第21話 まず下着買おう。
「ゴトロリの森?」
俺は思わず聞き返した。森の生き物なのか? ゴトロリ。
「はい、奥に行けば行くほど、たくさんゴトロリがいます」
「でも、常設の依頼なんだよね。そんなにいてお金になるなら、みんな殺到するんじゃ?」
「それがそうは行かないんです。みんな本当にゴトロリ嫌いが強くて、騎士団でさえ嫌がると聞きました」
おい騎士団。そこは職務として淡々とやらんといかんだろう。
「つまり、レイアはその常設依頼を受けてあの家を借りたり、子猫さんたちのご飯を稼いだり……?」
「主にそうですねっ! 街にまで侵入してくるゴトロリは少ないんですが、昨日のようなこともあります」
レイアが元気に言う。
「常設依頼か……今のところお金はたくさん入ったから、まずは生活基盤を固めたいな。レイア、時間あるなら付き合ってくれる?」
俺がそう言うと、レイアはぴょんと跳ねた。
「もちろんですっ! ごしゅ……い、いえカナタさんの為なら、わたし何でもします!」
「ご主人様呼びはさすがにやめてね、変な目で見られたくないから。まずは服が欲しいんだ、下着も含めて」
と、レイアは少し考えるように口元に指を当て天井に目を向けた。
少し回答を待っていると、パッと笑顔になる。何か思いついたんだろう。
「男性用の衣類でしたら、生活者ギルドの近くにありますっ。宿をギルドに伝えないとですし、丁度良いと思います」
「あ、そう言えば住所の登録もしないとだっけ。じゃあギルドに寄りがてら、服を買おう。あと必要そうな物は?」
するとまた、レイアは天井に視線を向ける。癖なんだろうな、可愛いけど。
「ナイフか短剣が1本あると、常設のゴトロリで討伐部位を切り取るのに便利です」
「あぁ、常設のゴトロリ退治の時は、ゴトロリを切らないといけないのか」
「はい。せっかく倒しても、ギルドに証明できないとお金もらえませんっ」
そうか。これからの俺のスタイルも考えないといけない。
生活者ギルドだけで、それこそゴトロリだけで稼いで生きていくなら、よく切れるナイフで十分だ。
けれど、もし冒険者ギルドに登録もして、もっと広い世界を歩くなら、今のうちに剣の扱いにも慣れたい。
「扱えるか分からないけれど、短剣にしたい。先々のことを考えて」
「短剣だと、冒険者ギルドの近くに武器屋さんがあります。生活者ギルドから少し離れてますね」
「まだこの街の地図が頭の中にないんだよなぁ、昨晩も暗い中歩いてたからよく分からなかったし」
と、俺が話し終えた瞬間、ピュインと久々に聞く音がした。
この音、確か前回はコンパスが表示された。今回は……
視界の外れ、俺の左斜め上の少し高い位置に、マップが表示されていた。
「ああ……これはまた便利な」
「え? また何か板が出ましたか?」
と、レイアは早速に聖魔法のレンズを目に当てた。
「ニャア?! この街の地図じゃないですかっ、街の掲示板にあるのとそっくりです!」
おっ、確定。これはこの街の地図のようだ。
全体の位置からすると、ここは東の端に近いところ。緑の光が付いてるのはここだろう。
「こう見ると、結構広いんだね。生活者ギルドはどこだろう」
俺が言葉にした直後、マップに新たに青色の小さな光が灯る。
「カナタさんっ、その青い所、生活者ギルドですっ!」
「おー……ガイド付きの地図機能か。これは便利だ、まだ行ってないところもデータとして出てるのはありがたい」
俺が昨日辿った道のりは、時系列的には、
南の門→うるおい亭→レイアの家→生活者ギルド→男酒場ルイス→教会→生活者ギルド→この宿。
これらが昨日行った場所の全てだが、まだ行ってない街の南側全域や、秘密にされそうな王城の見下ろし図まで、マップには含まれた。
チュートリアルの発言は微妙にヤバい気配があるが、コンパスにしろマップにしろ、これらは文句なく便利だ。
ただ、王城の見下ろし図が表示されているのを騎士団や城の人に知られると、多分マズい。
地図を意識するのは、本当に必要な時だけにしよう。
他人には見えないはずだが、例外があるといけない。慎重に越したことはない。
「じゃあ今日は、俺の服を買いに行きがてらギルドに寄ろう」
「それが良いと思います。生活者ギルドの近くは色々な小物なんかも売ってるので、必要なら買えますよ」
「必要……財布は欲しいかな。ギルドカード、買い物に使えるから現金そのものだし。現金もポケットにそのまま入れてたらクシャクシャになったし」
そう。この世界の紙幣、薄い。そして撚れやすい。
ちょっと雑にポケットに入れておいた100ドル札は、見事にクシャクシャ。
ギルドカードは金属で少しは厚みがあるので曲がらないが、これも入れられる財布は欲しい。
「財布やバッグを扱うお店、服屋の近くにあります!」
「そうなんだ。じゃ、服見て小物見て、それからギルドに行こう。子猫さんたちは大丈夫?」
「朝ご飯はあげてきたので大丈夫です! それじゃあ、行きますか?」
忘れ物、特になし。昨日ポケットに入れたままだから。
このまま出発して問題ないな。
「うん、早速行こうか。着替えがないままなんて、ちょっと嫌だからね」
俺が苦笑いすると、レイアはクスッと笑った。
「昨日よりも、カナタさんの匂いが強いです。あっ、臭いってことじゃないんです、猫科は鼻が利くので」
「えっ?! 俺既に臭ってる? あぁ、下着の替えがないからな、そこは……」
まず下着買おう。




