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19 失踪事件なんて、知らないんですけど

「それで、今日はいったい何の御用でしょうか?」


 私はルゥが淹れた『腐ってない』ハーブティーをルカに差し出すと、彼は迷わずにそれを飲み干して私へ差し出した。


「はぁー、若い女の子が淹れてくれたお茶はやっぱ美味いね!もう一杯くれる?」


「ちょっと!ウチはお店じゃないんだから少しは遠慮してください」


 私はコップを受け取ると、ベーッと舌を出してルゥのもとへおかわりをもらうために戻った。


「いや、ここってお店だろ?アトリエなんだし。ずっと待ってたんだからそんなこと言うなって」


 あ”ー。そうだった。アトリエだわ。店だわ。確かに私も初めて来た時にお茶もらったわ。腐ってたけど。


「ふふ、シロちゃんの負けだね」


 ルゥが笑った。私が眉間にシワを寄せて『うぅー』っと唸りながら嫌な顔をしていたのが面白かったらしい。


「その、ごめんねシロちゃん。わたし、ちょっと意地になってて…その、はじめてだったの。パーティーに誘われたの。いつも、ランクDで、錬金術士のクセに、って陰口言われてたから、嬉しくて…。シロちゃんは私を心配してくれてたんだもんね。だから、あんな悪い子な態度でごめんね」


「そ、そんなの全然気にしてないですよ!私の方こそ…その、ごめんなさい。ルゥの気持ちも考えてなくて、一人突っ走っちゃって…っていうか、陰口って誰が言ってるのですか!私がその根性叩きなおしてやるのです!」


「あわわわっ!いいから!大丈夫だから!そんなことしたら今度こそアリスちゃんに怒られちゃうよ!」


 私が拳を握るとルゥは両手で私の拳を覆い隠してグイっと下に下げた。私たちは顔を見合わせて笑っていた。


 ・・・・・・・・


「それで、なんの用だったの?」


 私たちは彼の向かいにある椅子に座った。すっかりルカの存在を忘れていて私たちは台所で仲直りして話していたところを、お茶の催促をされて我に返ったのだ。存在して(いて)ほしくない。という気持ちが強くて、来ていることすら忘れていた。


「そうツンツンするなって。団長から伝言を預かってきたんだ」


「団長さんから?」


「なにですか、昨日まとめて言っておけばよかったじゃないですか」


「いや、俺にそんなこと言われても困るっつーか、知らないっつーか…。まぁ黙って聞いてくれ。最近王都やこの町近隣でも頻発している人さらいについてはもう知ってるな?」


「知らないです」


「わたしも知らないかも」


「はぁー?!お前たち、身の回りで誘拐されたとか失踪事件とか、その辺の連中から話も聞かないのか!?」


 私たちは顔を見合わせて軽く首を傾げて聞いていた。

 そんな話聞かないのか?って言われても。私この世界に来てまだそんなに時間経ってないから知り合いなんていないし。

 ルゥも自慢じゃないけど友達とかいないし。一人でアトリエにいるか、依頼を受けに冒険者ギルドにいるかの2択と言ってもいいような生活してて、…そう考えると私たちって話す人ほとんどいないんじゃないかな。私は基本ルゥとしかいないから他の人と話さないし。


「ズレてる、と思ってはいたけどここまでズレてると大物だわ。いいか?この数ヶ月、若い女子供が誘拐、失踪している事件が多いんだ。王都では捜索隊や見回り強化もしているが悲しいことに成果はほとんどない。だから、2人にも気をつけるように言ってくれっていうのが今日の俺のお仕事ってわけだ。」


「犯人は見つからないんですか?」


「犯人が見つかってたり目星ついてるなら俺らももっと楽だろーよ。ほんとお嬢ちゃんはまだまだ子供だなぁ」


「あ、あぁぁー!!また言った!わたしそんな子供じゃないもん!失礼なんですよ!アリスちゃんと比べたらそりゃあ子供っぽいかもしれないけど、わたしはまだまだ成長途中なんですぅ!!」


 なるほど、初対面の時にルゥを子供扱いして揉めていたのか…。実にくだらない。そりゃあアリステラの方が大人だし、ハーフウルフという種族なだけあって耳と尻尾があってまた色気というか可愛さもあるし、スタイルも良い。それとまだ20歳にもなっていないルゥを比較すればそりゃあ…。

 それにしても、コイツ本当に騎士団員なのか?俗物というか、本能のままに生きてるな。他の団員とは明らかに違うんだが…。

 まぁ、それは私には関係ない。放っといて誘拐事件を考えた方がよさそうだ。

 …誘拐事件、と言われて思い当たるのは今日接触してきたあの盗賊の下っ端しかいない。他の世界線での出来事を踏まえてもあいつらが誘拐に関与している事はほぼ間違いがない。


 ただ証拠が何も無い。ルカに【今日怪しいヤツがいた】と言うだけでは説得もできないし、セドリックなら特殊能力を使えば分かってくれるだろうけど今はいないし。そもそも他の世界線ではあまり聞かない事件だ。少し慎重に動いた方がいいだろう。

 目の前で言い合いしている2人を無視しながら、私はルカにどのように伝えようか悩んでいると、アトリエのドアが開いた。


「シロナ嬢はいますか?うちのバカ(ルカ)はまだこちらにいますでしょうか?」


 オスカーはアトリエの中でルカのことを見つけるとズカズカと入ってきては彼の頭を軽く殴る。


「お前だけズルい!…ではなく、団長が心配しておられる。伝言を届けるだけの仕事にどれだけ時間がかかるんだお前は!」


「いってーな!仕方ねーんだよ、この嬢ちゃんたち帰ってきたのついさっきなんだから。」


「そうなんですか?こんな遅くまで出歩いているなんて危険ですよ。…もしかしてなにか新しい仕事を受けてきたんですか?」


「ううん、違うんですよ。ちょっとギルドで揉め事っていうか、トラブルっていうか…ねぇ?」


「う、うん。ちょっと…ね」


「な!なんですか!なにがあったんですか!!自分が見ていない所でシロナ嬢に手をあげるなど…いつ斬られても…」


 オスカーはそう言うと腰の剣に手をかけアトリエから飛び出る勢いで入口へ走って行った。

 私は急いで立ち上がってオスカーにしがみつくと、


「だ、大丈夫です!斬らないでください!まだ何もされてないです!」


「されてからでは遅いです!《《ヤる》》なら先に芽を摘んでしまった方がいいにきまってます!」


「その《《ヤる》》というのは《《どういう意味のヤる》》なんですか!?」


 ちょっと目がいっちゃってる彼を必死に押さえつけている時に思い出したことがあった。


【嬢ちゃんたち、《《また》》な】


 お昼に絡まれたあの3人組が残した言葉だ。去り際に明らかになにか含みのある言い方だった。

 私はオスカーから1歩離れると、ジッと彼の目を見つめた。

 ブツブツと何かを言っていた彼も、私の視線に気がつくと次第に落ち着き始めた。


「オスカー、ルカ、頼みがあるのですけど…もしかしたらセドリックが言っていた誘拐事件、解決出来るかもしれないですよ」


「し、シロちゃん!犯人が分かったの!?」


 ルゥとルカが驚いて目を見開いている。オスカーに至っては【さすがシロナ嬢!】と言った感じで褒めたたえ過ぎている。

 ちょっとめんどくさいのでオスカーの事はそのままスルーして、私は今日のお昼に会った3人組の事を騎士団の2人に話し始めた。




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