第7話 猫2(敵意大)って誰だよ
「ただいまー」
レイアがそう言いながら扉を開けると、中には3匹の子猫たちがいた。
それぞれ、全身黒っぽい体色の子、額がはちわれになってる子、白メインでちょっと黒が混ざった子と、毛色はそれぞれだ。
「紹介しますね。この子がラリア、こっちがイルリア、それでこの子がサリアです」
「は、はじめまして。ラリア、イルリア、サリア……ちゃん?」
「はいっ、みんな女の子です!」
紹介を受け、猫耳の人と猫と、どう挨拶に差を付けたら良いのか、付けない方が良いのかよく分からなかった。
その時である。ピコンとまた鳴った。
『注意:猫2(敵意大) 攻撃準備 要警戒』
ね、猫2? どれ? いやいや、誰?
そう思ってうろたえていたのも束の間、ラリアとサリアはレイアの足下にススッと移動したのに、一匹だけ、イルリアはその場を動かずこちらを向いていた。
猫2は、イルリアのことか。
名前紹介されたんだから、番号表示はやめてよチュートリアル。
「あら、イルリアはちょっと緊張してるみたいですね。ほら、こっちおいでイルリア」
「シャーーっ!!」
叫んだと思ったら、イルリアは背中の毛を逆立て、その小さな体に似合わぬ気合いをまとった。
俺は一瞬ひるんだ。その直後、イルリアがこちらに飛び込んできた。
とは言え子猫。顔に飛びかかる程のジャンプ力は無く、俺の太ももまで飛んで、爪を立てた。
爪が引っかかるジャッっという音が家の中に響く。チノパンだったから、ノーダメージだが。
「こらっ、イルリア! 命の恩人ひっかいたりしたらダメでしょ!!」
「みゃ?! みゅう……」
お母さんの『お叱り』は、声の大きさ・鋭さもさることながら、子猫には強く響いた様だ。
イルリアが見るからに肩を落とし、視線も落としてとぼとぼと、レイアの足下の2匹に合流する。
「もおイルリアったら! ごめんなさいね、わたしの子供が……」
「ああ、突然でびっくりしたけど、子猫はこの位元気な方が良いよ、きっと」
猫を飼ったことなどない俺なので本当にそうなのかは知らない。
ただまぁ、どこの世界のどの生き物でも、子供は元気な方が良いだろう。
「あ、そう言えばレイア。さっきの料理屋さんのお金……」
「え? ああ、気にしないでください! わたしも食べてますし、この子たちの分も買ってあります!」
「あいや、そうじゃなくて……必ず返したいと思ってるんだけど、この世界のお金、持ってないから……」
「カナタさん、さっきこちらに来たばかりですものね。後でギルドに行きましょう。お仕事、たくさんありますよ!」
ギルド。異世界定番、依頼書が掲示板に一杯あって、魔獣討伐のAランクとか薬草採取のDランクとか……
いやただ、俺、日本で普通のコンビニバイト者よ? 異世界で何か出来ることあるの?
「働き口があるのは嬉しいんだけど、俺多分、魔物討伐とか向かないよ? さっきのスライムの件でも、アレだし……」
「冒険者ギルドは向かないって言いたいんですね! 生活者ギルドにもお仕事ありますよ!」
「生活者ギルド?」
異世界転生で、生活者ギルドというのはあまり聞いた事がない。
冒険者ギルドは、力自慢の腕っぷしが幅を効かせてそうなイメージだけど、生活者ギルドって?
「生活者ギルドでのお仕事は、お裁縫とかお庭掃除とか、少し難しいのだと魔導具の組み立てとか、色々ありますよ」
「んー、コンビニバイトに近いのがあると、それっぽく仕事もしやすいんだけどなぁ」
「コンビニって、あの夜でも明るいお店ですよね? あのお店でカナタさん、どういうお仕事してたんですか?」
「うーん、商品補充して、レジ打って、店内掃除したりゴミを始末したり……」
「お店の中でのなんでも屋さん?」
なんでも屋さんと言われ、自分も思わず苦笑いしてしまった。
確かに、コンビニのバイトは幅広く何でもやる。ただそれ故、どれも専門性はない。
「そうだね、なんでも屋さんかも知れない」
「だったら良いお仕事があるかも知れないです!」
「へえ、どんな?」
「ギルドの受付です!」
受付。
あー……考えてみれば、レジ打つのもある意味受付だから、適性はあるのかも知れない。
「あ、でも、受付だけじゃなくて建物周りのお掃除とかも出来たら、少しお給料良くなります」
「へっ? この国って、受付の人は受付しかしないものなの?」
「はい、一般的にはそうです。皆さんそれぞれの仕事へのプライドが高いので、何でもやってくれる人は、重宝されます」
「へぇ意外。日本なんて、コンビニでは何でもやるのが当たり前だったし、それでも最低賃金近辺だったのに」
「さいていちんぎん」
不意にレイアが難しそうな顔をする。
人間社会の文化だからな、分からなかったのかも知れない。
「あぁ、えっと、1時間働く時に最低これだけ払わないといけないって決まりのこと」
「そういうのがあったんですか、前の世界は。ここはそういうのは無いので、カナタさん不満かも知れないですね……」
「いや全然! 地球よりお金使う機会も少なそうだし、ひとまず食べて行けて、住めれば良いよ。それでまず十分」
それより、と俺は前置きをした。
「子猫さんたち、ちょっと撫でても良い? さっきから足下でニャーニャー言ってるのが可愛くて」
「はいっ、ぜひ撫でてあげてください!」
レイアは余程嬉しかったのか、目を大きく開いてキラキラさせて頷いた。
※第10話までは毎日21時10分更新予定です。続きもよろしくお願いします。




