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01-19.魔法使いの救助活動。

 神獣素材とするための、魔物捕縛の実習最中。


「監獄街には伝えておいた。人手が増えると、よろこんでやがったよ」

「そうかい」


 邪魔者を転移させたリンディは、アンジーと二人空を行く。


(連中が洞窟のことを知っていたのは、ただのブラフかねぇ……? 今のところ、周辺に動きはない。あとは中、か)


 ドラゴンの背に立つリンディは、小さく息を吐いた。


「洞窟内の状況はどうだい? アンジー」

「あー、それがな……ひとまず降りよう。ちょうどよさそうだ」

「うん?」


 老女を乗せた目玉の化け物が、すいーっと降下していく。リンディもまたドラゴンに指示を出し、地上へと向かわせた。

 旋回しつつ低空に達し、神獣は影へと消える。リンディが洞窟前の開けた場所に降り立ったところで。


「リンディ様!」


 洞穴の暗がりから、見慣れた桃色髪の教師が現れた。


「プリムラム……ペリーも? ユーラニアに、ウォルタード。終わった……って雰囲気じゃないね。どうした」



「洞窟内で、ラカルくんとアプリコットさんが! どこかに転移されました!」



「…………はぁ?」


 プリムラムの回答に、リンディはわけがわからず首を傾げて、眉根を寄せる。


(どういうことだい……あたしが担がれているわけじゃあ、なさそうだが)


 リンディはさすがに信じられず、押し黙る。だが彼らがにじませる緊迫感、疲労、苦渋は、事態の深刻さを窺わせた。


「アンジー」

「……見つけた」


 リンディの呼びかけに、教頭が短く答える。彼女の肩には、翼の生えたこぶし大の目玉が乗っていた。その視線が下がり、遠く地面の底を見ているようである。


「洞窟内ではあるが、奥まった場所だ」

(ほんとう、なのかい……ラカルと、アプリコット、が)


 リンディは視界に暗さを覚え、思わず額を押さえた。息を呑み、よろめこうとする体をなんとか支える。


「だが道が外と繋がっていない。転移させられたというのは筋が通る……ああ、落ち着けリンディ。二人は無事だし、脅威も見当たらない」

「――――ありがとう」


 気遣うアンジーにリンディは素直に礼を言い、細く息を吐いた。


(連中が先回りして罠を仕掛けていたか? だが現代の転移魔法式は、一定の危険がある場所への不同意転移はできない……目的がわからないな)


 顔を上げ、それぞれ表情の違う四人を見つめる。リンディはプリムラムに向かって、口を開いた。


「プリムラム・プリムローズ。状況を簡潔に」

「はい。魔物出現地点でいくら待っても魔物が出ず、引き上げようとしたのです。そこで二人が転移に飲み込まれ、残りの四人で固まって洞窟内を捜索。魔法でも追跡できなかったため、いったん生徒二人を外に連れ出しに来ました」

「よろしい。では選手交代だ。何が起こるかわからない。早急にアプリコットとラカルを救助する。あたしとアンジーで向かうから――――」



「わたくしも! 連れて行ってください!」



 それまで俯いて拳を握り締めていたユーラニアが、顔を上げ、悲痛な叫びを上げた。


「…………理由を聞こうか、ユーラニア・スタークラスター」

「リンディ様!? 生徒は置いていくべきです!」

「ワタシからもそのように進言いたします、学園長」


「おだまり!」


 リンディが一喝すると、抗議の声を上げていたプリムラム、ペリーが気圧されて引き下がった。だがユーラニアは決意を秘めた目を逸らさず、さらに前に出る。


「そうだ、あたしはあんたの話が聞きたい。ユーラニア」

「理由は。託されたから、です」


 さらに一歩。令嬢は足を踏み出した。


「続きを」

「はい。アプリコットは転移直前、わたくしが掴んだ手を、振り払いました。わたくしを巻き込まないように……いえ」


 両の手を見つめ、震わせ、それからユーラニアは強く拳を握る。


「〝先生を連れて、戻ってこい〟と! あの子の目は、そう言っていた!」


 リンディは必死な色を浮かべる彼女の赤い瞳を、優しく目を細めて見つめた。


「次。行ってあんたは何をする?」

「アンジー先生が、場所をお分かりというなら。洞窟を削岩し、道を開きます。土魔法は使えますし、魔法の使い手が複数いたほうが、こうした作業は早く安全になる。そう、教わりました」


 考えながら告げる生徒に、リンディは深く首肯する。アンジーをちらりと見ると、彼女も頷いた。


(時間はかかるが、二人がまだ安全だというならこれが正攻法。罠の存在がある以上、慎重を要する。まぁユーラニアがそこまでわかってるかは、微妙かねぇ)


