合宝箱の当たりを引いた。という意味だ。宝箱が2つ出現した場合、どちらかはモンスターなのだ。つまり運試し。
今回出た宝箱はまさしくこの運試しが2連続だったのだが、ルゥは迷わず宝箱を開けるとそこには迷宮アイテムが入っていた。
その中の一つが特に大当たりで、魔紋羊皮紙というものらしい。今まで他の世界線では見たことがないアイテムで、なんか紙切れにしか見えないんだけど魔術が封じ込まれていて一回だけ使えるらしい。便利な魔法から回復、攻撃魔法まで効果は様々。アトリエにある魔法具で鑑定すれば効果がわかるらしいから、手に入れた瞬間そりゃあルゥは文字通り飛び跳ねて喜んでいた。
陽もだいぶ傾いてきた頃、私たちは迷宮の恐らく最深部あたりまで来た。壁が動いて地形が変わっている以上、断言はできないが距離的にもこの辺が最深部のはずなんだけど、ボスモンスターもいないし、特に何かおかしいところはない。
あ、おかしいと言えば宝箱が出たことくらいかな。
とにかく、今はモンスターも襲ってこなそうということで今後の相談をオスカーとしていた。
「今日は、いったん帰りますか?アイツらもすぐに動くともさすがに限りませんし、また明日出直すというのもいいかと思うんですが、オスカーさんはどう思いますか?」
「私はシロナ嬢たちが無理をして怪我をされないことが最重要事項ですので、シロナ嬢の意見に従います。それに、言われた通り確かに今日すぐに我々が襲われる可能性は低いかもしれませんね。それに慣れない探索をこれ以上続けて消耗するのも得策ではないかもしれません」
初心者向けとはいえ、こんな迷宮の最深部付近で緊張感がない二人を見ながら私がこの先どうするかを考えていた時だった。
「助けて!助けて下さい!!」
唐突に近くで女の人の悲鳴が聞こえた。洞窟ではないので反響はしないし姿こそ見えないが、声の聞こえた方向や距離感が掴みやすい。ルカはすぐに剣を構えて声がする方を睨みつける。声の出所は素人の私でもわかる。
近い
「ルカっ!」
「わかってる!オスカーは2人を守ってくれ!先に行く!!」
ルカは声がした方へ向かって走って行く。
ルゥは驚いて体をビクンっと大きく揺らしていた。私とオスカーはルゥのもとへ駆け寄ると、彼女は私の手をギュッと掴んできた。
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「この森、いつ来ても気味が悪いわね」
黒いローブをまとった女が緑色のゼリー状の塊を踏みつけながら気持ち悪そうに言った。
「おいおい、Cランクになったばっかの女がこんなところで無事なのか?もうモンスターに食われて売り物にならねーんじゃねーの?」
大ぶりの盾を軽々と持ち上げる男は地面に散らばっているモンスターの牙、肉片を蹴り飛ばしながら近くにあった切り株にふんぞり返るように座った。
「王都から来たっていう同じCランクの冒険者が同行してるって話だ。モンスター相手にそんな簡単に死ぬことはないだろうよ」
ロングソードを持った男。昨日シロナとルゥに声をかけてきた男が数体のモンスターを切り裂いた。
その瞬間、モンスターも地面に散らばる肉片や牙なども靄となって消えると地面に黒い影がかかったような魔晶石が落ちた。
「それにしても、今日はやたら雑魚が多いな。なんで俺たちが真っ当な冒険者みたいにこいつらを駆除しなくちゃなんねーんだよ」
「クラウドがあのメスガキに固執するからでしょ?いいじゃないか、他の女かっさらっちまえば」
「ちげーねぇ。いつもみたいにその辺にいる女子供集めた方が早いってのに」
ローブをまとった女と盾の男が剣士…クラウドを呆れたような目で見る。
クラウドは剣を地面に突き刺すと、両手をワナワナと震わせ、腹の底から絞り出すような低い声で言った。
「俺はな、あんな女が大嫌いなんだ。一生懸命頑張ってます。毎日幸せ、困ってる人には優しくする…反吐が出るぜ。それにいい身体してたじゃねーか。組織に渡す前に味見もできるしな…絶望に歪む顔がゾクゾクしてくるよなぁ」
「味見か、じゃあ俺は黒髪の方をもらってくわ。あのツンツンしてる態度…そそるな」
「変態だわ」
息を荒げながら興奮気味に話すクラウドたちを見ながら、ローブの女は軽蔑し吐き捨てるように言った。
男二人はというと、そんな言葉を気にする様子は微塵もなく、黒髪もそそるが、体つきは髪の長い方の女が良いとか、やわらかそうだとか、早く抱きたいなど自身の欲求を言い合っていた。
ガサガサ…
「っ!!」
ローブの女の背後で音がした。
うっすらと緑色に透き通る体。グリーンスライムだ。3体のグリーンスライムがプルプルと震えながら影から3人を見ていた。
「うざ…ファイアボルト」
女が魔法を口にすると、細長く伸ばされた炎がスライムの1体を貫き、一瞬の苦痛を味わった後、その身は炎に包まれ燃やされた。
残りの2体はそれを見た後に、声にならない声で鳴き喚きながら通路の影に消えていった。
「気色わりぃ」
クラウドが燃えるスライムの体を足で踏みにじりながら通路の奥を見ると、人影が動いた。
「おい…おい、誰かいるぞ」
「なぁに?例のメスガキたち?」
クラウドが視線を外さずに仲間の2人に手招きをする。近くにいた女はすぐに立ち上がり歩み寄る。盾の男は面倒くさそうにゆっくりと立ち上がる。
「男か?男なら殺っちまってもいいかなぁ。退屈だわ」
盾役には不似合いな腰の短刀を見ながらニヤリと笑いながら言った。
「女だ…それもかなり上物だ」
クラウドは唇を舐めまわしながら剣を腰の鞘にしまうと物音をたてないように静かに距離を詰めていった。




