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9 ルゥは最低ランクの錬金術士

「落ち着いたか?」


「ひゃい…ぐすっ…さっきは失礼をごめんなさい」


 テーブルにオスカー、セドリック、私、ルゥが対面しながら座った。あのヘラヘラ男はまだ受付の女の人のところだ。騎士団の2人も、特に触れていないから私も何も言わなかった。


「俺はセドリック、こっちは部下のオスカーだ。君のことを聞いてもいいかな?」


「ひゃい。私はリ、リリルーナ・ハーヴェルです。…近くの森でアトリエをやっているれ、錬金術士でふ」


「だ、団長!この娘…」


 オスカーが何か言いかけた時、セドリックは目配せをして黙らせた。ルゥは特に何も気が付いていない様子で首をかしげていた。


「そうか、よろしくリリルーナ。錬金術士とはすごいな。君も不思議な道具やポーションなんかを作れるのか?」


「はい、まだ駆け出しなので、簡単なものしか作れないですけど。ポーションなら一応…作れます」


「そうか…そうなのか!すごいじゃないかリリルーナ!君は錬金術士なのか。その若さですごいじゃないか!」


「え、えぇ!?そ、そうですか?いや、それほどでもないんですけど…えへへ」


 さっきまで泣いていたのに、ちょっと褒められたら顔を赤くして照れているルゥを見て、可愛いんだけど、ちょっと心配になる。私が使い魔で見ていないところで、こんな感じだったのか…。

 セドリックは変わらずルゥを刺激しないように、ニコニコと笑顔のまま優しい雰囲気で話を続けた。騎士団長と言うだけあって、人の扱いに長けているとはさすがだ。でも私は時々見せる鋭い眼光を見逃さなかった。

 何か裏がある者の顔だった。オスカーも時々セドリックに何か進言しているようで、耳元で何かを言っている。

 あー!!猫だったら聞こえるのに!!じれったい!!


「時にリリルーナ、今日はこんなところで何をしているんだい?君みたいな子が…おっと、君は錬金術士だったね。錬金術士がこんなところで何をしていたのかな?」


「えっと、アトリエの売り上げだけじゃ生活できないんで、たまにこうやって冒険者ギルドで仕事をもらうんですよ。わたし、まだまだ半人前なんで錬金術士としてお仕事が少なくて、錬金術士と冒険者をやっているっていうか…あ、あとルゥでいいですよ。親しい人にはルゥって呼ばれているんで」


 ルゥは少し気恥ずかしそうに顔を赤らめて答えた。まぁ、自分で半人前なんです。なんて言うのはなかなか言いにくいよね。

 ん?そう言えばさっき見てた張り紙に、騎士団がポーションを求めるみたいなのがあったような気がするけど…。

 騎士団の2人は顔を見合わせて何か確認するようにうなずくと、ルゥに再び話しかけた。


「実はだね、明後日町の外れで大規模な騎士団の演習があって、かなり実践に近い形式での模擬訓練だから負傷者が出ると思われるんだ。そこで、錬金術士にポーションを用意してほしいと依頼をしたんだが、君は知っているか?」


「それって、そこの壁に貼ってあるやつですよね?きっと」


「そうだ、我々の張り紙の辺りに君がいたから目に付いた、というのも実際のところはある。君たちの服装は冒険者ではなく、錬金術士特有の雰囲気があったからね。実のところは期待して声をかけてみたというのもあるんだが、どうかな?」


 まぁ、このギルドの中で私が話しかけやすいから、なんてなんとなく嘘くさいなぁと思っていたけど、そりゃそうよね。この人たちとしても、演習前までにじゅうぶんな量のポーションが欲しいのに、まだポーションが手に入らなくて焦ってる時に、偶然私がその張り紙を見ていたら期待もするだろうし…。きっとルゥもさっき受付で話を聞いてるんだろうな。


「それが、実は断られちゃいまして…あはは」


「え!?」


 私とセドリックは声を合わせて驚いた。

 ギルドからすればある意味国からの依頼も同じなのに、明後日なんてもうすぐじゃない。それなのにまだポーションが集まってなくて騎士団長自らがギルドに来るような事になっているというのに…どうしてギルドは断るなんてことがあるの?


