第17話 なんとこの世界、貨幣はドル建てだった
「いえ、一度認定したので、100匹で」
「いやいや、実際は88匹で、1匹当たり50ドルですよ? 差額600ドルは、ちょっと大きいんじゃ」
なんとこの世界、貨幣はドル建てだった。
しかも、今ギルドのカウンター越しに押したり戻したりしてるのは、異世界定番の金貨銀貨ではなく、紙幣である。
さすがにアメリカのドル札とは違い、もっと雑な感じだが、印刷された紙幣であるのは間違いなかった。
「良いんです! ギルドは信用商売です、一度正式に認定したものを覆す方が問題なんです!」
と、ルリィと名乗ったさっきのギルド責任者がハッキリと言い放った。
信用商売で、正式に認定したから覆す方が問題……そういう見方もある、訳か。
「分かりました……俺としても損はない話ではありますし」
「そう言って下さるとギルドとしてもありがたいです。ギルドがケチった、なんて噂は、正直困るんですよ」
なるほど。信用商売というのはそういう形で回るものらしい。
「それでは正式に報酬を支払います。まずゴトロリ100匹分のお支払いが5,000ドル」
さっきから押したり返したりしてた札束がこっちに寄せられる。
「そして、ゴトロリ搬出が1匹につき5ドルで500ドル、ゴトロリ関連の清掃は特殊清掃扱いなので500ドル」
俺はごくりと息を飲んだ。
この世界のドルがどのくらいの価値かは分からないが、もし地球のドルで日本円にしたら、100万円近い収入だ。
コンビニバイト、半年分程度。しかも異世界に来た初日だ。
ゴトロリがそんな定期的に涌くのかは知らないが、ゴトロリ専科で働いても食べて行けそうな気すらする。
「締めて6,000ドルが、本日のお支払い総額になります。ご確認下さい」
「は、はい」
確認をと言われ、手元に寄せられた紙幣を手に取り、数えていく。
……10枚ずつ縦横にして……6束。間違いなく、60枚の100ドル札だ。
「確かに。確認しました」
「それではこちらにサインを」
と言われた時、不意に思い出した。この案件、受けたの俺じゃない。レイアだ。
「あのすいません、今思い出したんですが……このお仕事受けたの、俺じゃなくてレイアです」
「はい、もちろん承知しています。レイアさんからカナタさん宛の委任状が提出されていますので、あなたのサインで大丈夫です」
ルリィさんが俺の手元に木の棒を置いた。よく見ると、先端に金属のペン先が付いている。
ビンに入ったインクも、俺の手元に寄せられる。簡易な蓋になっていて、指一本で開いて、俺はペン先をちょんと付ける。
この世界は名字は使わない方が良いらしいので、こう、かな。
俺は差し出された書類に、カナタ、と自分の名を記した。
もっとペン先が引っかかるかと思ったが、思いのほかスムーズに書けた。
「はい、ありがとうございます。これで依頼は終了になります。お疲れ様でした」
「あ、はい。あのルリィさん、俺まだギルド登録をしてないんですけど、登録は……」
「あら、そうだったんですね。それでレイアさんが……それでは、こちらの書類もお願いします」
そう言われる。ルリィさんが机の引き出しから書類を出した。
「聞き取りで記載していきますので。お名前は?」
「カナタと言います」
「提携先からの方で間違いないですね?」
「はい」
「成人されていますか?」
「はい、少し前に」
ルリィさんが書類のマス目にチェックマークを付けていく。
「当面の滞在地は決まっていますか? 宿でも良いですよ」
そう言えば、まだ宿も取っていない。
「宿はまだ取っていないです。今日の昼間に、ここに来たばかりで」
「まあ、それじゃあ来た日にゴトロリの駆除を? 働き者さんですね」
ニコッとルリィさんが笑みを見せる。
いや、別に働きたくて働いた訳でもなく、単に流れでそうなっただけなんだが。
「それでは、宿が決まったり、家を借りたりして住所が出来たら教えてください」
「はい、分かりました」
「あとは保証人ですが……レイアさんで良いですか? あとは、提携先からの方は、神父さんが保証されることも多いですが」
「そこは断固レイアで。おーいレイア、ちょっと来てー」
あのいさかいがあった直後に神父さんに頭下げに行くのは、ちょっと嫌だ。
「はいっ、カナタさん。どうしました?」
「レイア、俺の保証人になってくれないかな」
「はい喜んで!」
レイアは満面の笑みで目をキラキラさせてそう言った。
地球じゃ保証人なんて「ならない方が良いナンバーワン」の立場なのに、色々違うのかな。
「じゃあレイアさん、ここにサインをお願いします」
横に来たレイアがペンを取る。ん? グルグルっと丸を書いて、真ん中に三角?
「ハイッ、サインしました!」
「はい、ありがとうございます。この上の所に、カナタさんも」
俺は俺の名前を書く。あぁ、サインだから、真似されなければ別にそれで良いのか。
「それでは、最後にギルド規則の読み上げをします。大事な内容なのでしっかりと聞いていて下さい」
頷いた俺だったが……そこからが長かった。
ギルドでの依頼の受け方、依頼の区分、報酬算定基準の概要、危険手当などの加算の種類等々。
地球でよくある「読まない利用規約」を全部読み上げで聞かされる感じ。
「……と、規則は以上です。概要版のパンフレットをお渡ししますので、分からない事があればいつでも聞いて下さい」
と、ルリィさんが『やさしいギルド規則』と書いた小冊子を渡してくれた。
「全てに同意されましたら、度々で申し訳ないですが、この書類にサインをお願いします」
さすが役所のようなもの、書類があれこれと多い。これもサインする。
「最後に、ギルド登録証を作成します。撮影室にご案内します、こちらへ」
そう言えばギルドで身分証もらえるって話あったな。
俺はルリィさんの後をついて、ギルドのカウンターの奥へと進んでいった。




