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第3話「香りが告げる秘密の影」

朝の光が宮中の石畳に降り注ぐ。茜は手に薬草をとり、匂いを嗅ぎ分けながら独りごちる。


「匂いは正直だ。人の言葉や表情は嘘をつくけど、香りは裏切らない……でも、人の心の匂いはまだ難しい」


昨日、密売ルートの痕跡を嗅ぎ分け、微量の“記憶香”が宮中に潜んでいることを突き止めた。今日もまた、新たな匂いが手に入った。淡い甘みとほのかな鉄の香り——この組み合わせは、ただの薬草ではない。


「……誰かが意図的に混ぜたな」


扉が軽くノックされ、侍女が入ってくる。

「茜さま、皇太子殿下から書斎に呼ばれています」

「はいはい、匂いの迷宮からの招待状ですね」


書斎に入ると、景が静かに立っていた。無言で、しかし視線は鋭い。机の上には昨日の調査報告書と、宮中の薬草一覧。匂いの断片と文書が交錯する瞬間、茜はピンとくる。


「匂いだけでなく、文書も匂いを語るってことですね」

「……君の嗅覚は鋭い。だが、それだけでは人を裁けない」


茜は軽く鼻を鳴らす。

「わかってます。でも、匂いが教えてくれるのは、人の行動の痕跡。そこに心が混ざると難しいんです」


その言葉の直後、侍女が慌てて入ってくる。

「茜さま、また女官が倒れました! でも様子が昨日と違います」


現場に駆けつけると、倒れた女官の周囲に微かな粉末と薬草の香り。匂いを嗅ぎ分けると、昨日の“記憶香”とは微妙に違う混ざり方。誰かが昨夜の事件を利用し、次の動きを計画した匂いだ。


茜は指先に粉末を取り、慎重に嗅ぐ。微細な甘み、かすかな鉄分、そして……新しい香りの混ざり。匂いが語るのは、昨日の事件に関わった人物の動き、そしてその背後に隠れた計略。


「匂いは語る……でも、人の心はまだ、半分だけしか見えない」


情報屋の少年が現れ、ささやく。

「この匂い、宮廷の奥で誰かが計画してる証拠だよ。しかも皇太子の近くに関係者がいる」


景が茜の横に立ち、静かに言う。

「君が嗅ぎ分ける匂いの向こうに、人の秘密がある。それを追う覚悟はあるか?」

「あります。匂いは裏切らない……でも、人の心の匂いは、まだ学ばなきゃ」


茜は微笑むと、粉末を持ち替え、匂いの断片をつなぎ合わせる。匂いが告げるのは、宮廷の闇と、次なる事件の気配。微かな匂いの糸をたどると、皇太子の家に潜む古い秘密の影がちらりと見える。


その夜、茜は独りごちる。

「匂いは嘘をつかない。でも、人の心の影は……匂いだけじゃ全部は見えない。だから私は、嗅ぎ分けながら歩く。真実に向かうために」


匂いの中に、微かに残る恐怖と焦り。宮廷の闇は深い。しかし、茜の嗅覚はますます研ぎ澄まされ、真実への道を切り開く。

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