21 ピクシーの森
迷宮…地下深くへ進み、暗がりの洞窟を進みながら迫りくるモンスターを倒す。
岩肌がむき出しのゴツゴツした通路。薄暗い曲がり角から急に現れるモンスター。
かび臭いにおい。薄暗い背後から急に感じる視線や殺気…。遠くの方で木霊する他の冒険者の悲鳴や阿鼻叫喚。
なんてものを想像していた私は今の情景がとても和やかに見えた。
「あ、あぁぁ~~!!そっち行っちゃったぁぁ!」
ルゥが振りかぶった杖から逃げるように、ウサギ型のモンスターは文字通り脱兎のごとく逃げ出した。
「任せろ嬢ちゃん!!」
ルカが剣を振り下ろすと、ウサギを真っ二つに切り裂く。その瞬間ウサギの姿は靄のように掻き消え、代わりに薄紫の小さな水晶とツノが地面に落ちる。
「つ、ツノだ!やったぁ~!」
青い空を見上げながら、『なんか違う…』と思って私は少し離れたところで2人のやり取りを見ていた。
ここは通称ピクシーの森。小妖精がいた場所。という事で今も言われているらしいけど、私が調べた限りこの数十年、目撃情報はない。すでに絶滅したか、他の森へ引っ越したか…。
どぅぅん…
少し離れた場所で大きな物音がした。どこぞの冒険者がモンスターと戦っているのか、ボスと戦っているのか…。まっとうな冒険をしているようだ。
(まぁ、もし私がピクシーなら毎日こんな騒がしい森で暮らすのは嫌だから引っ越すかな)
音がした方向を見上げながらちょっとピクシーが可哀想に思えてきた。
ここは森自体が生きた迷路になっていて、壁となる植物が動いて構造が変わっていく。迷路の中にはモンスターも徘徊しているため、初心者冒険者はパニックになるし、体力が尽きて最悪死ぬ場合もある。というちょっとした魔の森だ。
『初心者冒険者』であれば…。
今ここにいるのは聖騎士団団長、セドリックの信用を得ている団員が2名もいる。単純な戦闘力で言えば初心者とは遠くかけ離れている。本来であれば冒険者に襲い掛かってくるモンスターもオスカーとルカを見ると今のウサギのように逃げ出すことも多い。つまり、この2人はこの森のボスモンスターと同格、もしくはそれ以上なのだ。ただいるだけでモンスター避けになっているので森の中を歩いているだけ。という状態に近い。
なんか、迷宮探索というものは思ったよりも生易しいものだった。
「そんなもの、何に使うんだ?ゴミにしか思えないんだけどなぁ」
「な、なんてこと言うんですか!これは貴重な錬金術のアイテムになってですね!町で買うとちょっと高いからなかなか買えないですけど…、今日はこれで10本もたまりました!ホクホクですよ~」
ルゥは落ちたツノと紫の水晶を腰のカバンにしまうと、ルカと喧嘩していたことが嘘のように、幸せそうに微笑んでいた。
さっきルゥが拾った紫の水晶は『魔晶石』と言われているもので、ギルドに持って行くと買い取ってくれるアイテムだ。魔晶石には魔力が込められていて、武器やアイテムなんかに加工できるらしい。
「シロナ嬢、大丈夫ですか?具合悪いですか?休憩しますか?」
「あ…うん。大丈夫ですよ。ちょっと思ったよりもなんていうか、うん。平和だなぁって思いまして」
ぼーっと腑抜けている私を見てオスカーが声をかけてきた。だって、退屈なんだもん。手に汗握るハラハラとかないし…。なんならこないだの熊の化け物の方がずっとハラハラしてたけど…。そりゃあ危ないよりはいいんだけど、迷宮探索って、もうちょっと違うものだと思ってたからさ。
私は後ろに視線をやるとグリーンスライムが数匹ピコピコと動きながら曲がり角のあたりでこちらの様子を見ている。私と視線(目があるのか?)が合うと、スライムたちはぴょんぴょん慌てふためいている。その姿を見るともはや恐怖というよりも小動物的なちょっと可愛いとすら思えてくる。
私は手で『シッシッ』と追い返すジェスチャーをすると、スライムたちは角の向こうへ消えていった。
オスカーたちの手にかかれば瞬殺だろうし、別に攻撃してくるわけでもないんだから無理に殺すこともないでしょ。
あ、そもそも殺すって概念なのかな。迷宮モンスターって倒すと存在がなかったみたいに靄になって消えちゃうし、残るのは魔晶石だけだから『死ぬ』とはまた違うのかな…。難しい…。
「シロちゃん!みてみて!こんなにたくさん獲れたんだよ!初めての冒険だけど、みんないるととっても楽しいね!」
「ちょっと、ピクニック気分じゃないでしょうね?そんな油断していると、怪我しますよ」
「大丈夫だよ!こう見えてもルカくんは強いし、思ったよりも意外と戦えるから安心だよ!」
「お、おいおい嬢ちゃん、こう見えても、とか。思ったより、とか、意外、とか、たった一言にどれだけ悪口ぶち込んでくる気だよ」
「え!?えぇ~!そんな意味じゃなかったんだけど…ごめんね、大丈夫!ルカくんは自分で思ってるより全然強いから頼りになるよ!この調子でどんどん先へ行こう!」
「ちょ、ちょっと待てって!そんな一人で行ったらあぶねーだろーが!」
2人は仲良さげに進んでいった。完全にお遊び感覚のようだ。私とオスカーもその後ろに続いて先に進んだ。錬金術に仕えそうな素材が手に入ったことで気分がいいのか、ルカくんとはずいぶん仲良くなったことで。
まぁ、本人が楽しいなら別にいいし、せっかくだし、このままちょっと息抜きのように楽しめてもいいのかな、と私も思い始めてしまった。




