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15 騎士団長との約束

「ぐぇ!!」


 お腹にとてつもない衝撃があって私は目を覚ました。

 飛び起きた私は周囲を確認すると、目の前には『焦った顔をしている』ルゥが最初に目に入った。見たことない部屋の知らないベッドの上で寝ていて、なぜかお腹の上にあるこれまた見たことないちょっと立派な杖。


「お、起きたー!シロちゃん!おはよう!おきたおきたー!もうずっと起きないんじゃないかと思ったよー!!」


 ルゥが泣きながら飛びついてきた。

 また生まれ変わったとか、時間を遡ったわけではなさそう…。まだ世界を移動しているわけじゃないんだ。

 抱きしめられて身動きが取れない私は両手を封じられて、そのままわんわんと泣いているルゥをなだめることしかできなかった。

 とりあえず、ルゥは生きて元気そうだ。


「痛いです、もう大丈夫ですから」


「ほんとうに?急に倒れたりしない?どこも痛くない?死なない?」


 鼻水を私の服に散々こすりつけた彼女は心配そうな顔で私を見ていた。

 はぁ。着替えないと…?


「あれ?ここどこですか?アトリエじゃない…ですね?」


「うん。ここはアトリエじゃないよ。王都の医務室ってところなんだって。シロちゃんも騎士団の人もみんな大けがしちゃってて、あの後大変だったんだよ!!」


「そうだ!みんな、セドリックや騎士団の人は!?どうしたのですか?!」


「うわあわわっ!だ、大丈夫だよシロちゃん、みんな元気になってるからぁああぁ」


 思い出した!最後化け物を切り倒して、なんか急にだるくなってからの記憶がない…。

 最後の記憶ではセドリックが化け物にやられて、剣を握ったところらへんまでは覚えてるんだけど…。

 私はルゥの方を掴んで前後にブンブンと振り回すと彼女は目を回して床に座り込んでいった。


「それだけ元気そうなら、もう大丈夫だろう」


「セドリック!もう平気なのですか?!」


「あぁ、作ってもらったポーションが残っていたからみんなでそれを飲んでほとんどの団員は回復したさ。ちょっと重症の者は医務室で休んでいる者もいるが、俺は休んでもいられないからな。軽い業務だけはこなしているってわけさ」


 包帯が痛々しい姿だが、部屋の向こうから割と元気そうな姿でセドリックがちょっと気まずそうに入ってきた。


「重症の者って、あなたも重症ではないですか?意識がなくなるくらいのダメージだったのでしょう?」


「いや、言うな。あれは軽い脳震盪だったんだ。急に殴り飛ばされたからその衝撃で、受け身が間に合わなくて…日ごろの鍛錬が足りなく、お前たち民間人をあんな危険な目に合わせてしまうだけではなく、挙句の果てに討伐までさせてしまうなど‥‥申し訳ない!」


 セドリックはその場に座り込み、床に頭をこすりつけたまま土下座をした。

 その場にいた他の団員も息をのむ。誰も声を出す者はいなかった。


 き、気まずい…。


「別に、べつにいいですよ。そんなの。私はあなたのそんな姿を望んでいるわけじゃありませんし…」


「そうはいかない!騎士として、けじめが、けじめが必要なんだ…。お前たちがいなければ団員すべてを、私は無駄死にさせてしまうところだったんだ。彼らの命も、家族の幸せも救ってくれた。俺がいながら…俺がいて守り切れなかったんだ。本当に、心から感謝する!」


「だ、だからいいんですって」


 私がベッドから立ち上がると、他の団員たちから一人、また一人と声が聞こえてきた。


「ありがとう…」


「ありがとうございます」


「かぁちゃん…かぁちゃん…」


 いつの間にかセドリックにつられてほぼ全員がうわごとのように泣きながらグズグズと言っていた。

 私は別にあなた達団員のために戦ったわけじゃないし、町も、王都も、別に関係ないんだよな…。ただルゥを守りたかっただけだから。

 私はベッドの影でまだ動かないルゥをチラッと見て、軽くため息をついた。


(めんどくさいなぁ)


 とセドリックを見下ろしながら少し考えていると、私はいい事を思いついた。

 そっと彼の肩に手を乗せながら、


「だれもあなたのことなんて責めないですよ。みんなが無事、それでいいじゃないですか?固く考えすぎなんですよ。騎士団っていうのは。いいから顔上げてください。他人が見たらなんて思われるかわからないじゃないですか…」


「す、すまない。しかしそれでは俺の気持ちがおさまらんのだ。俺は、一人の騎士として君に報いたいんだ」


 やった。予想通り。オスカーと言い、騎士道精神に熱い人間は義理だ忠誠だということはオスカーを見て想像がついた。あれだけのトラブルを解決したからセドリックも相当に心苦しいのだろうと想像したけど、思ったように彼が動いてよかったわ。


「それは、騎士なら騎士として報いて下さいよ。セドリックを騎士団団長としてではなく、一人の人間としてお願いします。私の主、ルゥのことを一緒に守ってください。どんな時も、ルゥのことを信じて、ただ守ってください」


「一人の…人間として?」


「そうです、聖騎士団は王族直属の騎士団ですよね?でも、団長の前にあなたはあなたです。もしルゥの身に危険が迫ったら、騎士団としてではなく、私の友人としてのお願いを聞いて欲しいんですけど」


 彼は少し考えた後、無言で立ち上がるとそっと羽織っていた白いコートを脱いで腕にかけると、再び片膝をついて頭を下げた。


 部屋の中にどよめきが走った。私も彼の行動が何を意味しているのか分からず困惑していると、私の顔を見上げながら、まっすぐな瞳で力強く言った。


「セドリック・ローゼンフェルト。この名に恥じないよう、我が友と約束しよう。その時は必ず守ると」


 私はきっとこの時、顔がにやけていたと思う。自分でも、まさか騎士団長をルゥの護衛として一緒に守ってほしい。という約束を取りつけるなんてことができると思っていなかったから。

 この時はにやけてしまいそうな顔を隠すのが精一杯だった。

 この後、なんでコートを脱いだの?って聞いたら、

『コートを着ている時は聖騎士団団長のセドリック』だから、コートを脱いで騎士団ではない、一人の人間として私と約束をしたんだって言ってた。ホント、人間ってめんどくさいなぁ。


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