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異世界に来てプロポーズされた相手は第一王子だったけれど、どうすればいいのだろう?王宮に連れて行かれて戸惑うばかり

作者: リーシャ

きっとどんな困難にも、打ち勝つことができると信じているから。


「え、ちょ、なんですかいきなり!」


薄暗い森の中、突然現れた金色の瞳を持つ長身の男に、カリンは悲鳴を上げた。


変なものに遭遇。


背後には、さっきまで追いかけられていた巨大な猪のような魔物の気配がまだ残っている。


怖い、怖すぎる。


異世界に転生してきて早三ヶ月。


まだまだ知らないことばかり。


魔物との遭遇は日常茶飯事になりつつあったが、こんなドラマチックな出会いは初めてだ。


変な男がいるのだが?


「ようやく、貴女を見つけました。ああ、我が運命の番よ」


キザっぽいセリフ。


男は深々と跪き、カリンの手を取ろうとする。


ゾワッ。


カリンは反射的に手を引っ込めた。


「はあ?運命の番?何それ、中二病?」


胡散臭さ満点な男の言葉に、カリンは警戒心をあらわにする。


小説の設定を、引きずっている人にしか見えん。


漆黒のローブに身を包み、整った顔立ちをしているのは認めるが、言動が怪しすぎる。


こっちは顔が丸見え。


「中二病、ですか?初めて聞く言葉ですが……私は、永きに渡り貴女を探し求めておりました。魂の導きに従い、この地に辿り着いたのです」


辿り着いたと言われても。


真剣な眼差しで語る男に、カリンはますます混乱する。


はぁ?となるが、相手は全く怯んでない。


魂の導きとか、一体何のアニメだ。


「あのさ、私、三ヶ月前に地球からこっちに来たばかりのフツーの人間なんですけど。運命の番とか言われても、正直ピンと来ないっていうか」


「地球、ですか?貴女の故郷の名なのですね。なるほど、異世界からの転生者でしたか。やはり、私の魂が感じたのは間違いありません」


男はそう言うと、優雅に立ち上がった。


ビクッとなるが、ここは森。


その動きの一つ一つが、カリンにはまるで絵画のように美しく見える。


「私の名は、ラジィ・ヴォルディア。この地の第一王子です」


「ええええええええええ!」


王子様!?


まさかの展開に、カリンは思わず叫んでしまった。


異世界転生したと思ったら、運命の番が王子様とか。


あり得ない。


少女漫画でも、ありえない設定だ。


「そんなに驚かなくても。さあ、カリン様。危険な森の中です。私と共に、王都へお越しください」


ラジィは穏やかな笑みを浮かべ、再びカリンに手を差し伸べてきた。


無理、と首を振る。


しかし、と悩む。


警戒心はまだ拭えないものの、この状況で一人でいるよりは安全かもしれない。


さっきも追いかけられたし。


カリンは意を決して、その手を取った。


「……カリンで、お願いします」


「カリン、美しい御名ですね」


ラジィはそう言って、カリンの手を優しく握り返した。


助けてくれたんだよね。


温かい手のひらの感触に、カリンは少しだけ安心感を覚えた。


剣ダコがある。


王都までの道のりは、ラジィにとってカリンがいかに運命の番であるかを語る時間となった。


とは言っても、ピンとこないけど。


古代の予言書に記された魂の伴侶のこと、出会った瞬間に感じた特別な繋がり。


王子だな、この人。


カリンは半信半疑ながらも、ラジィの熱意に、うっかり引き込まれていくのを感じていた。


夢見がちらしい。


王都は、カリンが想像していたよりもずっと華やか。


魔法が生活に溶け込んでいるような、不思議な場所だった。


空を飛ぶ馬車。


魔法で光る街灯。


異世界だ。


エルフやドワーフ、といった異種族の人々。


全てがカリンにとっては新鮮で、まるで夢の中にいるようだった。


ほわっとなる。


ラジィはカリンのために、王宮の一室を用意してくれた。


いらないと言っても、譲ってくれないのだ。


豪華な装飾が施された部屋に、カリンは戸惑いを隠せない。


「こんなところに、私みたいな庶民がいていいんですか?絶対迷惑でしょう?」


「貴女は私の運命の番です。身分など関係ありません。どうか、遠慮なさらずに。いてください」


ラジィの言葉は優しく、カリンの心にじんわりと染み渡る。


でもなぁ。


それでも、長年培ってきた庶民感覚はそう簡単に拭い去れるものではない。


疑わしいのだが?


