第10話 非推奨:甲羅の上からの攻撃一切
レイアの後ろに続いて、街の中を駆ける。
レイアは足が速い。敏捷を上げた方が良かったかも知れない。
「ごめんなさい! 速く走りすぎました!」
曲がり角で待っていたレイアと合流する。
さっき筋力を上げたはずだが、走ってみてもあまり実感は湧かない。たった3だし、そんなものか。
「いや大丈夫。街の中だから迷子にもなりづらい。それで、ここの通りなんだよね? 食事の香りのする」
「はい。あそこにある『男酒場ルイス』からの依頼だそうです」
男酒場。何とも汗臭そうなネーミングである。
ゴトロリ退治は、そんな男衆でも嫌がるような代物なのか。
「じゃあ早速行こうか。ゴトロリで困ってる人がいるんだよね?」
「はい。依頼の内容としては、建物内のゴトロリの駆除。今は2階から降りてこない様に何とかしてる最中とのことでした!」
なるほど、2階に害虫は集まってる訳か。
まだゴトロリに出くわしてもいないが、何匹も気持ち悪いのがいたら、確かにちょっと嫌かも知れない。
俺はそんなことを思いながら、『男酒場ルイス』の入口のドアを開けた。
「お客さん! 今はゴトロリが出ちゃったから営業中止だ」
「いや、俺達は飲みに来た訳じゃなくて、ゴトロリ退治に来た」
「何?! もう手配が付いたのか、さすが生活者ギルドだ」
毎日トレーニングしていそうな屈強な身体付きの男性が出迎えてくれた。
「ゴトロリは2階ですねっ?」
俺とレイアは店内に入り、2階へと上がる階段を確認した。
階段の真ん中くらいに、樽やら机やらでバリケートが組んであった。
「お嬢ちゃんまでゴトロリの駆除するのか? あんなおぞましいのを」
「わたしは地球出身なので、ゴトロリ、怖くないです! こちらの男性もそうですきっと!」
きっと、という言葉が何かのフラグの様に感じられ、ちょっと背筋が寒くなる。
「じゃあ、あとは頼んだ」
その男はそれだけ言い残し、建物から飛び出していった。
既にフロアには誰もいない。厨房の方にも、ひと気は無い。
「まずあのバリケードをどけないと、2階に上がれないね」
「そうですね。ただ完全に取っ払っちゃうと、ゴトロリが1階に逃げるといけないです」
さっきまで人がいたであろう痕跡があちこちに残る酒場のフロア。
食べかけの皿、飲みかけのビール。
余程みんなゴトロリ嫌いなんだな。
「じゃ、俺達が通れるだけ樽とかをどけて、入ったら積み直しておこうか」
「それが良いです」
と不意にピコンと鳴った。
『警告:ゴトロリ増殖中』
うぇ……こんなわずかな時間で増えるような生き物なのか。
そりゃ緊急依頼を出したくなる気持ちは分かる。
「カナタさーん、通れるようにしたので、上がって来てくださいねー」
「分かったー、今行く」
既にレイアは大きな樽を1つどけて道を作ってくれていた。
俺も行かねば。急いで階段を駆け上り、どけてくれた樽の内側に入って、また樽を元の位置に戻す。
これで2階は、対ゴトロリ戦の専用施設になった。どんなんだ? ゴトロリって。
「あーもう、こんなに増えるまで無視してるなんて信じられない」
「そこに、もういるの? ゴトロリ」
「います、かなり。足下気をつけてください、ゴトロリ、うっかり踏むと足くじきます」
暗くなっている2階のフロアをじっくり見てみる。
おっと、アレか。ゴトロリ発見。
「見た感じ、ダンゴムシと言うよりアルマジロの方がピンと来るな、この生き物」
てっきりデカい虫を想像していたが、違った。
四つ足の生き物・ゴトロリの目が、暗闇の中でうっすら光っている。
あまり気味の良いものではないが、言うほど嫌悪感は感じない。
「で、どうやって退治するの? ナイフとか無いよ?」
俺が言うとレイアは口角を上げ、床をダンと強く踏みならした。
「こんな感じで、踏み潰します。スライムといっしょで、倒すと魔力結晶が取れます」
「結構見た目堅そうだけど、特に背中の部分とか」
「背中の甲羅の所はナイフも通らないので、甲羅ごと踏み潰す感じでお願いします!」
レイアの言葉にかぶせるように、ピュイーピュイーと2回鳴った。
ウィンドウは何を言い出すんだ?
『警告:ゴトロリ接近中
推奨:ひっくり返して攻撃を通す
非推奨:甲羅の上からの攻撃一切』
これは……
困ったな、チュートリアルの推奨とレイアの退治法が真っ向からぶつかっている。
「ねぇレイア、この生き物、腹の方は多分柔らかいんだよね? 腹側を攻めた方が良いんじゃない?」
「えっ? 強く踏みつければ、床と甲羅に挟まれた胴体の部分、簡単に潰せますよ?」
と、言ってる間に、足下にゴトロリが2匹寄ってきてた。
とりあえず、チュートリアルの言う事は無視して、ゴトロリを踏んでみることにした。




