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【完結】地球の提携先で、同郷の女の子(猫)とスローライフしたい ~チュートリアルが妙にしつこい件~  作者: 夢ノ庵


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第16話 従わなければただのささやきです

「何か見えたようですね。悪性の呪いは、なんと?」


 神父さんの、言葉は落ち着いている。

 けれど、言葉の抑揚が不自然だった。戸惑いなのか、興味なのか。


「……悪性らしい推奨をしてきましたよ」


 嘘を吐いても良かった。

 寧ろその方が、機転は利いてたのかもしれない。

 けれど、この神父さん相手に嘘が通用するとも思えなかった。


 だから俺は、目の端に映る『殺』の文字の出てる赤いウィンドウの『方向性』だけ伝えた。


「それこそ、その呪いの本性です。あなたがその言葉に従えば、あなたは破滅するでしょう」

「俺も……そう思います。これまではそんなこと無かったのに……」

「悪性の存在は必ずほころびを現すものです。それがたまたま、今だったということです」


 その言葉に、俺は反論も同調も出来なかった。

 沈黙。

 元々風も吹かず音の無い地下室だ、ただ静かにランプの炎がゆらりと揺れている。


「あ、あの、神父様」

「何かね? レイアさん」


 俺の背中から、レイアが言葉を出して沈黙を破る。

 神父さんも答えるが、さっきまでレイアに向けていた声音と、違う。

 レイアも地球から来てるからな……厳格派のルール的には、本来はアウトなのかも知れない。


「わたし、どんなことがあっても、絶対に、カナタさんに付いていきますっ!」

「それはお勧めしない。呪いは、近しい者をもむしばむ。あなたも呪いの影響を受ける」

「構いません! この世界で、わたしが唯一絶対に信じられる、唯一の人が、カナタさんなんです!」

「……そうですか。そこまで言うならば、私がとやかく言う筋合いではありません。自由になさい」


 半ば吐き捨てるように神父さんは言った。

 言い方が露骨に冷たい。レイアはもしかすると、この神父さんとも何かあったのかも知れない。

 そう言えば猫が獣人に変わる『適性補正』は、聖職者が行うとチュートリアルが言っていた。


 嫌な扱いをされてなければいいんだが……

 レイアをぞんざいに扱っていたとしたら、俺としても……

 このチュートリアルの『推奨』がまともな選択肢に思えてしまう。


 ……いや、違う。そんな発想自体が、もうチュートリアルに毒されてる。

 俺が自分を強く持たなくてどうする、チュートリアルに俺が使われては……


「カナタさん、街に戻りましょう。ギルド登録もして、宿も取って……ここでのことは、忘れましょう」


 俺の背中に温かい両手を当てたレイアが、消え入る声でそう言った。

 俺はハッとした。


「そうだね、レイア……今晩のここでのことは、俺も忘れたい」

「それが良いですっ……わたしはカナタさんの味方です。いつでも、いつまでも……」


 そう言って、俺の服をキュッと握るのが背中に伝わる。


「神父さん。呪いのことは、黙っていてもらえますか」

「それがあなたの選択なのですね?」

「はい」


 俺は言い切った。

 レイアと子猫たちと、俺と。

 平和なスローライフに、不穏な『殺』の一文字は要らない。


「ならば今日ここでは、何も起きなかった。清めは功を奏し、あなたに属する悪性の存在は消えた。……そうすれば満足ですか」

「……はい」


 言い方は気に喰わない。小馬鹿にするような口調。イラッと来る。

 けれど、今大切なのは言い争いじゃない。神父さんが黙ってくれると言うのだ、それに乗らない手はない。


「よろしい。ではもうここに用はありません。自由にお戻りなさい」

「はい。ありがとうございました」


 俺の言い方も、釣られて無愛想な言い方になる。

 と、


「ああそうだ、レイアさんにひとつ贈り物をしましょう」


 そう神父さんが言う。何か思うところがあったのか、神父さんの声音が少しだけ柔らかくなった。

 俺はつい眉をひそめたが、神父さんは我関せずといった調子で、地下室の端に進んで、何かを持って来た。


「これをあなたに渡します。聖魔法が籠められたレンズです」

「聖魔法が……?」

「はい。このレンズを通して覗けば、悪性の存在のささやきが見えます」


 俺の背中に貼り付いているレイアは、それを受け取って良いか確認したいんだろう、俺の顔を伺った。


「悪性の存在の禍々しいささやきも、従わなければただのささやきです。カナタさんが見ているものを、あなたも共有すべきです」


 神父さんのことを憎みかけたが、レイアに言ってることは真っ当だ。

 俺が、我を失ってチュートリアルの言いなりになりそうな時、レイアが見ていてくれれば……

 それは俺としても心強い。レイアが見ていてくれる……事実そうでなくても、そう思えるだけで強い。


「カナタさん……」

「レイア、頂いておきなよ。俺としても、レイアがコレの言うことが真っ当か見てくれるのは、気持ちが落ち着く」


 俺は物騒なウィンドウを手でつつきながら言った。

 端から見れば、何もない空間をつついてるんだろうな、俺。もう神父さんの聖魔法、光ってないし。


 レイアは少し迷った表情だったが、うなづいてくれた。

 神父さんの手から、モノクルのような片目だけの銀縁のレンズが手渡される。


「では……お二人に神の祝福があらんことを」


 深々と頭を下げる神父さんを一瞥し、俺は地下室の扉を開け放った。

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