数日後、ラジィはカリンを王宮の庭園に誘った。


綺麗だ。


色とりどりの花が咲き乱れ、魔法で作り出された蝶が舞う美しい場所だった。


自分には見るだけで精一杯。


「カリン、貴女と出会えて、私の世界は色鮮やかになりました」


ラジィは立ち止まり、真剣な眼差しでカリンを見つめた。


びっくりする。


「初めて貴女を見た時、雷に打たれたような衝撃を受けました。この人こそが、私の探し求めていた魂の片割れだと、確信したのです」


確信、こちらはしてません。


「そ、そんなこと言われても……」


カリンは照れて目を逸らす。


素直なお言葉である。


地球にいた頃は、こんなにもストレートな愛情表現を受けることなどなかった。


受け取りにくい。


「信じられないかもしれません。ですが、これは紛れもない真実です。私は、貴女を愛しています」


愛している。


ラジィの告白に、カリンの心臓はドキドキと音を立てた。


本当に?


運命の番だとか、魂の繋がりだとか、最初は全く信じていなかった。


俯く。


ラジィの真摯な態度と、時折見せる寂しげな表情に触れるうちに、カリンの中で何かが変わり始めていた。


「あの……私も、まだよく分からないけど……あなたのこと、嫌いじゃない、です」


なんとか言えたよう。


精一杯の言葉を絞り出すと、ラジィはぱっと顔を輝かせた。


「それは、私にとって何よりも嬉しい言葉です」


ラジィはそっとカリンの手を取り、手の甲に優しく口づけた。


ハッとなる。


その仕草は優雅で、カリンの頬は熱くなるのを感じた。


口付けとは。


しかし、二人の間にはまだ大きな壁があった。


困ったと悩む。


カリンが、異世界からの転生者であるということだ。


かなりの問題。


自分の故郷のこと、家族のこと、友達のこと。


地球であることは言っているが、通じるとは思えなくて。


ラジィに話すべきかどうか、カリンは迷っていた。


話さない方が、メリットはあるような。


ある夜、カリンは自分の部屋で一人、地球に残してきた人たちのことを考えていた。


(元気にしてるかな?)


無事に過ごしているだろうか。


(仕事はどうなってるのか)


心配が募り、胸が締め付けられる。


(そもそも、私は死んでるのか?)


悶々とする。


(はあ、煮詰まってきてる)


頭を振る。


その時、部屋の扉がノックされた。


「カリン、入ってもよろしいでしょうか?」


ラジィの声だった。カリンは慌てて涙を拭い、返事をした。


涙声にはなってないかと焦る。


「はい、どうぞ」


ラジィは静かに部屋に入り、カリンの隣に腰掛けた。


カリンの顔を見て、何かを察したようだ。


「何か、ありましたか?」


「……あの、実は、私はこの世界の人間じゃないんです」


カリンは意を決して、自分の過去を話し始めた。


いそいそと。


地球での生活、事故に遭って気が付いたらこの世界にいたこと。


信じてもらえないかな。


ラジィは黙って、カリンの話に耳を傾けていた。


(話しちゃったなー)


