家族が変わるカモォ
「結局、ノックはどちらを選ぶつもりなの?」
池袋のビル20階三ツ星レストランにて、不慣れな手付きでワイングラスを持つノックに、マイコは問いかける。
ノックはしゅきまると婚約しており、その中でマイコとは不倫関係にある。
その問いに対し、ノックは真っ直ぐに返すことができず、真っ白なテーブルクロスが上品に掛かった
テーブルの上に二つ並べられたステーキに目線を落とす。
150gにして、1万円程する高級ステーキの肉汁が輝いていて、答えによっては修羅場になりかねない選択を
迫られているノックにとっては、その肉汁すらも鬱陶しく感じる。
静かに盛り付けられたサラダを見ている方が少し落ち着く気がした。
「まあ、急かしはしないわ、向こうの家族のことだってあるもんね。今は食事を楽しみましょ」
問いに対し、沈黙を続けるノックに対し、少し不服そうではあったが、マイコはそれを吞み込んで話を切り返してくれた。
マイコは女性にしては広い肩幅に、固い輪郭をしているが、そのギャップともいえる
優しい表情と目つきをしていた。
ノックにとっては、そんなマイコがとても魅力的でしかたなかった。
ノックは25歳の時に、しゅきまると婚約し5人の子供を授かっている。
結婚して5年経った今、5人の子供を授かったにも関わらず、仕事、友人との遊び優先で
育児に協力的ではなかったノックに対し、しゅきまるは強い不満を抱えていた。
その感情が爆発していまい、ノックには常日頃から強く当たるようなった。
子供も、物心つきたてであったが、家でのノックの居場所はとうになくなっていた。
そんな中、ノックは仕事の部署移動から、マイコと出会い、ノックはマイコの直属の上司となった。
マイコとは、最初の方は仕事の話しかしなかった。
第一印象というと、色々でかいな。。。という印象だった。
礼儀は正しかったし、仕事も程よくこなしてくれて、悪くない後輩だと思った。
少し月日を重ねて、徐々に仲が深くなり、仕事の不満、家族への愚痴を
吐き出し合える仲になった。
lineを通じて仕事以外のプライベートで他愛もない話をするほどにもなったが、
ノックが既婚者であることはマイコも知っていたし、恋愛になるかも、
だなんてその時のノックには、頭の片隅にもない。
ただ、マイコと話している時は、しゅきまるとうまくいっていないことも忘れられたし、
とにかく心地がよかった。
ノックはこの時、唯一の居場所を見つけられた気がした。
妻子との関係は相変わらず悪く、会話を交わすことすらなくなっていた。
長女のゆーは5歳になったが、母親しゅきまるの教えからか、ゆーもノックを煙たがっていた。
少ししてから気づいたのだが、妻しゅきまるが夜の歌舞伎町へ出かけていて、ホストにハマっていた。
しゅきまるがホストにハマっているということが、マイコとの不倫関係をノックの中で自然と正当化されていた。
マイコとの不倫関係がちょうど1年経った春、マイコから妻しゅきまると離婚して、結婚しないかと迫られた。
話を持ち掛けられた時点でノックは気持ち的には乗り気であったが、5人の子供の事もあり気が引ける部分もあった。
結婚の話というかは、マイコとの関係を終わらせるのか、妻子を捨てるかの二択を迫られている気がする。
ステーキは美味しいが、上手く喉を通さない。
5人の子供を残してしゅきまると離婚し自分の新たな居場所であるマイコと結婚するのか、決して居場所のない、口も聞いてくれないしゅきまると
物心がつきたてにして、全く好かれていない子供との生活を続けるのか。
冷静に考えれば後者を選ぶべきだと思う。
だが今のノックには倫理感よりも自分の気持ちを優先したかった。
何よりもこのステーキを食べ終えるまでに答えを出さないとマイコとの関係は
終わってしまう気がする。
ノックの唯一の居場所であるマイコとの関係、それだけは終わらせたくなかった。
マイコの食べる速度は恐ろしく早く、ノックはステーキをまだ2割しか食べたいないのに、
マイコはもう8割も平らげている。マイコのステーキが残り2切れになり、マイコがステーキを
口に運んでしまう前に、ノックは打ち明けた。
「マイコ、俺と一緒に暮らそう、結婚しよう」
さっきまで浮かない顔をしていたノックだったが、覚悟を決めた表情をしていた。
その日の夜、ノックは家には帰らなかった。
後日、ノックはしゅきまるに離婚の話を持ち出し、毎月、養育費を口座に振り込むことを条件に
無事しゅきまると離婚することになった。
しゅきまるとの馴れ初めを思い出すと少し、寂しい気持ちにもなったが、
今のノックには関係なかった。
今からマイコと家族として歩んでいく未来が楽しみでしかたなかった。
ノックは31歳にして、人生が変わろうとしている。
読みづらくてスンマセン