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第4話「匂いが暴く、禁じられた記憶香」

夜の宮廷は静まり返っていた。茜は手に薬草を取り、匂いを確かめる。微かに甘く、そしてどこか鉄分のような香り。昨日の事件と似ているが、混ざり方が違う。誰かが意図的に変えた痕跡だ。


「……この匂い、宮廷で何度も嗅いだことがある。でも、違う混ざり方……計画的だ」


茜は軽口を叩きつつ、指先で粉末をすくい、くんと嗅ぐ。匂いが告げるのは、昨日の事件が単独ではなく、もっと大きな陰謀の一部だということ。


扉が静かに開き、若い侍女が入ってくる。

「茜さま、皇太子殿下から急ぎの呼び出しです」

「はいはい、匂いの迷宮からの特別招待ですね」


書斎に入ると、景は机に向かい、何かを考えている様子。だが視線は茜に向けられ、無言の問いかけ。


「昨日の事件、匂いから何が分かった?」

「微量の“記憶香”が使われているのは確かです。でも、混ぜ方が昨日とは違う。計画的ですね」


景は静かに頷く。

「宮廷の中で、この香りを使える者は限られている。君の嗅覚は、それを追えるか?」

「匂いは裏切らない……でも、人の心の匂いはまだ学ぶ必要があります」


その時、侍女が慌てて報告に来る。

「茜さま、女官の間で密かに噂になっていることがあります。誰かが禁じられた薬草を扱っているらしい……」


茜は目を細める。匂いと噂をつなげると、事件の輪郭が少しずつ見えてくる。禁じられた薬草——“記憶香”は、嗅覚に長けた者でなければその真価を知ることができない。だが、匂いに残る微細な違和感は、誰かがそれを乱用している証拠だ。


情報屋の少年が現れ、囁く。

「匂いが示すのは、昨日の女官の死だけじゃない。宮廷の奥で、もっと大きな秘密が動いてる」


茜は指先の粉末を嗅ぎ、匂いの断片をつなぎ合わせる。微かな甘み、鉄分、そしてほのかな香辛料の匂い——これらは人の意図を語る。


「匂いは嘘をつかない。でも、人の心は……匂いだけじゃ見えない」


茜は独りごち、夜の宮廷を歩く。匂いの糸をたどれば、禁じられた薬草の乱用と、皇太子の家に隠された古い秘密の影がちらりと見える。宮廷の闇は深い。しかし、茜の嗅覚はますます鋭敏になり、真実の道を切り開く——。


最後に、景が静かに声をかける。

「君が匂いで追う限り、宮廷の秘密も逃げられないだろう」

「匂いは逃げません。でも、人の心は……まだ学ぶ必要があります」


茜は微笑む。匂いと嗅覚の力で、宮廷の真実を少しずつ解き明かしていく。次の事件が迫る予感とともに——。

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