18 ランクCの冒険者
「もう、機嫌なおしてくださいよ」
ギルドからアトリエへ向かう帰り道、ルゥはあきらかに不機嫌…というか不貞腐れてブスッとした顔をしながら私の後ろをついてきた。
ポーションの納品を終えた私たちはギルドへ行って事の顛末を報告して、無事に依頼料としての報酬を手に入れた。正直、冒険者としてのルゥの稼ぎで換算すると数ヶ月分くらいあった。
全部持って帰ることはできないので、ギルドが報酬の預かり制度というのもやっていて、ほとんどはそのまま預けてきた。初めてのまとまった大金と、ギルドからCランクへのランクアップが重なり、有頂天になっているところに今回の揉め事が起きた。
~~~~~~数時間前~~~~~~
「すごかったねぇ~。あんな大金、見たことないよ」
興奮がおさまらない様子のルゥは目をぱちくりとさせ、鼻息を荒げながら喋っていた。
「そうですね、無事にランクアップもできましたし、いろんな意味で受けてよかったんじゃないですか?セドリックからの依頼」
「うんうん!こんなにうまくいくなんて思わなかったよ!シロちゃんが手伝ってくれたおかげだね!これで憧れだった迷宮の探索もできるようになるよ!錬金術の素材も手に入るだろうし、すっごく楽しみ!」
私たちはギルドの入金手続きが終わるまでの短い間、椅子に座りながら話していた。
正直、トラブルはあったけどここまでうまくいくとは思っていなかったし、実際にポーションを作ったのは紛れもなくルゥ自身だ。他の世界線ではランクCになるのが遅かったり、最悪ランクDのまま、って時もあったから今回はかなり出だしがいい。
ランクDとランクCの大きな違いは、『迷宮探索ができる』ことだ。ランクCからはギルドの管理する迷宮と言われるダンジョンへ入ることができるようになる。迷宮には迷宮にしかないドロップアイテムなどもあり、依頼の報酬がちょっとだけ高くなったりする。ルゥの稼ぎが少ないのは、受ける依頼が本当の雑用、もしくは錬金術士としてできる最低限の事しかないというのが原因だ。別に冒険者を極めたいわけではないんだけど、ランクCになることで活動の幅が大きく広がるのはメリットが大きい。
「お嬢ちゃんたち、ちょっといいかな?」
若い3人組が声をかけてきた。見たところディフェンダー、アタッカーの男2人とローブをまとった女の魔術師? という感じのパーティーだった。どこにでもいるようなパーティーだけど、私はこの3人組に見覚えがあった。
「なんですか?」
ルゥは無防備にいつもの感じで答えた。私は特に何も言わずに様子を見る。
男がルゥに何かを話しているが、その会話は私の耳には全く入ってこない。なぜなら、こいつらは野盗?盗賊?の下っ端だからだ。
ランクCになったルゥに、必ず声をかけてくる。どの世界線でもそうだった。最初に騙された世界線では、ルゥは奴隷商に売られて奴隷となって最終的に殺された。その後の世界線でも、迷宮でモンスターの囮にされて殺されたこともあったし、全財産を盗まれたこともあった。私が忠告してもルゥは『悪い人たちじゃないと思うし、困っている人がいたら錬金術士として助けないと!』といういつもの意味の分からない錬金術士としての使命だから、みたいなことを毎回言うが、それは私が『なにもしらない猫だった』からで、今は同じ人間として、友人としてここにいる。今回はなにがあっても引き止めてみせる。
「どう思う?シロちゃん」
「反対です」
話こそ聞いてなかったが、私は迷うことなく断った。どう思うも何も、こいつらに関わること自体が破滅ルートなんだ。こいつらに関わらないのが一番。
「そ、そんなこと言わないでちょっとは考えてもらえると…」
「ダメです。反対します」
ルゥが言いにくそうに食い下がる。この感じは、『私はやりたいから、ここは『いいよ』って賛成してよ』という意味が込められている。この言い方をしているというのは『賛成待ち』なんだ。
「そんなこと言わないでくれよお嬢ちゃん、俺たちもパーティーメンバーがいなくて困ってんだ。ほら、あの張り紙。回復役のヒーラーが今いなくてさ。北の森にある迷宮探索にいけるフリーの冒険者を探しているだけなんだよ」
壁の張り紙を指さす男。私は視線をずらすことなくその顔を見続けた。
「嫌です。お断りします。そもそも!もともといた回復役はどうしたんですか?何でいなくなったのか説明してもらえませんか!?」
私は立ち上がると勢いよく男たちを指さし声を荒げた。3人は一瞬顔を見合わせるも、その質問は予想通り、と言わんばかりに間髪容れずすぐに反論してきた。
「前にいたシーナと…うちの魔術師なんだけど、迷宮探索の時にウマが合わなくて出て行ったんだよ」
「一人で出て行ったんですか?お二人はそのシーナさんを引き止めなかったし、そちらの魔術師の意見に賛同したってことですか?」
「そ、そうだよ!俺らは前からメンバーだったこいつの考えを支持したんだ!あの女よりも前から俺たちと戦ってくれてるんだ、優先するのは当然じゃないか!だからあいつには出て行ってもらっただけだよ!」
「そうですか。ちなみに、もめた理由を簡潔に教えてもらえますか?」
