16 杖と剣と報酬と? ①想剣アウラ・ヴァルト
「おぉー!!目が覚めたのか!よかったな嬢ちゃん!」
見慣れたチャラい男が私の肩をポンポンと叩く。ルカもあの時頑張ったんだ。彼を認めないといけないのはわかっているんだけど、…なぜだろう、なぜか心から彼のことがなんか許せない。生理的に無理。この言葉がぴったりな気がする。
「はい。おかげさまで。ご迷惑をおかけしました。お世話になりました。さようなら」
「ちょ、ちょっと待てって!!…って、なんだよそのすげー嫌そうな顔は!」
私はルカに深々と頭を下げてお礼を言うと、別れの挨拶を告げて他の団員の元へ向かおうとしたが、彼に引き留められてしまう。
平常心を装っていたが、どうやら表情に出ていたらしい。猫はあまり顔に出ないはずなんだけど…。バレてしまったら仕方がない。
「おいルカ!シロナ嬢はお疲れに決まっているだろう!まだ病み上がりなんだ。椅子くらい用意しろ!このバカ!」
『あんたが嫌いなのよ』っと口先まで出かけたところで、オスカーが椅子を持って近づいてきた。
ついこの間まで『おい小娘!』だったのがだいぶ扱い方が変わったものだ。
「そ、そうか…そうだよな!昨日目が覚めたばっかりだし、あんな戦いの後だもんな。わりぃ!」
ルカは頭を下げてルゥの分の椅子も探しに部屋から出て行った。
「シロちゃん、なんか騎士団の人気者?みたいになっちゃってるねぇ。さっきも団員の人に敬礼されてたし」
「人気者…ねぇ?」
私はオスカーが用意してくれた椅子に腰かけると、ルゥの言葉を聞いて苦笑いをした。ここに来る道中、騎士団員とすれ違う時に敬礼されたり、声をかけられたり、正直疲れた。
ここは騎士団の詰め所。簡単に言えば休憩室のような、なんか訓練をするところ、というよりも体を休めたり、装備などが置いてあったり、呼び出しがあった場合にすぐに動けるように待機する場所だ。
昨日私が目を覚まして、一晩様子を見て問題がなさそうだから今日アトリエに戻ることになったんだけど、どうしても帰る前に来るように、とセドリックが言っている、とオスカーに呼ばれてここに来た。
「ありがとうございますオスカー、椅子助かったわ」
「はい!お役にたてて光栄です!何かあればすぐに呼んでください!」
敬礼をすると、彼は部屋の外へ出ていった。私は言葉が出なくて、口をパクパクしながら彼を見送ってしまった。
「人気者っていうよりも、団長さんになったみたいだねぇ?」
ルゥが首をかしげながら笑って言った。団長?冗談じゃない。私はルゥの使い魔だ。こんなわけのわからないところに長居するつもりはないし、よけいなトラブルに巻き込まれたくない。セドリックがルゥを守る、と約束してくれただけで成果は充分だ。余計な話をされる前にもう帰った方がいいかもしれない。
私はそう思うと椅子から立ち上がった時だった。
「ルゥ、やっぱりもう…」
「いやー、すまない。報告が長引いてしまってな。まぁまぁ座ってくれ。おーい、なんか飲み物と女の子が好きそうなお菓子を出してくれー」
タイミングよく?セドリックがドアから入ってきた。あぁ、判断が遅かった。
私は勢いに圧倒されてそのままストン、っとまた椅子に腰を下ろしてしまった。少しすると、ルカがルゥ用に椅子を持ってきて、お水と甘い匂いのするお菓子がテーブルの上に出された。
「すまんな、いつも女子供が来る場所じゃないから気が利かなくて…。人払いはしてある。入口も信用のある2人に守らせているからここには誰も来ない。今日はシロナ。君に話があってここに来てもらった。別に大したことじゃないんだ。気軽に話してくれればいい」
入口の2人っていうのはいつも通りのコンビだ。セドリックは団員の中でもこの2人を特別信頼してるらしい。
人払いまでするってことは、何かよほど言いにくいことか聞かれたくないことよね。
「早速だが、本題に入りたい。君はこの剣、想剣アウラ・ヴァルトをあの時使いこなせていたように見えたんだが、実際のところ、どうなんだ?」
「そーけん?シロちゃん、そーけんってなに?」
「知らないですよ。それにそーけんじゃなくて、想剣ですよ、そ、う、け、ん!」
セドリックは腰の剣を抜き、テーブルの上に置いてみせる。柄の部分の装飾が独特な、ちょっと変わった剣だ。
「この剣は古代文明の遺産で、この国の宝具の一つ。歴代の聖騎士団団長が受け継いで使っている剣なんだ。この剣は何かをトリガーとして、爆発的な力を発揮する…。と言われているが、目にしたのはシロナ、君があの化け物を倒したときが最初で最後なんだ。あれはどうやったのか、どうすればこの剣が使えるのか教えてくれないか!?頼む!」
「ちょ、ちょっとちょっと。待ってくださいよ。そんな大事そうな事、私たちに言って大丈夫なのですか!?」
「そうですよ!そーけんが爆発しちゃってしろちゃんが化け物を退治できるなんて言わない方がいいですよ!」
「まってまって、あなたも誰もそんなこと言ってないですし、よくわからないならお菓子食べて待っててください、早く終わらせますから。あの、お菓子のおかわりってありますか?」
「よ、用意しよう…」
お菓子をルゥの口に入れると彼女は満面の笑みで頬張っていた。ややこしくなるからちょっとこれで静かにしててもらっておこう。
「すいません、えっと…剣ですね、使い方使い方…その剣の使い方ですけど、正直わからないですね。あの時も、ただみんながやられちゃいそうで、私も夢中でしたし、…。ただ剣を握ったら熱くなってきて、勝手に光りだしたっていうか…」
「そ、それだけなのか?オスカーの話では、数代前の団長が使っていた『断罪の太刀』という剣術に似た技を使っていたと報告もあったんだが…」
「あー、それは多分使った…んだと思います。順番に説明しますよ」
私はあの時の事をセドリックにすべて話すことにした。
セドリックがやられた後に剣を勝手に握ったこと。
熱を感じたこと、光が出てきて体が軽くなったこと。
頭の中に、見たこともない景色や、知らない人が見えたことや自分の事。さすがに時間を遡っているとは言えないからちょっとは誤魔化したけど。
身体が勝手に動いて、自分ではほとんど動いていなかったということ。
最後はほとんど覚えていなくて、気が付いたらベッドの上だった。
彼は頷きながら静かに聞き、全部を聞き終わった後、静かに言った。
「もう一度、この剣を取ってくれないか?」
彼は私の目をまっすぐ見てきた。私はまた剣に精神を支配されたらどうしよう。という気持ちも少しばかりあったが、彼を納得させるにはいう事を聞く方がいい。と判断して首を縦に振って席を立った。
彼の目の前に立つと、私はセドリックから剣を受け取って、あの時と同じように構えてみた。
…
…
・・・
「あれ?」
なにも起きない。
剣も光らないし、熱も出てこない。
ただ、普通の剣にしか感じない。
「ご、ごめんなさい…。なにも起きないですね」
私はセドリックに剣を渡そうと彼に向き直った。彼は静かに私の目をずっと見ていた。
嘘はついていない。
あの時も、同じように剣を握って、こんな風に構えただけだったから。
「嘘は言っていないんだな。…仕方ない、せっかくこの剣の使い方がわかると思ったのに」
「え?信じてくれるんですか?」
「あぁ、もちろん信じるさ。俺は特殊能力持ちなんだ」




