第14話 推奨(強):直ちにこの場を離れる
神父さんの言葉に俺は、正直どうすれば良いのか分からず、固まってしまう。
「あなたに属するその存在が、あなたに悪影響を及ぼす物か、調べる必要があります」
神父さんの声音こそ落ち着いているが、断定する口調からは、警察官に問い詰められるような圧を感じた。
「こ、これはその……」
「ここでは危ないかも知れない。来なさい、教会の地下聖堂で儀式を行います」
「どうかしましたか、カナタさん、神父様」
俺たちの空気を察してか、レイアが急いだ様子で駆け付けてくれる。
「レイア」
「レイアさん、心配はいりません。こちらの男性に、少し良くないものが憑いているかも知れないので、清めるだけです」
「良くないもの、ですか……?」
「ええ。すぐに終わります。少し確かめるだけですから。レイアさんは応接でお待ちなさい」
穏やかな声でそう言った神父さんだったが、レイアから俺に視線が移動すると、その視線は一挙に厳しくなる。
「では、お二人とも、こちらへ」
そう言って、神父さんはきびすを返した。
俺はレイアと顔を合わせた。
「カナタさん。何か良くないものがって言われてましたが、心当たりは……?」
レイアの問いかけも、少しおっかなびっくりと言った調子だ。
「心当たりは、無くはない。けれど、良くないものかどうかは……俺も分からない」
そうこうしているうちに、神父さんは教会の建物に消えた。
俺たちもその後を追う。
*
地下への階段を降りる。結局レイアは言いつけを無視して、俺の袖を掴んだまま離れなかった。
神父さんは一度だけ困った顔をしたが、何も言わなかった。
ランプを手にした神父さんを先頭に、俺、レイアと続く。
階段を降りきった所には、重そうな鉄扉。
神父さんがガチャンと鍵を開けると、ギィィと嫌な音を立てながら扉が開いた。
「お二人とも、中へ。中の物には無闇に触れないようにして下さい」
ランプの光が室内に入る。俺たちも追って地下室の中に入った。
中は、右手側こそ祭壇の様な物があるが、左手側は雑然とした、物置き場のような状態だった。
「扉を閉めます」
部屋の真ん中に置かれた石の台にランプを置いた神父さんが、重たそうに扉を閉めた。
部屋の中はランプの明かりがあるだけで、既に何となく薄気味悪い雰囲気になっている。
「それではカナタさんと言いましたね。まずあなたの魂の履歴から拝見します」
「魂の履歴?」
俺の疑問符をよそに、神父さんは物置な所から四角い石のような物を持ち出してきた。
「それは?」
「魂の履歴を映し出す、聖魔導具です。危険な物ではありません……あなたにとっては」
と、ランプの横にその石の塊を置いた。
「この上に、手を」
そう言われた瞬間、ピュイーピュイーと甲高い音が耳に響いた。
『推奨(強):直ちにこの場を離れる』
いや、そう言われてもな。もう来るところまで来てしまったし。
神父さんも危険ではないと言ってるのに、それを拒否するのは腰抜け感が強い。
それに……ひょっとしてこの推奨って、俺にとって推奨されてるんじゃないのでは……?
あくまでチュートリアルにとっての安全確保がしたいから、わざわざ強まで付けて推奨してるんじゃないか?
……いや、それは考えすぎか。この雰囲気が怖いから、気持ちが勝手に理由を作っているだけだろう。
俺はチュートリアルの言う事を無視し、その石の天面に手を乗せた。
すると、あのステータスウィンドウが勝手に開いた。ただ、いつもより少し小さい。
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【魂の履歴/現況】
名前:相沢 カナタ
種族:人族
レベル:4
レベル経験値:1,056 次のレベルまで 960
スキル経験値:1,056
【スキル獲得可能】
・味見の達人: 500消費
・手荒れ防止: 1,000消費
状態異常
・チュートリアルモードON
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俺にしか見えないはずのステータスウィンドウに、二人がしっかり視線を合わせている。
この石は、ステータスウィンドウを可視化する魔導具な訳か。確かに、別に危険ではない。
「なるほど……あなた自身はこの意味は知っていましたか?」
「意味ですか? 見た限り分かる範囲で、ですが」
「あなたには、チュートリアルモードという我々の知らない状態異常が付与されています」
まぁ、うん。
うざい奴が付いてるのは間違いない。
「チュートリアルモードという状態異常こそ、魔性の本体である可能性が高い」
言いつつ、神父さんはポケットから小さな小瓶を取り出した。
神父さんが小瓶の蓋を取り、その中身を俺の前の地面にまいた。
と、突然ピロン音が何重にも重なって連打された。
視界の左端を見ると、ウィンドウがたくさん出ている。
けれどその全てが文字化けしていて、全く読めない。
「さあ……清めを始めましょう」
ランプの薄明かりに照らされた神父さんの表情は、俺には読み取れなかった。




