第18話 今日から俺は、ゴトロリの兄ちゃん
「こちらの箱を見たまま、動かないでください。強く光りますが、害はありません」
撮影室には、百科事典で見たような大昔のカメラがあった。
俺は案内されるまま簡素なイスに腰掛け、言われるまま背を伸ばし、箱に目を留めた。
「では行きます、3、2、1」
次の瞬間、ボンッという爆発音と共に、強烈なフラッシュが焚かれた。
目の前が真っ白になるが、箱を見ていろと言われているので、動かないでいる。
「……はい、お疲れ様でした。処理に少し掛かるので、ロビーにてお待ちください」
と、撮影室の扉が開かれる。
ルリィさんは右手の、ギルドの更に奥へ。俺は左手のロビーへと戻った。
「おっ、ゴトロリの兄ちゃんじゃねぇか。今日登録なのか?」
ロビーに戻るや、声を掛けられる。
見るからにドワーフ。角付きの被り物まで含めて、ドワーフの正装なのか……?
「はい、今日からお世話になります」
「なんでも100匹だって? よくやったなぁ。俺なんて1匹でも背筋が震えちまって、どうしようもないぜ」
ニカッと白い歯を見せた笑顔と共に親指を立てて言った。
……それ、誇らしい話か? いや、案外親指を立てる意味が日本の文化と違うのかも知れないが。
「まぁ、危ない生き物じゃなかったみたいなので」
「それにしても凄ぇよ、兄ちゃん。今度家にゴトロリが出たら、兄ちゃんに指名依頼するからな!」
またしてもサムズアップ。ドワーフのノリがよく分からない。
「あっ、カナタさん! 撮影、終わったんですね!」
掲示板の所にいたレイアが駆けてくる。
「うん、終わった。フラッシュが凄い眩しいのな」
「ふら……? あの『ピカッ』ってするやつですか?」
「あ、うん。それ」
「わたしも登録の時は腰を抜かしそうになりました。おっきな音もしましたし」
確かに。いくらカウントダウンがあっても、あの爆発音と強烈に眩しい光は、驚くよな。
「それにしても、宿が無いとどうしようもないな。レイア、宿屋さんってどの辺りにあるか分かる?」
「はいっ、わたしもお家を借りるまでは、小さなお仕事で稼いだお金で、宿に泊まってました!」
「……その宿って、子猫は大丈夫だったの?」
俺はふと疑問に思って言った。
レイアは相変わらずニコニコしたまま言う。
「わたしが獣人なので、子猫は家族のカウントで大丈夫でした!」
「なるほど、家族ならOKか」
と、話していると背中に俺の名を呼ぶ声が聞こえた。
俺はレイアに目配せし、カウンターに急いだ。
「カナタさん、こちらギルド登録証になります。再発行は有料なので、無くさないようにしてください」
ルリィさんが横長の革製のトレーに乗せて、俺の身分証を差し出した。
しかし見事だな。魔法がある異世界って言うと、どうしても科学は遅れてるイメージが強い。
けれど、これはどこからどう見ても、写真だ。
「あのルリィさん。少し聞いても良いですか?」
「はい、私の分かることであれば」
「この写真って、魔法で作ったものなんですか?」
俺が言うと、ルリィさんはキョトンとした顔をした。
「あぁ、提携先の方は魔法に馴染みがないんでしたね。これは提携先からの技術です」
「えっ、地球からの?」
「はい。過去に写真技師の方がこちらに来られた時に遺された技術です。そういった技術、写真だけでなくたくさんありますよ」
「ひょっとして、この、お金が『ドル』だったり、紙幣だったりするのも?」
俺は無造作にポケットに突っ込んであったドル札を1枚取り出した。
「それもそうです。印刷技術者の方が、祖国の紙幣技術を輸入したのが、このドル札の始まりです」
ほおー……過去にもたくさんの、色々な国の人が、この世界に転生してきているのか。
「ちなみに、この1ドルって大体どのくらいの価値があるものなんですか?」
「半切りのパン1つが1ドルくらいです」
「宿代の相場は?」
「短期か長期かで異なりますが、カナタさんがもし1週間以上連泊するのであれば、1泊当たり20ドル程度が並の宿ですね」
淀みなく即答。さすが生活者ギルドの責任者、生活関係の話は早い。
「依頼を受ける時は、このカードを提示すれば良いんですか?」
「はい。その際、依頼に設定されている期限や違約金などに了承して頂けたら、依頼の受諾となります」
「分かりました。また分からないことがあったら聞きに来ます」
俺はルリィさんに頭を下げ、新たな世界での身分を示すギルド登録証を手にした。
と、ピコンと鳴った。反射的に、胸がドクンと大きく強く打つ。
さっきの一件でチュートリアルのヤバさを目の当たりにしたが、今回は……
『情報:ギルドカードはデビットカードとしても使えます』
ん? ごく普通に有用そうなアドバイスだ。
何だか地球のCMみたいな表現が気になるが、これもルリィさんに聞いてみよう。
「あのルリィさんすいません、もう1点だけ良いですか?」
「はい、なんでもお聞き下さい」
「このカードにお金を預ける、みたいなことは出来ますか? 6,000ドルも持って歩くのは、ちょっと不用心で」
「あぁ! ごめんなさい、すっかり説明を忘れていました。ギルドにお金を入れることで、その分のお金をギルドカードの提示で使えます」
ほう、チュートリアルはしっかり真実を伝えてきた。しかも便利なやつ。
「ただ、屋台などは現金だけの対応のところも多いので、全額ギルドカードに入れるのはおすすめしません」
「それじゃ、1,000ドルだけ残して、残りはカードに入れたいです」
「はい、それではもう一度カードと、現金をお預かりしますね」
1,000ドルなら、高額紙幣だけれど10枚だけだ。
お財布、買わないとな。レイアもお財布持っていたし。
後は宿か。
レイアや子猫たちも遊びに来られる宿があると、より良いんだけどな。




