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4 求愛行動③



「トール、こっちに来て!」

いつものように農作業から戻ると、家の中からリディアの声が聞こえてくる。

またも、良からぬことをしようとしているのだろう。

トールはウンザリしながらリディアの部屋へと向かう。


「お帰りなさい! 見て見てっ、セクシーでしょう! ムラムラするでしょう! さあ早く抱きしめて!」

「ああ、ただいま……」

部屋の中には、キラキラした目をしたリディアが、()()をもたげて待っていた。

なぜか頭には一角ウサギの耳が付いている。


どうしたんだ?

いつもだったら一角ウサギは丸飲みしているのに、耳だけ残すとか器用だな。

だが、なぜ頭に耳を付ける必要があるんだ?


「セクシーかは分からないが、ムラムラはしないな。抱っこするのか?」

「早く、早く」

催促するリディアを抱き上げようと手を伸ばすと、リディアがスルリと逃げて行く。


「え?」

もう一度手を伸ばすと、またも逃げて行く。


「抱っこしなくていいのか?」

「見た? 見た? 凄いでしょう。受け流したのよ! どんな攻撃だってパリィしてみせるわっ! ね、ね、ムラムラしたでしょう♥」

リディアは得意そうだ。

何となく理解した。頭にうさ耳を付けているのはコスプレなのだろう。


娘よ違う。

それは “パリィガール” であって、“バニーガール” じゃない。

トールはその場に力なく座り込む。


「うさ耳の生えたメスは男のロマンなんでしょう! 今度こそ大丈夫だって、ミカちゃんから教わったのよ!」

リディアはドヤ顔だ。

ミカちゃん、入れ知恵は止めてくれ……。


自分から巻き付いて来たリディアをそのままに、さてどうやって間違いを正そうかと考えていると、扉からノックの音がした。

リディアが “シャー” と威嚇の声を上げる。


え?

活発だが人見知りはしないし、物おじしないリディアが扉を開ける前から威嚇しているのは珍しい。

それでも、トールは巻き付いたリディアを降ろすと扉を開けに行く。

いつもは嫌がるリディアも、素直にトールから離れた。


扉を開けると、そこには何人もの人が立っていた。

全てが煌びやかな服をまとった、高貴そうな人達だ。どう見たって貴族。それも高位貴族に見える。

平民の、それも百姓でしかないトールは、平伏するべきかと一瞬迷う。


「おおっ、我が愛しの妹よっ!」

一番先頭にいた若い男性が、トールの隣にいたリディアを見た瞬間、両手を広げて突っ込んで来た。


ヒラリ。

リディアは華麗に男を躱す。


「会いたかった、妹よっ! 兄に抱きしめさせてくれっ!」

男は逃げたリディアに、またしても抱きしめようと迫って行く。


ヒラーリ。

リディアは優雅に男から逃げて行く。

パリィガールのリディアは、コスプレだけではなく、ちゃんとパリィ能力も習得していたようで、捕まえることが出来ないようだ。


パリィガール凄いな。ただ耳が邪魔そうだ。

事態が飲み込めないトールは、そんなことを考えてしまっていた。


「今更何をしにきたの? お呼びじゃないんですけど」

「おお、兄に話しかけてくれるのか。何と愛らしい」

ガバッ。

ヒラリ。

ガバッ。

ヒラーリ。

何度も抱き着こうとする兄。パリィガールの妹。

狭い家の中で、白蛇と煌びやかな青年がドタバタやっている。


「リディの兄……。なのか?」

リディアは、川岸に捨てられていた赤ちゃんだった。

だからトールが育てたのだ。


この14年の間、リディアの保護者が名乗り出てくるのではと思うことはあった。

でも、とっくにリディアに情が移っていたし、離れたくなくて、考えないようにしていた。

とうとう、その時が来たのか……。


「え、リディアは水蛇ですが、あなたも?」

ハッと気づく。

考えてみれば、水蛇姿のリディアを青年が追いかけまわしているのだ。

リディアを妹と言うのなら、この青年も水蛇ということなのだろうか?


「ああ、もちろん私も水蛇だ。元の姿に戻ると、また服を着るのが面倒なので、人化したままだ」

リディアを抱きしめるのを諦めたのか、青年がトールの質問に答える。と、見せかけて、リディアに抱き着きに行く。


「うりゃあっ」

ヒラーリ。

無理だった。


「ふんっ、今更何しに来たのよっ。私はトールから離れないんだからっ」

そう言うとリディアはトールに巻き付く。


「くっ、羨ましい」

青年がポケットから取り出したハンカチを、わざわざ噛んで “きーっ” と、引っ張っている。


トールはリディアを巻き付かれたまま、困惑するのだった。


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