私の問いかけに男は言葉を失って沈黙した。どうせほとんどが今考えた出まかせだろう。少しの沈黙の後、ギルドの職員に通報した方がいいと思って私がルゥに声をかけようとした瞬間、黙っていた魔術師の女が口を開いた。
「探索方法についてよ。私はちょっと無理してでも進める時に進みたかったの。それなのに、無理はしちゃダメだって、すぐに帰ろうって、攻略方法に食い違いがあって、喧嘩しちゃったのよ」
「ほーぅ。そうですか」
慌てながらも、女は必死に食い下がってきた。言い返してくるとは思わなかったからちょっと意外だったけど、こちらにもまだ言い返せることは山ほどある。
「それじゃあなおさらあなた方には協力できませんね。私たちはランクCになったばっかりです。無茶をしようとして仲間と喧嘩して追い出してしまうようなパーティーに協力なんて無理です。いきましょ。ルゥ」
私はルゥと席を立つと、男が行く手を塞ぐような形で出てきた。
「だ、だから!…今はそれを反省して、方針を見直そうとして再出発してんだ。その為にはまず回復役が必要なんだ。…なぁ頼むよ。一回だけ…一回だけ付き合ってくれたらいいんだ」
私は男のその言葉を聞いて寒気を感じた。足から頭まで毛が逆立つような気味の悪い、なんとも言えない悪寒。一回でもこいつのお涙頂戴のこの言葉に同情したら終わりだ。ルゥはすぐに人を信じてしまうからこういうやつには本当に気を付けないといけないし、人と仲良くなるやり方がうまい。私も前世の経験がなければ騙されてしまうと思う。
「いい加減にして下さい!しつこいです!私は聖騎士団団長の友人ですよ!これ以上しつこいと、彼に通報しますよ!」
「きしだん~?お嬢ちゃん、冗談がきついぜ。お嬢ちゃんたちが騎士団からの依頼を受けてポーションを納品したのはこんな小さな町だからみんな知ってるが、それにことかけて騎士団の団長様と友人だなんてハッタリがデカすぎってもんだ!」
リーダー格の男が言うと残りの二人もニタニタと卑しい笑いを浮かべている。
そうか…ポーションを納品している事は知っていても、私たちがセドリックと親交があることは公には知られていないんだ。私たちは無力なランクCの冒険者ってことか…。
歯がゆい私の目にうっすら涙が浮かんだ時に背後から急に声をかけられた。
「冒険者同士の揉め事は規則で禁止しています!二人も迷惑がっているじゃないですか?強引な勧誘はやめて下さい!」
「ちっ、めんどくせーのが来やがったな」
「はいはい、どーもすいやせんっしたー…嬢ちゃんたち、またな」
3人組はあっけなく退散していった。私は涙を拭いて後ろを向くと、そこには一人の女性が立っていた。
「アリスちゃん!ご、ごめんね、その…喧嘩してたわけじゃなくて、ちょっとシロちゃんがあの人たちと…その」
「いいのよルゥ。別にあなた達を処罰するつもりはないわ。最近あの3人組、妙に評判がよくないから心配で声をかけただけ」
アリスちゃん、と呼ばれた女の人は冒険者ギルドの制服を着た亜人の女性だった。恐らく人狼系の人だと思う。狼のような耳と尻尾が特徴の、ちょっと気が強そうな人だった。
「あなたも大丈夫?ごめんなさいね、来るのが遅くて。怖かったわよね。私はアリステラ。このギルドの受付をしているわ」
「あ、シロナです。シロナ・ノワール。この度は助けていただきありがとうございました」
私はアリステラにペコリっと頭を下げた。
「シロナちゃんっていうの。こちらこそよろしくね。ところで、待っててもらった入金処理がさっき終わったわ。あと、ルゥの新しいギルドカード。はい、Cランクおめでとう。なくさないで大事にしてね?」
ルゥは手渡されたギルドカードを受け取ると、目を輝かせて喜んでいた。子供のように喜ぶ彼女を見て、私も心から嬉しかった。
「今日はどうする?新しい依頼は受けていくの?」
「う~ん…どうしようかな」
「この間あれだけ目立った行動してたし、今日は少しお休み、っていうのはどうかしら?正直なところ、今のルゥに任せられるような依頼も少なくて…」
「そうですか。…わかりました。今日はこのまま帰ります」
~~~~~~現在~~~~~~
寂しそうな、というかなんかモヤモヤしたような顔をしたルゥと2人、アリステラさんに頭を下げて私たちはアトリエに向かって歩いていたってわけ。
途中からルゥが、『迷宮行ってみたかった』とか、『あの人たちに悪いことをしちゃった』とか言って言い争いになって、今ちょっと険悪な感じ。
「別に怒ってないもん。シロちゃんがちょっと言い方がきついっていうか、私の話聞いてくれないっていうか」
明らかに不満そうな態度でルゥは口を尖らせながら言った。最後に見たあいつらの卑しい顔。絶対にあいつらはこの世界でも盗賊だと思う。そんな危ないヤツらと関わらせるわけにはいかないんだ。しかも最後に言われた『またな』の言葉が引っかかる。アイツらはまだルゥのことを諦めていないのだろう。
…嫌だな。と思いながらアトリエに着くと、そこには白いローブを着た見慣れた騎士の姿があった。
「おいおいお嬢ちゃん、そんな顔しているとシワが増えて早くバアさんになっちゃうぜ?」
ルカはいつもの口調で、私のブスッとした顔を見るとまた癇に障ることをサラッと言った。




