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第5話 ハンバーガーは落としただけなんだが

 城門を抜け、街の中に入ると、そこには人々の『生活』があった。

 門から伸びる道の左右には、外国のマーケットで見かける様な、屋根が付いた木で出来た屋台が軒を連ねている。

 扱っている物は、この辺りは食料品が多い様だ。フルーツらしい物、日本でも見かけるような姿の野菜、それから穀物。


 色々な物が売られている入口近くの市場を通り越しながら、レイアの後を付いていく。

 レイアが道を右に曲がるので、俺もそれに続く。チラッとレイアが、俺が付いてきてるのを確認し、更に進んでいく。

 もうこの左右は、さっきまでの屋台ではなく建物が並んでいる。鼻に香る良い香りから、この辺りが飲食店街であろうことは分かった。


「このお店です! ラピルちゃーん!」


 そう言いながら、レイアさんは中に入っていった。看板には魚の絵と、うるおい亭、の文字があった。

 いや、文字は読めたというより『把握出来た』という感じだ。言語理解のスキル、すごいな。

 うるおい亭のドアは、西部劇にでもありそうな、半開放型のドア。俺もその木のドアを押し開けて中に入る。


「はいいらっしゃい! ラピル、レイアちゃん来てるわよーっ」

「はーい、レイアちゃん、さっき凄い勢いで街の中駆けてたけど、どしたの?」


 と、ラピルと呼ばれた女性が木製のジョッキをいくつもまとめて持って、レイアと立ち話を始める。

 その女性は、茶色の緩いカールが掛かった髪の上に、長い耳が飛び出していた。……ウサギ?


「それがね! わたしが逢いたかった、大恩人が来たの! それが匂いと勘で分かったから、思わず駆け出しちゃった」

「はあー、さすが猫科。匂いも勘も、私の比じゃないわね」

「ふふーん、勘が鋭いのはぁ、今回は本当に特別だったから! カナタさん、こっちこっち!」


 手招きで呼ばれる。俺は立ち話をしている二人の所まで歩んだ。


「この人が、私の大恩人のカナタさん。地球の人よ、わたしと同じで」

「あれ? もう適性補正済みなの?」

「ううん、カナタさんは元々人間よ」


 適性補正? と、思うが早いかピコンと音が鳴る。


『適性補正:その存在の適性に合わせ、この世界での存在を補正する。聖職者が行う』


 ウィンドウの内容からすると、レイアには人になる適性があった、って事か。

 でその適性補正ってのを行うと、猫が猫獣人にもなれる、と。まさしく魔法だな。


「カナタさん! こちら、ラピル。わたしの友だちで、元々この世界の人なの」

「は、はじめまして」


 漏れなく噛んだ。

 ウサギ耳が気になってつい見てしまっていたので、少し気まずかった。


「はじめまして、カナタさん。席、空いてる所使ってくださいね」


 今お水持ってくるねー、と言って、ラピルさんがその場を離れる。

 俺がレイアを見ると、レイアは随分と機嫌が良さそうだ。


「ここに座りましょう、カナタさん」

「うん」


 レイアが手で指し示したのは、4人掛けのボックス席。

 日本のファミレスでもありそうな、ソファーっぽい席だ。

 テーブルの上には、少し古めかしい傘つき電球のようなものが釣り下がっている。


 俺が腰を掛けると、レイアも向かいの席に座った。


「カナタさん、さっきの話です。あの時はありがとうございました、本当に……」

「さっきの、って、ハンバーガーの話だよね。俺、猫にハンバーガーあげた記憶、本当にないんだよ」


 レイアは早くも感極まって目を潤ませている。

 けれど、こちらにその記憶が全くないので、俺としてはうろたえる他ない。


「カナタさん、公園でハンバーガーを食べた日のこと、覚えていませんか?」

「公園でハンバーガー?」

「はい、最初他の人間といらっしゃったカナタさんが、ベンチで寝てしまって、他の人間たちはその場から去って行きました」

「……それって、冬のこと?」

「はいっ、冬です!」


 少し思い当たることがあった。

 あの日……コンビニバイトの帰りに、同じ時間で別のバイトを上がった昔の友だちとハンバーガー店に寄って、テイクアウトした。

 買ったのは、いつもの『タマネギ抜き・ピクルス抜き』の、シンプルなハンバーガー。一番安いやつだ。


「それでカナタさんひとりになった時、わたしはそのベンチの下にいたんです」

「足下に、猫がいたんだ。気付かなかったな」

「はい、カナタさんはくうくう寝息を立ててて、そこでハンバーガーをわたしの目の前にポンと置いてくれました」

「……寝たまま?」

「はいっ、寝たままでした!」


 そりゃ覚えてない訳だ。

 しかもそれ、ハンバーガー置いた訳じゃない。落としただけだ。


「それじゃあ、レイアはそれを食べて、お腹を満たせた、みたいな感じなの?」

「いえ、それがちょっと違うんです……」


 と、レイアはもう泣きそうなその目を、更に潤ませ、微笑んだ。


「わたしはそのハンバーガーを、子供たちにあげました。子供たちも飢えていて、もう本当にギリギリのところでした。

 カナタさんがハンバーガーをくれなかったら、わたしの子供たちは生きることが出来なかった……だから、わたしのご主人様なんです」


※第10話までは毎日21時10分更新予定です。続きもよろしくお願いします。

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