全てを話し終えたカリンは、ラジィの反応が怖かった。


きっと、彼は失望するだろう。


諦めに似た気持ちで、座して待つ。


運命の番だと思っていた相手が、全く別の世界から来た人間だったのだから。


沈み込む心。


しかし、ラジィの口から出た言葉は、カリンの予想とは全く違うものだった。


「なるほど……更なる異世界からの転生者でしたか。それは、驚きです」


静かに紡がれる。


「やっぱり、引きましたよね……」


カリンは俯いた。


「いいえ。むしろ、ますます貴女に惹かれました」


ラジィは真剣な眼差しでカリンを見つめた。


「異なる世界で生きてきたにも関わらず、私の魂が貴女を求めた。それは、運命としか言いようがありません。貴女がどこから来たのかなど、私にとってはどうでもいいのです。大切なのは、今、貴女が私のそばにいてくれるということです」


ラジィの言葉に、カリンの目から再び涙が溢れた。


泣いてしまう。


今度は、悲しみではなく、温かい感情がこみ上げてきた。


「ラジィ……」


嬉しくて堪らない。


「カリン、どうか私を信じてください。貴女の過去も、未来も、全てを受け止めます。共に生きていきましょう」


ラジィは優しくカリンを抱きしめた。


嘘でもいいかもしれない。


その温もりに包まれ、カリンは初めて、この世界で生きていく覚悟ができたような気がした。


ここでしか生きられないのだ。


それから、二人は互いのことを深く知るための時間を重ねた。


こちらも知らないといけない。


ラジィは魔法のこと、この世界の文化や歴史をカリンに教え、カリンは地球での生活や価値観をラジィに語った。


かなり、オーバーテクノロジーになるが。


異なる世界で育ってきた二人だったが。


互いを尊重し、理解しようと努めるうちに、その心の距離は少しずつ縮まっていった。


デートをしたり。


居心地がよくて仕方ない。


もちろん、二人の関係を良く思わない者もいた。


反対勢力。


ラジィの婚約者候補だった貴族の令嬢や、異世界からの転生者であるカリンを警戒する者たち。


気持ちはわからなくもない。


様々な困難が二人の前に立ちはだかったが、その度に二人は手を取り合い、乗り越えていった。


嫌がらせもあったけれど。


ムカッとなり、ちゃんと名前は控えている。


ある日、王宮で盛大な舞踏会が開かれた。


煌びやかな招待状。


カリンはラジィにエスコートされ、初めて華やかな社交界デビューを飾った。


一応、マナーとやらを習えたし。


美しいドレスを身にまとい。


緊張しながらも、ラジィの隣に立つカリンは、まるで物語に出てくるお姫様のようだった。


鏡の先の自分は別人みたい。


舞踏会の最中、ラジィはカリンを人目の少ないバルコニーに連れ出した。


人がいなくなりホッとしてしまう。


夜空には満月が輝き、王都の夜景が一面に広がっている。


安心はできないけど。


「カリン、初めて会った森の中で、貴女はまるで小さな子猫のように怯えていましたね」


ラジィは懐かしむように言った。


「あの時は、本当に心細かったんです。まさか、運命の番が王子様だなんて、想像もしていませんでしたけど」


カリンは照れ笑いを浮かべた。


「運命、ですか。最初は私も、そんな都合の良いものがあるとは信じていませんでした。ですが、貴女と出会って、その存在を信じるようになりました」


ラジィはカリンの頬に手を添え、優しい眼差しで見つめた。


「カリン、貴女は私の光です。貴女がいるから、私はこの世界を愛せる。どうか、これからもずっと、私のそばにいてください」


心に染み渡る。


「はい、ラジィ。私も、あなたのそばにいたい」


カリンはラジィの言葉に、偽りのない気持ちで答えた。


涙が出そうになる。


異世界に転生してきて、たくさんの困難もあったけれど、ラジィと出会えたことは、何よりも幸運だ。


目が潤む。


二人は静かに見つめ合い、そして、そっと唇を重ねた。


月の光が二人を優しく照らし、まるで時間が止まったかのような、甘く切ないキス。


この先も、きっと様々な困難が待ち受けているだろう。


異世界という壁、身分の違い、カリンが元の世界に戻る日が来るかもしれない。


自信はない。


それでも、カリンはラジィと共に生きていくことを決めた。

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