 弟子の回答に、リンディは満足そうな笑みを漏らす。


「その通りだ。一人が削岩し、一人が安全を確保する。どこへ掘り進めればいいかが分かっていれば、あとは何が必要だ?」

「く、空気の確保! 僕がやります!」


 ずっと何かを言いたげだった皇子が、ユーラニアのすぐ隣に並び、声を上げた。


「この狭い洞窟の中なら、30倍に広がっても外から新鮮な空気を届けられる!」

「ウォルタード・ナイト。あんた普段手ぇ抜き過ぎじゃないかい? 実技試験結果と違いすぎる」

「ちゃんと爪を研いでただけだよ! こんなときの――――友達を助けるときの、ために!」


 リンディは思わず苦笑いする。だが深く頷き、ウォルタードの進言を認めた。しかし彼女の肩を、老女の手が叩く。


「わたしから水を差すよ」

「なんだいアンジー、いいところなんだよ」

「〝転移〟で直接救助しない理由。誰か」

「「「「あ」」」」


 生徒たちはもちろん、教師二人も声を上げてから絶句している。


(あーもぅ、たまらんね。良いところも、未熟なところも見せてくれる……教師冥利に尽きるってやつだ)


 おろおろとする四人を見て、リンディは肩を震わせた。


「くくっ……おいおい。プリムラムかペリーは答えてほしかったねぇ。転移罠が仕掛けられてたんなら、脱出する転移魔法に反応する、ブービートラップの存在が懸念される」

「あ、だからリンディ様は、すぐ助けに行かれないのですね……」

「なるほど……あれは危険です。通常の転移を捻じ曲げ、壁の中に押し込まれる可能性もある……」

「そうだ。一瞬の油断で命を失う。しかしまぁ……ユーラニア、あんただって気づいてよかったんだよ?」


 リンディはユーラニアに水を向ける。彼女は目を丸くしてから、口を大きく開いた。


「あ……もしかして! アプリコット、転移魔法使える!?」

「あれは元々、風属性を補属性強化して使うものだ。あの子は隠してるが、実力から言って使えないのはおかしい。それでラカルと一緒に、ここに飛んでこないのは?」

「魔法が使えない……でもアンジー先生は無事だと……なら罠に気づいて?」

「だろうねぇ。あの手のものは、常に魔力視してれば気づく」


 ふっとリンディが漏らすと、ユーラニアは目を瞬かせる。小首を傾げて見せると、弟子二号は跳びあがった。


「アプリコット魔力見えてるんですか!?」

「おや、気づいてなかったのかい?」

「キィィィィ! 見つけ出して、吊ってやります!」

(吊るならあんたが先じゃないかねぇ。最近、淑女捨てすぎじゃないかい? ご令嬢)


 地団太を踏むユーラニアを、リンディはにこやかに見つめる。それから口元を引き締め、瞳に力を込めた。


「アンジーの〝監視〟は魔力視を乗せられない。複数の魔法使いで目視確認を行いながら、救助を行う。プリムラム、ペリー。あんたたちは留守番だ。()()を警戒してくれ」

「明らかな人為がありますしね……わかりました、学園長」

「お帰りをお待ちしております、リンディ様」


 姿勢を正す教師たちに頷いて見せ、隣の教頭に視線を向ける。力強く頷く彼女に勇気づけられ、リンディは奥歯を食いしばった。


(待っていておくれ、あたしの生徒たち……アプリコット。ラカル。必ず、助けるよ)



 ★ ★ ★



 明かりの無い洞窟の最奥。僅かな風の流れを感じるそこの地面に、少女と少年が腰を下ろしていた。


「…………大きな魔力。魔法を使ってる。すごい勢いで、こっちに掘り進んでる、みたい」

「そうか。()()()はどうだ」


 青い瞳を輝かせ、どこかを見上げているアプリコット。周囲に視線を走らせながら、ラカルが彼女に向かって尋ねている。


「……明らかに罠の数が増えてる。どこかから流れてくる魔力も、止まってない。転移というより召喚? の準備じゃないかな」

「間に合いそうか? 皆は」

「わからない」


 アプリコットが首を振る。ラカルは首を曲げ、俯いた。


「すまない。俺が……お前を巻き込んでしまったばかりに」

「ラカル王子一人でも、変わらないよぉ。むしろ、私がここにいるから……そこら中にある転移罠に、誰か気づいたのかもしれない。そうじゃなかったら、誰か大変なことになってたかも」


 深刻な話を、アプリコットが明るく告げる。ラカルの表情は、苦くなるばかりであった。


「なら尚更だな、アプリコット。どう報いれば……」

「んー? お願い聞いてくれる系? ならさ」


 対称的に、少女の声は弾む。


「生きてここを出る。強い魔物を倒して、神獣魔法を覚える。私も、あなたも」

「出るのはそうだが、後のはなんだ?」

「私さ――――悔しかったんだよね」


 一転して、アプリコットは瞳を鋭くし、低く唸るように言葉を紡いだ。


「総合()()なんて、我慢ならない。リンディの一番弟子は私なんだ。一番は……私のものだよ」


 アプリコットの青い瞳が、輝いたままラカル王子を見る。


「勝負だ、ラカル」


 ラカルは呆気にとられた後――獰猛な笑みを浮かべた。かつて婚約者を見下したときより、ずっと生き生きと。


「あの方の弟子だからと、奢るなよ。その頂に手を伸ばすのは、この俺が、先だ」


 二人の言葉が洞窟の中を僅かに反響し、しんと静まる。


「…………あれ? あなた、もしかして――――」


 アプリコットの声を遮るように。

 暗闇の奥で、赤い光が輝き出した。


 ――――不気味な紋様を、描きながら。


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悪役学園長〜婚約破棄から60年、せめて皇子の孫に応報を〜(クリックでページに跳びます) 
短編版です。~3話までに相当します。
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