「ま、待ってくれ。君が断ったのではなく、ギルド側から。ということか?」


「まぁ、そうですね、そうなると思います。私もポーションくらいなら作れるし、いいかなーっなんて軽く考えてたんですけど、私のランクじゃ任せられないって言われちゃって」


「参考までに、君のランクを聞いてもいいかい?」


 ルゥは言いにくそうに、少しモゴモゴした後、頬を赤らめながら言った。


「で、Dランクですけど…」


 Dランク。冒険者ギルドの中の最下層のランク。つまり、駆け出し、見習いという事だ。Dランクだと受けられる依頼にも制限があるし、もしかしたら冒険者ギルドも騎士団からの依頼という事でシビアになっているのかもしれない。普段ならポーションくらい誰でもOK!という事でも、相手が騎士団だ。なにかあってからでは遅い。つまり、ある程度のランクがある冒険者じゃないと任せることができない。という事だ。ただ、錬金術士は冒険者ではない。ルゥは生活のため冒険者も兼業しているだけで、そもそも錬金術士一本でいたら冒険者ギルドに登録なんてしないだろう。

 つまり、この聖騎士団がそもそも困ったら雑用的なものは冒険者ギルド、みたいな認識があるせいでお互いうまく回っていないんだ。

 ポーションが欲しい騎士団。

 なにかトラブルを避けたいから錬金術士でレベルが高そうな人を探す冒険者ギルド。

 ポーションなら作れるけど、誰も認めてくれないから何もできないルゥ。

 それはセドリックも理解しているようで、オスカーになにか耳打ちをすると、彼は席を離れて受付の方へ走って行った。残ったセドリックもさすがに困ったようで頭を悩ませている。


「ちょっといい?私、冒険者ギルドのこと何にも知らないんだけど、セドリックがルゥに直接頼む。というのはどうダメなの?」


「!!」


 セドリックは驚いたような表情をしてすぐにルゥを見つめるも、ルゥは黙って下を向いたままだ。

 単純な話、冒険者ギルドの規約やルールがうるさいなら、作れる相手に直接頼めばいいじゃんって思ったんだけど…。ルゥの表情を見る限り、そんな簡単な話じゃなさそう。


「あのね、ギルドの仲介が入った案件を、後から横取りするような直接取引をすることは規約で禁止されているんだ。手数料でギルドは運営されているし、万が一なにかあった場合の責任問題や、その…中には法律違反な人身売買、密売や密猟みたいな、危ない仕事の依頼もあるみたいで、冒険者の中にも行方不明になる人や命を落とす人もいるって話だよ。

 だから、私みたいな弱い錬金術士は絶対に直接取引はしない方がいいし、冒険者と兼業する時に師匠とも約束したから…その、お役に立てなくてごめんなさい」


「いや、うちの部下がギルドに頼めばどうにかなるっていったものを、ちゃんと調べなかった私がいけないんだ。君が謝ることではないよ。ポーションが集まらない以上、私としてもなにかしらの処罰は下るだろうが、もうそれは仕方がないか」


 ルゥの話を聞いてセドリックは諦めたように椅子に座ると、オスカーが戻ってきた。


「報告します。ダメですね。まだ応募してきた錬金術士は0だそうです。」


 どうやら今の依頼状況を聞きに行っていたようだ。その表情からは、『やっぱりだめだった』と言わんばかりの心境が窺える。


「…絶望的だ」


 セドリックは頭を抱えて吐き捨てるように言った。ルゥはそれを見て気まずそうに見守っている。オスカーもそれは同じだ。

 ただ、私だけはこの問題を乗り越える方法が閃いた。

 不安が残るとすれば、この騎士団からの依頼というのは今までの世界で私は見たことがない初めてのイベントだった。ルゥにとっていい未来につながるのか、悪い未来につながるのかが読めない。だから、騎士団長という最強の駒を手に入れる必要があった私は、一つ提案をしてみることにした。


「ねぇ、セドリック騎士団長。私とひとつ、取引をしませんか?」


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