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その昔



牢獄のような部屋で牢獄のような場所で牢獄のような建物だ。



元々は城の蔵書の、その複写や筆写を保管する場所だったらしい。

 今、アリアの住まう―という言葉で表して良いほど生易しい状況ではないが―その場所は筆写によって作られたコピーを保存する場所だったようで、地下にはその作業に使われたと思われる机や文房具、そして粗末なベッドや日用品が残されていた。

"残されていた"―つまり。この建物はアリアに使われるよりも前に役目を終えていたことを意味している。

マッチのような形の建物は、床面積は大して大きくもないが、高さは天を貫くかと思うほどに高く、そのあまりの高さ故にどうやって本棚を入れたのかとか、どうやって一番上まで本を押し込んだのか、謎はいろいろとあるが―とにかく、この縦長の書庫にこれ以上入ることが出来ないほどの本が詰め込まれ、そして詰め終っている。

だからもうここに用はなく、だから次の書庫へと複写を保存することになった。


―そして今は誰も訪れる理由のない忘れられた場所となり、アリアの絶好の隔離場所にあてがわれている。

 元来が、人が生活する場所ではないため、ただ単純に灰色の煉瓦をを積み上げただけの無個性な壁や床や天井がそこに生活感をそして強固な強さを誇って華美さは一切取り払われた内装。シンプル過ぎるぐらいにシンプルだ。そして本の日焼けを防ぐ意味で窓は天井に何ヵ所か設置してあるだけだが、地下に住むアリアにはそれも関係ない。地下は常に凍えるほど寒く、季節の流れも時間の流れも一切存在しない。

普通の精神力では発狂しそうである。

しかし、そもそもどうして、アリアは追放されることになったのだろうか。

確かに彼女はヴァンパイアとして忌まれている。しかし始めからヴァンパイアだったのなら、そも城での生活―追放される前の生活すらあり得ないのではないか。


何かあるはず。何か事件が起こったはず。

何か何か何か―


それは。

今から数十年前―


城を震撼させた、あの事件。



その時の事件や事情を知っている国民は一人もいない。ということにされている。

実際のところはまことしやかな噂としてどこからか情報が流れ、当時で知らない者といえば子供ぐらいのものだったらしい。

―にも関わらず、誰一人として大きな声で触れ回ったりはしていない。そんなことをすれば、この国の威信にかかわる。そんなことをしても、自分たちに何の得もない。

だから、口を閉ざす。

かといって―無理やりに喋らせたところで、その話は要領を得ない。

ただ共通しているのは、王族の中に”キタナイ"ものが生まれたということ。


城の内部においては厳重に口封じを行い、内密に内密に“こと“を隠した。だから臣下たちの中でも、ほとんどが話を知らない。恐らくは、その数少ない誰かが話しを外部に漏らしたに違いないが、数十年経った今もわかっていない。どころか時間が経過し過ぎて、その当時からずっと生きている人間の方が珍しい。大抵は、事件のことを知って口封じに殺されたか、単純に寿命で死んだか、或いは生き永らえて隠居したかだ。

今、城の中で元気に働いていて、その事件を知っている者は、世襲によって親からその地位をもらった者くらいだ。

―それぞれ自分の父から、母から、ひっそりと語り継がれ続ける。

記憶してはならない。

けれど忘れてもならない。


―この国に起きた凶事、

吸血鬼(ヴァンパイア)の誕生。


ここで、もっと事件のことについて踏み込むには、少しこの国の歴史書を紐解く必要がある。

 この国は建国して以来、男たちによって治世が敷かれてきた。

しかしその昔、数々の改革を起こし国を良い方向へと国を率いた女王がいた。―いや、実際は女王ではなかった。歴史の都合上から後からそう呼ばれただけの話だ。

当時、彼女は未亡人だった。早くに夫を亡くし、その遺志をついで夫のやり残した改革を成し遂げうと思った。そしてそれが終われば、政界から離れるはずだった。

しかし彼女の存在はあっという間に国民に受け入れられ浸透していってしまった。民からも慕われ、その手腕は国の重役たちに認められた。


しかし。そんな女王にも唯一の欠点があった。男児を産めなかったことだ。

だから女王は、もっと政界で認められるように様々な改革を起こした。そして女でも立派に国を統制できるということを証明した。


結果的に女王に残されたたっと一人の娘が、その国の頂点に君臨する事を許された。

建国以来の快挙だった。

これで未亡人で仮の女王は肩の荷がおりるはずだった。娘は自分よりも優秀なのだ。

そして娘が翌日に即位式と誕生日を控えた、前の夜―



それは、突然に起きた。



絹をさくような、といえばあまりに陳腐ではあるが、それ程までにけたたましい悲鳴が城に響きわたった。家臣たちが慌てて娘の部屋に向かうと、そこには一匹の化け物がいた、という。

闇を切り取ったような、深く深く暗い、暗黒の目だった。

家臣たちの手にした灯りでぼんやりと闇に浮かび上がり、長く伸びた犬歯が白く光ったという。

その上、次期女王が寝ているはずのベッドに座る化け物の髪は長くベッドの上を這い、そしてベッドから床に伸びていた。燃え盛る赤い毛―

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