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1 特別な使い魔

 私は特別な存在だ。なぜなら、人間の言葉はもちろん、ご主人のやっている事すら理解できてしまうほどに賢いのだ。

 私の名前は『シロ』。錬金術士と契約した使い魔である。


 この世界では、錬金術士というのは意外と多く存在していて、不老長寿の薬を作れるようなトンデモ錬金術士から、傷薬しか作れないような錬金術士までレベルは様々。

 私が契約している錬金術士様はというと、そりゃあものすごい立派な方!と言いたいけど、ご主人はちょっと問題があるというか、ズレているような気がする…。契約した使い魔の魂は錬金術士と『リンク』してしまうから、あんまりトンデモな錬金術士と契約すると人から恨まれたり、実験の最中に爆死とかあって早死にしちゃうのよね。平凡にほのぼの生きるなら私のご主人のような人が一番だったりする。


 人が大勢暮らす街から少し離れたところにある森の奥の小さなアトリエ。その窓際に置いてあるクッションの上が私のマイポジションなわけ。初見の人間は私を完全に猫だと思って舐めてくるし、同業や魔術関連の人、なじみの客なんかは私を人間と同じように接してくるわ。もうすぐこのアトリエに来るやつは正直見たことがないのだけど、私の正体を知っている感じだし、イマイチ好きになれないのよね。


「だれかいますかー?」


 カランカランっと入り口のドアが開くと()()()()()()()()()調()で現れた。

 私は静かに起き上がると、視線を男に移す。どこにでもいそうな旅の男。今回も私の目にはそう見える。


「あ、猫さん。あなたのご主人様はいますか?ちょっとお話があるんですけど」


 この台詞も()()()()()()。男は目を細める私を見つけると、私が人間の言葉が理解できるとわかっているかのように、話しかけてきた。このやりとりも何度目だろう…。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 言葉の通り、私はこいつと何度も会っている。この世界ではなく、違う世界で。わかりやすく言うと、死ぬ前にあっているんだ。

 この後、ご主人は必ず死ぬ。

 数日の誤差はあるけど、必ず10日以内に王国兵がご主人を捕まえに来る。この男が私の前に現れるという事が『トリガー』のようで、この先ご主人を連れてここから逃げても、身を隠しても、どんなことをしても結末は変わらない。この男が来て、ご主人と会ってからの流れはどんな事をしても変えることができなかった。

 そして最後には…処刑台で斬首される。

 ご主人が死ぬ姿を見た瞬間に時間の遡りが発生する。遡るのは決まって私が初めてご主人と会う日だ。

 ちょっと抜けてるご主人だから、契約印を書くときに、またどこか間違って変なものが出来上がっちゃって、それが偶然時間を遡る。なんていうウルトララッキーな現象を起こしているのかもしれない。猫の私にはよくわからないし、偶然の産物なのでそこまで気にしないで、今はどうにかご主人を救う方法がないかを模索している。

 そのたびに何度も、なんども、なんども!ご主人は首を切られて死んでいく。その姿を見続けたせいか、最初は涙が止まらなく流れたし、ふさぎ込むときもあったけど、今では涙も出ないし、もう心が死んでいるのではないか?と思う時すらある。

 不思議なことに、ご主人と過ごす数年間も、私がどうにかご主人をこの場から連れ出そうとしたり、錬金術士をやめさせようとしたり、冒険に行こうと誘ったりいろいろ考えて行動すると、出会う人やイベント、私への接し方などにも変化は生まれる。何回目かの世界では、私のことを人間にしよう、と錬金術を頑張っている時もあった。

 …しかし、最後にはこの男が必ず来る。『自分は無害ですよー』という笑顔のこの男の顔は、私は決して忘れない。


「…」


 私は今回の世界ではこの男の発言を完全無視。完全に『ただの猫』としてやり過ごすことにした。返事をすることもなく、無反応で私は再びたぬき寝入りを始める。今までは変に追い返そうとしたり、居留守を使おうとしたり小細工をしたのも良くなかったかもしれない。最初から普通の猫としていれば良かったんだ。


「あれ?黒猫さん使い魔じゃないのか。なぁーんだ。君の大切なご主人様が死んじゃうかもしれないのに。あー()()()()()()()かもしれないのに残念だなぁ」


 ドクンッ!!


 私の心臓が跳ね上がった。こいつ…なにか知っている。こいつが元凶に間違いない!!


「…」


 動きたい気持ちを抑えて、私は狸寝入りを続けた。そう、人間の言葉など分からない猫は今動いてはいけない。私は開けたい目を必死にこらえた。プルプルと不自然に力も入っていたかもしれない。全身の毛が逆立つ感じがしたが、今は我慢…我慢…。


「首切られて死んじゃうよ?」


 男の声が、吐息が…私の全身を悪寒が貫き、全身に鳥肌がゾワっと立った。

 その瞬間に、私は無意識に目を開けると、そこにはニタァっと笑う男の顔があった。


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