11 無限に入るカバンは便利です。
「うわぁ~…人がいっぱいいる」
ルゥは広場に出ると、辺り一面を見渡していた。
町はずれにあるただっ広い広場で、先日のセドリックたちと同じような服を着た騎士団が集まって設営をしていた。普段では見ることがない光景だから珍しいと言えば珍しいけど、別にそんな特段いいものだろうか?
騎士団員は30人、いや、50人くらいだろうか。若い人間が多いな。という印象だった。団員を見る限り私が見たことあるような人間はいない。この騎士団とは今までの世界で関わることがなかったのは間違いなさそうだ。
「それにしても、こんな便利なもの。…よく作れたわね」
「あー…それは師匠に教えてもらったんだよ。錬金術士なら絶対覚えておかないと大変だって言われて」
私は腰につけたカバンを見ながら言った。このカバン、こんな小さいのに中にほぼいくらでも荷物をしまう事ができるカバンらしい。錬金術のアイテムの一つで、生ものを入れても腐らないで鮮度を保ってくれるうえ、重量がほぼ感じない。今回のポーション約150個も私とルゥのカバンの中に全部入っている。
「あー!きたきた!団長!きましたよ、こないだの2人組!」
目の前のちょっと大きなテントの入り口で、冒険者ギルドにいたチャラい男…ルカが私たちを見つけて大きく手を振っている。聖騎士団…というにはちょっとヤンチャな感じがするし、私はなぜか苦手だ。オスカーもなんかブスッとしていて苦手だ。なんならセドリックもこの際何を考えているのかわからないから苦手だ。
つまり、私は聖騎士団が苦手だ。
「あー!!このあいだの失礼な人!わたし、まだあの時のことちゃんと許してないんですよ!!」
ルゥはルカを指さすと、周囲の騎士団員がルカの方に視線を移す。そのうち何人かは『またか…』という感じで設営作業に戻っていった。
「んげっ!!だ、団長!俺他のところの手伝いしてきますんで、オスカー!ここ頼むわ!」
ルカは2人の返事を聞くまでもなく、テントを飛び出して他の団員の中に紛れ込んでいった。追いかけようとしたルゥの腕をつかんで引きとめて、ポーションの納品をするべくセドリックのいるであろうテントへ向かった。
「まいどー。…ルゥのアトリエでーす」
私はテントをくぐると、気だるそうに言って挨拶をした。
「こんにちはー!ポーションお届けに来ましたー!」
「おいおい、今日はずいぶんだな。先日の元気が嘘みたいじゃないか。錬金術士のお嬢さんはこんなに元気なのに」
後ろから元気よく入ってきたルゥと疲れ切った私の姿を見て、心配というよりも笑ってセドリックは迎えてくれた。
「疲れたんですよ。私だって」
「ちょっと聞いてくださいよ!ひどいんですよシロちゃん、休憩しようってお茶を淹れてくれたら、その中にポーション混ぜてて、元気になったんだからもっと作れって、せっかく作ったのに今飲んじゃったよー!って言ったら、早くまた作れーって怒るし、昨日なんて錬金釜の前から離れたらダメ!って一日監視されてたんですよ!」
プンスカと怒るルゥを見て、セドリックは声を出して笑った。今の私たちを見ればそんな光景も容易に想像がつくだろう。
「あはは、それはすごいな。疲れちゃうわけだ。それで、お嬢さんはなんでそんなに元気なのかな?」
「それは、ポーション飲まされて体力回復しちゃったんで…。私だけ元気って言うか…」
「ふむ…?」
セドリックが不思議そうにするのがわかる。ポーションでは魔力の回復はしない。あくまでも軽微な傷の回復と体力の回復なのだ。全力疾走で走って疲れたから飲む。また全力疾走、というイメージだ。
いくらポーションといえど、錬成するのに魔力を使う。魔力がなくなれば倒れてしまってしばらく活動できなくなる。ポーションとはいえ150本も作ったんだ。普通の錬金術士なら魔力切れになるだろう。
だが、ルゥは違う。魔力の桁が違うんだ。きっと並の錬金術士4~5人分は余裕であるのだろう。
これは他の世界線での話だけど、死者を蘇らせるアイテムを作る、という時にものすごい魔力が必要になるって話だったんだけど、ルゥの魔力を測定したら余裕、ってことがわかったことがあって、それ以来魔力切れについては心配してないんだよね。
ただ、そんなことをどうやってセドリックに説明したらいいっていうのよ。怪しまれないうちに、ここはさっさと納品して帰って寝たい…。
「はいはい、元気なのはルゥだけなんだから。私は帰ってはやく寝たいの。ここにポーションを置いていけばいいの?」
「あ、ああ。そのあたりで構わない。まとめて置いておいてくれ」
私たちはカバンを開けて次々と緑色に輝くポーションを取り出して並べ始める。その数150本。100本以上欲しい、と言っていたセドリックの希望は叶えた。団員の数を見ると、これだけのポーションを使うのかどうかは怪しいところだけど、まぁ別にいいでしょ。
「すごいな、なんだそのカバンは?」
「これは師匠から教えてもらった錬金術の必須アイテムなんですよ。素材を採っても持ち帰れないと意味ないですから、こうやって私たちみたいな非力でもたくさん持ち運べるようにって」
「148、149・・・150っと。はい、ご依頼のポーション100本以上!これでいいかしら?」
「ああ、すごいな2人とも。1日でこれだけの量を用意できてしまうなんて…。錬金術士リリルーナとシロナ、改めてありがとう」
私が最後のポーションを並べ終えると、セドリックは安心した顔でルゥに握手を求めた。
ルゥは照れくさそうにしながらも、『任せて下さい!』と言わんばかりに胸を張っていた。
これで私たちの最初の依頼は達成できて、帰って報酬でなにか美味しいものを食べに行けたはずだったのに…。
「だ、団長!!大変です!馬が、馬が魔性浸食に侵されました!!」
聖騎士団が2人、3人とテントに来て叫ぶのを聞くと、セドリックは急ぎテントを飛び出していった。




