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【完結】地球の提携先で、同郷の女の子(猫)とスローライフしたい ~チュートリアルが妙にしつこい件~  作者: 夢ノ庵


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第13話 透明で邪悪な板はなんですか

 荷車に乗せて運ぶこと3往復。

 88匹のゴトロリを教会の前庭に運び終えた頃には、周囲から人っ子ひとりいなくなっていた。


「カナタさん、これで終わりですね。何だか人が避けて通ってましたね」

「そうだね。まぁ、みんなが大嫌いな生き物を山積みにして運んでるんだから、仕方ない」


 せっかく働きづめの地球から異世界に来たんだからスローライフしたい、と思ってたのに、初日からこれか。

 まぁ、実際にはどこの世界でもお金を稼がないと生活さえできない。理想は後回しだ。


 全てを運び終え俺がレイアと言葉を交わしていると、これまで前庭で腰を抜かしていた修道女さんもいなくなり、男性の神父さんだけになっていた。


「これであなた方が駆除したゴトロリは全てですか」


 神父さんの声は落ち着いていて、悲鳴を上げた修道女さんの様な心許なさはない。

 その道の専門職の神父さんならではなのだろうか、堂々たる風格があった。


「はい、これで全部です。こちらで処理して頂けると伺ってます」

「ええ。穢れた魔物たちを天に還すのもまた、我ら教会の仕事です。依頼番号は」


 依頼番号? と思っていると、レイアがさっと前に出て、メモ程度の紙片を神父さんに手渡した。


「確かに受け取りました。それでは処理を行います。少し彼らから離れてください」


 神父さんはゴトロリの山に向けて真っ直ぐ手を伸ばした。

 離れろと言うので、俺とレイアはゴトロリから少し距離を取る。

 と、神父さんの手の少し前に、光の小さな玉が現れた。


 これが、魔法、か。

 俺は初めて見る魔法に、内心強い興奮を覚えた。


 光の玉はある瞬間わっと大きく円盤状に広がり、平面的な魔法陣を形作った。

 神父さんが何かを呟いている。けれどその魔法陣が発する独特の和音の様なものが、その声をかき消していた。


 とその時。不意にピュイーピュイーと甲高い音が2回、俺の耳に響いた。

 こんな時にまた何だって言うんだ、一体。そう思い視界の端に目をやると、


『警告(強):危険なエネルギーが発せられます。

 推奨(強) 直ちにこの場を去る』


 と。俺はそのチュートリアルの「強」2つ重ねに、さすがにゾクッとした。


「ね、ねぇレイア。ゴトロリ処理の魔法って、人間にも危ないの?」

「えっ? あれは聖なる光なので、魔物にしか働かないです」

「それ、確実?」

「はい。わたし、前にゴトロリを持ち込んだ時にうっかり魔法の範囲内にいたんですけど、痛くもかゆくもなかったですよ」


 慌ててレイアに聞いたが、レイアは平然と安全だと言い切った。

 レイアの言葉を信じるか、チュートリアルを信じるか。

 俺は一瞬迷ったが、もう半歩、追加で距離を取るだけに留めることにした。


 ここで逃げたら依頼を投げたことになりかねない。

 報酬もそうだが、これから長く付き合うギルドの信用に傷がつく。それはマズい。


 俺が半歩下がった、次の瞬間だった。

 神父さんの前の魔法陣がパッと光ったと思った直後、空に真っ白な光の柱が立った。

 規模感がすさまじい。範囲こそゴトロリの周辺までだが、光の柱はどこまでも高く、天をつくように立ちあがっていた。


 光の柱が発する、コォー……という無機質な音が、徐々にやむ。

 それと共に、光の柱はその直径を小さくしていき、最後には空に吸い込まれるように消えた。

 光があった所には、いくつものこんぺいとうの様なキラキラした物が残った。

 気付けば辺りはもう夜で、教会の入口の僅かな光だけでもキラキラしてるのが分かる。


「カナタさん、あれが魔力結晶ですよ。拾っておきましょう」

「お、おう」


 俺はまださっきのチュートリアルのことを引きずっていた。

 いや、正確には、今でも意識のど真ん中だ。

 何故なら、ウィンドウが消えないからだ。普段なら認識できたら消える、はずなのに。


 視界の端のウィンドウを気にしつつ、俺はゴトロリ跡地で魔力結晶を拾う。レイアが持ってきていた袋に入れていく。

 刺さるほどではないがトゲトゲした結晶。

 均質で透明なたくさんの結晶の中に1つだけ、黄色い色違いがあった。


「カナタさんが今手にしてるそれ、女王ゴトロリの結晶です」

「女王ゴトロリ?」

「はい。これ、街の常識なんです。色違いを残すとあとが厄介で」


 そう言うレイアは機嫌良さそうな声だった。

 俺は残る最後の結晶を拾い、神父さんの下へと向かった。


「ゴトロリの処理、ありがとうございました」

「ええ。これはわたくし共の務め。またゴトロリなり他の魔物なりが捕れたら、いつでも持ち込んでください。けれど……」


 と、神父さんは眉間に皺を寄せた。


「あなたの左肩の前に浮かんでいた、透明で邪悪な板はなんですか」


 左肩、の前。

 そこには変わらずウィンドウが表示されている。

 俺は背筋が凍る思いだった。


「聖魔法の最中にそれは見えました。終えた今は見えていません。しかし」


 そこまで言うと、神父さんは一拍、間を置いてから、続けた。


「聖魔法で本質が照らし出され暴かれるのは、悪性の証拠です」


 更に眉に力を籠めた表情で、俺の左肩の前、他人からは空っぽのはずの位置を、じっと見据えていた。

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