3 リディアの夢
リディアはせっせと貯金に励んでいる。リディアには、大きな夢があるからだ。
それは、家を建てること。
夢のマイホームを建て、大好きなトールとの卵を産んで、幸せいっぱい夢いっぱいで暮らしていきたいのだ。
そのために、こっそり自分の鱗や牙を冒険者ギルドに売りに行ったりしている。
鱗や牙は、無理やり引っぺがすのではなく、たまに生え変わるので、落ちたものを集めている。元手ゼロ。いい商売だ。
リディアは水蛇だから家を建てるなら水辺がいい。ただ川沿いではなくて泉の畔。
リディアは知っているから。自分が川に流されて捨てられたことを。
魔獣のリディアは生まれた時からの記憶がある。だからトールに拾われた時のことも、トールがどんなに愛情深く自分を育ててくれたことも、全部憶えている。
自分の番はトール以外にあり得ない。
早く巣ごもり用の家を建てなければ。
自分の身体が大人に近づいて行くのが分かる。あと一年。ううん、半年ぐらいで身体が成熟して、発情期が来るだろう。
ふふふ、楽しみ。リディアは微笑む。
「さてと今日は、どれを売りに行こうかしら」
リディアは、自分の部屋の隅に置いている箱を開ける。
中には生え変わりで落ちた鱗や牙が入っている。
そんなに頻繁に売りに行くわけでは無いので、まだまだ何個も残っている。
カサッ。
部屋の窓際から微かな音が聞こえてきた。
この家は古くて建て付けが悪い。隙間風も大量に入って来るし、雨漏りもする。
虫だって入り放題だ。
だが、リディアの人族よりも何倍も優秀な耳は、音の違和感に気づいた。
バッ。
窓辺に置かれたランプを持ち上げる。
そこには、親指ぐらいの太さしかない白蛇が、こちらを見ていた。
「チッ」
舌打ちすると、リディアは蛇を鷲掴みにする。
蛇は苦しいのかもがいているが、リディアの手が緩むことはない。
「チー、チー、チー」
蛇が何かをリディアに訴えている。
「ふん。喋ることもできない下っ端じゃない。このまま握りつぶしてしまえば……」
リディアの言葉に小さな蛇は、慌てたようにもがくのを強める。
小さな蛇は、この辺りでよく見かける土蛇とは違う。
白蛇だが鱗には光沢があり、少し青みを帯びている。そう、リディアが蛇の姿になった時のように。
「何で今更……」
リディアは蛇を掴んだまま、外へと向かう。
「ん、どうしたリディ。もう飯だぞ」
竈で夕飯を作っているトールが、リディアに気づいたのか声をかける。
「部屋に蛇が入って来ていたから、外に逃がして来るね」
「おう、外は暗いから気をつけてな」
「うん」
そのままリディアは外へと出て行く。
家の近くには小川が流れており、そこまで進んで行く。
掴む力が徐々に強まっているのか、蛇はぐったりとしている。
「忌々しいわね。でも殺しはしないわ、ちゃんと伝えなさい。私のことは捨てたんだから、放っておいて。今更何を言っても一緒よ、こちらに関わるのは止めろってね」
リディアは蛇を川へと放り投げる。
意識が無いのか蛇はそのまま川へと落ちて行ったが、川上へと流れて行く。
きっと水蛇の国へと戻るのだろう。
魔獣の中でも高位の魔獣は人化でき、人族のように国を作って生活をしている。
水を支配する水蛇。
巨大な活火山に住む火の鳥。
広大な砂漠に潜むサンドワーム。
深い森の奥に群れをなす森狼。
その他にも様々な獣人の国が存在する。
ただ、人族の近づけない場所なため、人族は獣人の存在を知っているが、関わりはほとんどない。
「私を捨てたくせに、今更探すなんて、もしトールに手を出したら、ただじゃおかない……」
険しい表情のまま、リディアは呟くのだった。




